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213話 壮大な計画でした!?

「陛下、ご決断を!」

「ノルドス陛下の檄に応じ、我らも魔王軍と!」


 トーレリアの王宮の中は、出兵を促す武装した貴族たちでやはり溢れていた。

 平服の者たちの中には、王国の復興がまだ道半ばであるから派兵を見合わせようと主張している者もいるが、圧倒的少数のようだった。


 俺はイリアたちに入り口付近で待機してもらい、玉座へと向かう。


 玉座ではイーリスが座っていたが、やがて歩み寄る俺に気が付いた。


 俺はそんなイーリスの前で片膝を突く。


「陛下、ご無沙汰しております」

「ヨシュア……私は休憩を取るわ。あなたも来なさい」


 そう言うと、イーリスは王の間を出て廊下を進み、隣の御休所に入る。


 イーリスとそれを追う侍従と護衛に、俺もついていく。


 イーリスは椅子に座り、侍従たちに部屋から退出するよう命じた。


 ばたんと扉が閉まり、俺とイーリスだけになると、イーリスもテーブルへ上半身を倒しばたんと音を響かせた。


「あー……もう、疲れた」

「……心中は察するよ」


 騎士団にいた頃は戦いのことだけを考えてればよかった。


 だが、今は王。あれこれやることが山積みなのだろう。


 イーリスはげんなりとした顔をこちらに向ける。


「そんなことより、随分と早かったわね……来てくれるとは思ったけど、ソルムに手紙を送って一か月しか経ってないのに」

「空から来たんだ」

「あの、天狗に運んでもらったの?」

「いいや……まあ、そういう道具があるんだ。それよりも」


 イーリスはこくりと頷く。


「まさか、ノルドス三世がこの時期に聖戦を宣言するなんて……」

「なにか変わった様子はないのか? ノルドス三世がおかしくなったとか」

「いいえ……むしろ、密偵からの情報だと、ノルドス三世は随分と前から大規模な派兵の準備を整えていたようなの。すでに兵を率いて帝都を出ているそうよ」

「南方の都市が落ちてすぐってことか?」

「恐らくは……」


 キュウビによって皇帝が操られていると思ったが、もともと皇帝の考えとして南方への派兵は頭にあったのだろう。


 皇帝ともあろう者が身辺の警護を怠るとも考えにくい。キュウビといえど接近は容易ではないだろう。


「帝国貴族は置いておくとして、この国の貴族たちの様子は?」

「あなたからもらったポーション。あれを何本か、使わせてもらったわ」


 エントの葉で作ったポーション。ヴィンスを正気に戻したポーションでもある。


「声高に戦いを叫ぶ者、もともと穏健で知られていたけど今回の戦いに賛成な者……彼らの食事や酒にポーションを混ぜた。でも、彼らは態度を変えなかった。皆、魔王軍への恨みもあるし、何もおかしいことは言っていない。王国人は皆、少なくとも魔王軍に報復したいと思っている」

「もう、派兵は避けられない状況か」


 イーリスはこくりと頷く。


「変に反対すれば、それこそ私が魔王に操られていると言われかねない……問題は、どれだけの兵力をここに残せるか。あなたの言って居たキュウビに対応できるように」

「そこは今、ソルムにヴィンス殿を呼んでもらっている」

「南方神殿の長……たしかに彼の言葉なら、貴族たちも耳を貸してくれる。十分な兵を王都に残せるかもしれないわね」


 それなら少し安心できると、イーリスは表情を緩める。


 だが、俺の顔が不安なままだからだろうか、イーリスは首を傾げた。


「まだ何か懸念が? 諸外国のことは私も心配だけど」

「裏で何かが起こる……たしかに俺も心配だ。だが、何か違う気がして」

「違う気?」

「後方をかく乱するために南方へ軍を集めるんじゃなくて……そもそも、南方に軍を集めることが目的だったとしたら」

「どういうこと?」


 分からないといった顔のイーリスに俺はこう続ける。


「魔王軍の動きも妙なんだ。以前よりもはるかに多くの軍勢を南方に投入してきている。だからこそ、今回はいくつかの南方の都市を落とせた……が、今は攻めあぐねている」

「なるほど……自分にとって都合の悪い者を人間との戦いで死なせようとして……随分とまどろっこしいことをするわね」


 イーリスは、あるいはと続ける。


「言葉は悪いけど、壮大な口減らし……だったりしてね」


 すぐにイーリスは苦笑いを浮かべる。


「ご、ごめん。わけわからないこと言っちゃって」

「いや……そうかは分からないが、死者が大量に出るのは間違いない。もしかしたらそれを……」


 魔王は利用しようとしているのだろうか?


 生者の命を代価に、何かを生み出す……その何かは、キュウビやヨモツの願いも叶える。


 つまり……死者を復活させるのか?


 いや、すでにいくらでも死者は出ている。利用できるならしているだろう。一度に大量に死ぬ、という現象が必要なのだろうか。


 部下である魔物たちをも犠牲にする……いや、魔王軍のまとまりのなさを見れば、反抗的な者たちを消したいというのは頷ける。口減らしと言うよりは、粛清が目的の可能性もあるな。


 いずれにせよ、あり得ないことではない。


「ともかく、もう人間側を止めることは無理だろう……魔王軍も引き返すことはないはずだ」

「ええ。この雰囲気では、私も自分で兵を率いなければいけないわ。この時期に国を留守にしないといけないなんて」


 イーリスははあと溜息を吐いた。やはり不安は拭えないようだ。


「必要なら、俺がここに来るのに使った船もある……数日で南方と行き来できるから、心配するな」

「ほ、本当!?」

「ああ、もちろん秘密にしてもらうが」


 イーリスはもちろんと顔を明るくした。


「……あとイーリス。君に一つ頼みたいことがある」

「頼みたいこと?」

「皇帝や他国の王や諸侯に書簡を送ってほしい。戦いの前に南方で一度集まり、宴を行いたいと」

「それはつまり……王や諸侯を」


 人質にする。それもできるな。だが、それは……


「それは最悪の場合だ。そもそもそんなことをしたら、フェンデルに人間の軍勢が押し寄せる。あくまでも、皇帝たちが正気か確かめたいだけだ」

「分かったわ。新王として挨拶したいという大義名分もある。きっと多くの者が宴に集まってくれるはずよ」

「ああ、よろしく頼む。そうしたら俺は一度フェンデルに戻り、どこが合流場所に相応しいか決めておく」


 その言葉にイーリスは首を縦に振ってくれた。


 その後、ヴィンスが王宮にやってきた。

 彼の言葉のおかげで、貴族たちも王都に十分な兵を置くことに賛成してくれた。魔王軍との戦いはもちろん皆賛成だが、皆アンデッドへの恐怖は消えていなかったのも影響したようだ。


 俺はソルムと合流すると、再びフェンデルへと帰還するのだった。

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