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212話 沸き立っていました!

「あの森なら見つかることもないだろう」


 俺は街道から森を振り返って言った。


 飛行艇は王都近くの森に着陸させた。エクレシアをはじめ、五十人ほどの亜人によって守ってもらっている。


「まさか、一日で到着するとは思わなかった」


 メルクの声に俺も頷く。


 フェンデルから王都近くの森まで、なんと一日で到着した。

 陸路なら一か月の距離をだ。


「俺も驚いたよ。山も森も簡単に超えられたからな……」


 一か月分の食料を積み込んだり、王都へ向かう準備をする時間のほうが長かったかもしれない。


「それより皆、分かっていると思うが」


 俺の声に、イリア、メッテ、メルク、アスハは頷く。四人とも、以前の遠征でも使用したフード付きの鎧を身に着けている。


 メッテが言う。


「以前と同じように、なるべく人前では角は見せないようにするよ」

「でも、王都の人たちなら私たちを歓迎してくれると思いますが」


 アスハの声に、俺の隣を歩くソルムが答える。


「王都の人々はそうでしょうね。ですが今、王都には王国中の貴族や軍勢が集まっているはずだ……彼らの中には古い考えの者もいるでしょう。用心なされたほうがいい」


 ソルムはそう言うと、俺に顔を向ける。


「ヨシュア殿。私はまずヴィンス殿を訪ねてこようと思います。現在、王都の南の街にある神殿にいるようですから」


 ヴィンスは以前、魔王軍と戦おうと神殿騎士団と義勇軍を率いていた神官長だ。ソルムの治めるヴァースブルグへ意気揚々とやってきた。


 しかしそれは彼の本意ではなく、恐らくはキュウビに操られていたようだった。そこを俺たちがエントの葉で正気を取り戻させたのだ。


 彼はこのトレア王国を統括する南方神殿のトップでもある。彼の言葉があれば、王国の貴族も耳を傾けるということか。


「だが、ソルム。あの人も魔王軍と戦いたい思いは一緒だ。あの時はその時期でないと思っていただろうが、皇帝ノルドスの言葉ならと今は賛同しているのでは?」

「一度自分が操られたのです。彼もノルドス三世の急な出兵を少し妙に思っているはず……あの方の説得は任せていただきたい。ヨシュア殿にも恩を感じておるでしょうし」

「分かった……なら、そっちはソルムに任せる。俺はまず、イーリスに会ってくるよ」


 そうして俺たちとソルムは、一旦別れることにした。


 俺たちはそのまま王都への街道を進んでいく。


 久々に見る王都の周辺はいい意味でも悪い意味でも、以前より活気があった。


 王都の周囲には、無数の野営地が築かれている。


 思わずメルクも呟く。


「いっぱい人が集まっている」


 王都に逃げてきた王国人もいるだろうが、以前俺たちは過剰なほどの家を建てた。避難民の野営地は少ないはずだ。


 陣幕の上に翻る煌びやかな旗を見るに、あの野営地は王国の貴族たちのもので間違いない。ノルドス三世の声に応じて、軍勢を王都に集めてきたのだ。


 別の王都に続く街道を見ると、そこにも無数の旗が靡いている。続々と軍勢が集まっているようだった。


 イリアは王都周辺の様子を見て感心するように言う。


「すごい数……こんなにたくさんの人間が」

「ですね。他にも国があるのなら……もっといっぱいいるわけでしょうし」


 メッテも人間の多さに圧倒されているようだ。


 メッテの言う通り、他の国々の軍も南方に向かうだろう。集まれば、数万どころではないかもしれない。


 やがて俺たちは王都の門をくぐり、市街へと入った。


 街路ではやはり俺たちを覚えている者もいるのか、声をかけてくれる者もいた。


 だが案の定というか、武装した者の大半は俺たちを知らないようだ。


「前よりも人が多くなっている気がしますね」


 イリアの言うように、王都は以前よりも人や露店が増え、順調に復興しているようだった。


 ゆっくり見て回りたいが、今はそんな時間はない。


 道の脇では、魔王軍との戦いを声高に叫ぶ者たちがいる。貴族から民衆まで色々な身分の者が、魔王軍との戦いに参加するよう呼び掛けていた。


 いくらイーリスの人気が高くてもこれは抑えきれそうもないな……


 王国はついこの間、魔王軍のせいで大混乱に陥った。皆、その時の恨みもある。


 ノルドス三世の言葉は、そんな彼らの心に強く響いたはずだ。


 イーリスがこの出兵を止めるための説得材料も皆無だ。きっと彼女も対応に苦慮しているだろう。


 俺たちは、イーリスのいる王宮を目指すのだった。

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