215話 計画しました!?
「よし……結構早く着いたな」
目的の岩山の頂上で俺は呟いた。
ソルムも俺の隣で頷く。
「馬で上がれる山ですからね。歩きで上っても恐らくは三十分ほどですから、上り下りの時間も許容範囲でしょう。平地も多い……それに」
「ああ。戦況も掴みやすい」
俺とソルムは、遠く南方に立ち込める煙に気が付く。
あの下には南方の都市と魔王軍の宿営地があるはずだ。
ソルムは言う。
「南方の諸都市にもすでに皇帝自ら援軍に来ると伝わっているはずです」
「となれば、ますます勢いづくな」
ノルドスや他の軍がやってくるまで十分に持ちこたえられそうだ。
「宴会場を整える時間は十分……アスハも来てくれたし、それじゃあ色々と計画を立ててみるか」
俺はアスハが紙を手に下りてきたのを見て言った。
「ヨシュア様、フェンデルから持ってきました。この周辺の地図です。だいたいの高さも分かるようにしてあります」
「いつもながら速くて助かるよ。ありがとう、アスハ」
何も言わずとも、もうアスハはこうして地図を持ってきてくれるようになった。
俺はその地図を受取り、即席の作業台の上に広げる。
ソルムは感心したように地図を覗き込んで言う。
「なんと詳細な。以前より描かれていたのですか?」
アスハが頷く。
「以前、王都の救援に行った時に、たしかに地図というのは便利だなと。帰ってきてから、私たち天狗でフェンデルと周辺の地図を作っていたんです」
その言葉通り、フェンデル近辺の地勢は地図化されている。
メルクが呟く。
「皆、王国への遠征で学習した。メルクは何もしてないけど」
「そんなこと言って。森の中に何があるかは、メルクさんが調べてくれたじゃないですか」
アスハが言うと、メルクは誰でもできると答える。
しかしソルムは首を横に振る。
「見事な連携の賜物というわけですね。これほど詳細な地図があれば……なんにでも役に立ちそうです」
アスハとメルクは少し恥ずかしそうな顔をする。
褒められて嬉しいのだろう。
俺は頷く。
「本当に何にでも使える。それじゃあこれを写す形に、宴会場の設計図を作るか」
まずは山頂付近の平地を建物を作れるように均していこう。平地以外にはあまり手を加えず、自然の地形を活かす。
山頂付近には宮殿風の建築群を建てていきたいが、それだけではあまりに殺風景。
土を持ちこみ、エクレシアやエントに頼み周辺の山の植物を少しずつ植えてみるか。東屋も建てれば、ちょっとした庭園の完成だ。
貴族の子でもあるソルムから助言をもらい、俺たちは設計図に宴会場の施設を描きこんでいった。
イリアやメッテたちの提案も聞きながら。
「こんなものでいいか……」
「ええ。もしこれができれば、どこの王侯貴族が見ても、驚くような場所ができるでしょう。しかし……」
ソルムは本当に作れるのかと不安そうな顔を見せ、それにと続ける。
「いくらイーリス相手とは言え、こんなものを無償で提供していいものでしょうか?」
「もちろん俺たちにも利があるようにしてある。そこは、大丈夫だ」
「ふむ……ともかく、私やヴァースブルクの住民も協力しましょう。築造はもちろんですが、人の王侯貴族を迎え入れる以上、管理人も人間のほうがいいでしょうからな」
「そうしてくれると助かる。それじゃあ、皆」
俺の言葉にイリアたちは頷く。
「人間の方々も驚くような場所を作りましょう!」
そうして、俺たちの宴会場作りが始まった。




