218話 乗り込みました!
宴会場からフェンデル村に一旦帰還した俺は、皆と作戦会議を開くことにした。
「危険すぎる……あの鎧はハイドを使えるんだぞ」
俺の話を聞いたメッテはそう答えた。
メルクも珍しく真剣な表情で頷く。
「一体とは限らない」
「確かにヨシュア様の魔法は凄まじいですが……」
アスハもいいづらそうに言った。
魔王からの停戦交渉の申し入れ。
中間地点ではなく、直接魔王軍の陣幕に来てくれと言う。
今までも、戦線が膠着した際、何度か停戦について人間と魔王軍が話し合うことはあった。
その場合、やはり不利な方が有利な方に赴くのが通常だった。今はどちらが有利とはとても言えないと思うが……ビッシュらオークを退けたぐらいでは、確かに有利とはいえない。南にはフェンデルの人口の何十倍もの魔王軍の軍勢がいる。
とはいえ、魔王軍も使者には危害は加えたと聞いたことはない。
もちろん、それは人間が相手だからだ。だが、俺たちは主に亜人が集っている。どう出てくるか……
それに、あのゴブリンのグリニアは恨みを募らせているはずだ。ビッシュたちオークの仲間もいるだろう。俺たちの停戦条件に再び怒り、周囲に俺たちを斬らせるよう命じるかもしれない。
確かに危険、だ。
しかしイリアだけはこう答える。
「私も……内心は反対です。ですが、行かれるのなら必ず私をお傍に」
「イリア……」
皆、自分もと名乗り出てくれる。
しかし俺はこう答えた。
「もともと……イリアにだけは一緒に来てもらおうと思っていた」
皆、ずるいとは言わない。
イリアの戦闘の腕は誰もが同盟一と認めている。
それに同行者があまりに多ければ、戦いの際、皆気を遣う相手が多くなる。俺とイリアだけのほうが、却って安全というわけだ。
無言で皆、こくりと頷く。
そんな皆に俺は言う。
「……とは言ったが、いざとなればデーモンのロネアを召喚する。それに、皆にも頼みたいことがある」
「頼みたいこと?」
メッテが俺に訊ねた。
「あれを……作っただろう? そして狐人たちはハイドの達人。ノワ族たちもいる」
「なるほど。意表はつけるな」
「最悪、それを使って、敵を脅迫する……今日明日で、準備を整えよう。皆、協力してくれるな?」
俺の声に皆頷いて応えてくれる。
ユミルはこう言った。
「もちろんじゃ! それと、爆弾の新型ができたのじゃ! 前よりも大きな爆発を起こせる!」
「メルクとアスハも新しい魔法を編み出した。安心する」
フェンデルの皆の力が合わされば、もう怖い物は何もない。
ここで俺たちの力を示し、もう二度と魔王軍がフェンデルを襲ってこないようにする。
魔王とキュウビの陰謀も気がかりだが、まずはそれが一番重要だ。
もちろん、あわよくば魔王の陰謀を探れるといい。
いずれにせよ、あの黒い鎧が何か秘密を握っているのは間違いない。
黒い鎧の動向には、あの交渉の時も気を付けないとな……
俺は、来る交渉の日に向けて準備を進めるのだった。




