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220話 試されました!?

「あれが、魔王軍の陣ですね。陣というより……」


 イリアは眼前の野営地を見て言った。


 多様な形の天幕と色とりどりの旗。あれが魔王軍の陣だ。


「ずっと街が続いているような感じだな」


 皇帝出兵の件でイーリスに会いに行った際、王都周辺の野営地の数と規模に驚かされたものだ。


 しかしその時とは比べ物にならない規模の野営地が、地平線いっぱいに広がっている。十万以上の軍がここに集まっているのだ。


 周囲には多様な魔物が警戒や訓練に出ており、襲い掛かられればひとたまりもないだろう。


 一方の空は、ワイバーンを中心に空の魔物たちが周囲を哨戒している。

 コカトリスやハーピーなどフェンデルでは見たことのない魔物もいた。


 やがて、その空のコカトリスがこちらに気が付いたようで、不気味な鳴き声を上げる。


 一方で地上を警備していた魔物たちも、こちらにぞろぞろと向かってきた。


 だがその中を掻い潜るように、空を飛んでくる者が。


 黒い鎧……ソフィスだ。ただの黒い鎧が翼もなしにこちらに飛んでくる。


 ソフィスは俺たちの前に着地すると、深々と頭を下げる。


「ソフィスと申します。ヨシュア様とイリア様をお迎えに上がりました。魔王様がお待ちです。私がご案内を」

「ああ、頼む。しかし」


 俺が何かを言いかけると、黒い鎧は首を傾げる。


「……いや、いいんだ。それよりも頼む」

「はっ」


 ソフィスはその声に、俺たちの前をとことこと歩き始めた。


 すると、周囲の魔物たちは何事もなかったようにどこかへと散っていく。


 使者と分かったとはいえ人間……こんなに簡単に警戒を解くものだろうか?


 そうでなくても好奇の目で見てきてもいいはずだが……魔物達は皆、俺たちに不気味なほど無関心だ。


 俺はたまらず黒い鎧に言った。


「やっぱりお前はただ者じゃないな」

「私はただの魔王様の従僕。皆、魔王様の客人たるあなた方に敬意を払っているのです」

「俺には敬意というより、無関心に見えるがな」


 まるで俺たちがここにはいないような……


 野営地に入っても、魔物たちは自然体だ。

 ゴブリンたちは、ビールのようなものを飲みながら談笑している。彼らは俺たちが前を通り過ぎるも、全く興味を示さない。

 人間を殺すと声高に叫んでいるオークが、その横を通る俺たちに目もくれない。


 明らかにおかしい。


 やはりここで頭に浮かぶのはキュウビだ。

 ヨモツが言うには、魔王はキュウビとヨモツの師。二人が使っていた魔法や術は、魔王や他の魔王の部下が使えても何もおかしくない。


 恐らくキュウビがミノタウロスや神官を操った際に使った魔法……これを使っている可能性はある。


 もちろん、それにやられないようエントの葉のポーションを飲んできた。他にも、効果が持続するようにあらゆる薬草をそのポーションに混ぜている。もちろん、俺の魔法工房にストックもある。


 また実際に催眠を受けたミノタウロスたちから、赤い光に気を付けるよう伝えられていた。恐らく、魔法の兆候だ。


 俺がそれを警戒していると、黒い鎧が呟く。


「ご安心を。これは、彼らに対して敬意を払わせるため。お二人には誓って何もしないとお約束します」

「……その言葉を聞いたら、普通は警戒を深めるものだと思うぞ」

「そう、なのでしょうか? 申し訳ございません……人間の方の心情はあまり理解できないものですから」


 黒い鎧は歩きながら呟く。


「では、真実をお話します。魔王様は、お会いする前にあなた方を試すおつもりです」


 真実を話す、と言うやつの話を信じたことは一度もない。

 だが、今の言葉は真実としか思えない。


「何を試すんだ?」

「それは、この先を進めばわかります。ただ、一つ……」


 黒い鎧は足を止めると、こちらに振り返る。


「何があっても、魔王様は客人を傷つけません。もしあなた方の命に危険が及びそうなら、野営地の外までお連れします。ですが、交渉は」

「諦めろ、と」

「はっ」


 黒い鎧は仰々しく頭を下げた。


 そして、一際大きな天幕……山のような天幕に目を向ける。


 その天幕の上には、周辺で最も高く掲げられた漆黒の旗が靡いていた。


「あそこに魔王が……」


 俺はイリアと顔を合わせる。


「行きましょう」


 イリアの力強い声に、俺は頷いた。


 そして俺たちは、天幕へと歩みを進めるのだった。

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