207話 忍び寄ってきました!?
魔王軍の特使と会ってから、五日が経った。
特に魔王軍がやってきたという報は入っていない。
それでも俺たちは、魔王軍がやってくることを想定して準備を進めている。
フェンデル村と、各種族の拠点の防備はもう十分なほどだ。
また、フェンデル村には各種族からなる主力部隊が駐留していた。魔王軍を迎え撃つための部隊だ。
今回は、前のオークとの戦いのときにはいなかったエルフ、ミノタウロス、カッパ、虎人、ノワ族、狐人、亀人もいる。
特にエルフの弓術、ミノタウロスの戦闘力、ノワ族の魔法は強力だ。戦闘で大いに力を発揮してくれるだろう。
狐人もその姿を隠す魔法で、フェンデルの四方を偵察してくれている。
カッパも亀人も海の監視に出てくれていた。
虎人たちも少ないながらも、その足の速さを活かして伝令を務めてくれていた。
そんな亜人たちを見て、メッテが感慨深そうに言う。
「……本当に多くの仲間が集まったな」
「ああ。皆、集まってくれた。以前よりも確実に戦力は増している……」
俺も深く頷いた。
ちょっとやそっとの軍勢では、フェンデルは占領できない。
皆も、来るなら来いと意気込んでいる。誰も魔王軍を怖がる様子はない。フェンデルの亜人たちは自信に満ちていた。
モニカが呟く。
「私たちの村のことを聞いて、攻略は難しいと考えたのでしょうか」
「あるいは、今もどうするか議論を重ねているか……」
ベルドスの言う通り、魔王軍の方針が定まっていない可能性もある。
「諦めてくれるなら、それでいいんだが……」
俺が言うと、エクレシアが他のエントから何かを聞いたのか、大急ぎでこちらに向かってくる。
「ヨシュア。西の森の様子が少しおかしいそうだ」
「様子がおかしい?」
「音も気配もない……しかし、草が何か重い物に踏まれているようだ。それも広範囲にわたって、同じような現象が起きている」
エクレシアの声に、メルクが口を開く。
「人狼も森を探っている。だけど匂いもしない」
西の森は街道に面している。
そこから何者かが侵入したのだろう。街道は天狗たちが見張っていたが、俺も使うハイドで姿を隠しながらやってきたのかもしれない。
ハイドを使えるならデーモンの可能性もあるが、広範囲ということは侵入者は複数ということも考えられるな。
エクレシアが俺に訊ねる。
「植物で足を拘束することは可能だが」
「いや、飛んで逃げられる可能性もある……まずは、侵入者が何者なのかはっきりさせよう。アスハ」
アスハは俺の言葉に頷く。
「王都で狐人を見つけた時のように、私の風魔法で粉を飛ばします」
「ああ。付着すれば、姿を捉えられるだろう。だが、森か……エナ」
俺の言葉に、近くに立っていたエナは杖を抱えてやってくる。
「なんでしょう?」
「水魔法で手を貸してほしい。森に火をつけられる可能性もある」
「はい! ようやくあたしの出番ですね!」
エナは嬉しそうに言った。
エクレシアが微笑ましそうに言う。
「森を湖にはしないでくれよ。それでは、私は森にいる見張りを一旦下がらせてくる」
「ああ、頼む。エントたちは、森の西側で待機して、逃げてくる敵を植物で拘束してくれ」
次に俺は黒猫のローナに目を向ける。
「ローナ。ノワ族で水魔法を使える者も来てほしい」
「任せるにゃ!」
「ありがとう。アスハ、天狗たちは空に待機させてくれ。臨機応変に動いてもらう」
俺の声にアスハは「はい」と頷く。
そうして俺たちは、フェンデルを出て、西の森の前へと向かうのだった。
 




