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196話 出てきました!?

「こっちかな……」


 狐人のミリナは、必死に草原で匂いを嗅ぎまわっていた。


 メルクが訊ねる。


「見つからない?」

「仕方ないじゃん! さっきの黒猫たちの魔法で、焼けた臭いしかしないんだから」


 ミリナの言う通り、草原の一部がすっかりと丸焦げになってしまい、まだその臭いが周囲に残っているのだ。


 そもそもメルクの嗅覚も優れているのに、本人はすっかり匙を投げたような感じだった。


 イリアが呟く。


「しかし、こんなに見つからないものでしょうか? 気配すら感じません」

「そういえば、ミリナ。お前たちは、特殊な首輪をつけていたよな?」


 メッテが何かに気が付いたように言う。


「あの首輪をつけることで、姿を隠すことができるの……詳しいことは分からないけど、お父さんがくれた」


 皆の声に俺は頷く。


「あれも小さな魔石が使われた首輪だ。人が使うには少し小さいが……ミリナは、ハイドという魔法に聞き覚えはあるか? 姿や気配を隠す魔法のことだ」


 ミリナは少し考えた後に答える。


「メルクさんたちに教えてもらうまでは知らなかった。でも、似たので隠形術なら知っていたよ。お父さんがよく使っていた」

「魔王が教えた魔法か……あるいは、狐人たちが習得している魔法だとしたら」


 俺は言うと、メルクが疑問を呈す。


「でも、ミリナたちは臭いまでは隠せなかった」

「もっとすごい、それこそヨシュア様が使うハイドのような隠形術を使える者がいるのかもしれませんね」


 アスハの声に俺は頷く。


「そうだったとして何もおかしくない。狐人たちは今も俺たちを遠くから見ているのかもしれないな」

「警戒しているってことか。とすれば、去れば自然と出てくるかもしれないが……」


 メッテはそう言うと、どこかすっきりしないような顔をする。


「倒したんだから、ノワ族たちに礼の一言もあればいいと思うが」

「さっきの魔法を見たら、誰でも警戒すると思いますよ……」


 アスハの冷静な突っ込みに、メッテもそうかと納得する。


 それに俺たちと狐人に特に接点はない。

 向こうが俺たちを警戒するのも無理はないのだ。


 ローナは見てられないとばかりにこう言った。


「にゃにゃ。それならもう、こっちから呼びかけるにゃ……お前たちの子供は、にゃあたちがいただいたんにゃ!!」

「預かっているだろ、そこは!」


 メッテが言うと、ローナは首を傾げる。


「にゃにゃ? 駄目かにゃ?」

「駄目だ! それじゃまるで人質を取っているみたいじゃないか!」


 呆れるようにメッテが言うと、メルクが最終手段とばかりにミリナに顔を向けた。


「ミリナ。あの歌を歌う。警戒を解くかも」

「え? あ、あれを? 恥ずかしいな……」

「いいから歌う」

「も、もう人使い荒いんだから」


 ミリナは恥ずかしそうにしながらも、歌を響かせた。


 人間の俺でも懐かしさを感じる綺麗な歌声だった。


 だがしかし、歌が終わっても沈黙が流れるだけ。


「うう……恥ずかしい」

「そんなことないですよ、とってもお上手でした」


 イリアとアスハがぱちぱちと拍手する。


 メッテが言う。


「そもそも、近くにはいないのかもしれないな」

「可能性はありますね……どうしますか、ヨシュア様?」


 イリアは俺にそう訊ねてきた。


「そうだな……」


 俺は少し考えた後、こう叫んだ。


「子供たちを返しにくる! それからで良ければ、警戒を解いてくれるか!?」


 無理に会いにいっても仕方がない。

 問題は、これが聞こえているかどうかだが……


 だが、少しして、きゅんと小さな声が響いた。


 その声の方向から、魔力の反応がにわかに現れた。


「そっちか」


 俺が顔を向けると、やがて一体の狐が姿を現す。


 続々と他の狐も現れると、何体かの狐の赤ん坊が嬉しそうに笑っているのに気が付いた。どうやら、赤ん坊の口を、親の狐たちが抑えきれなかったらしい。ミリナの歌に反応したのだろう。


「ミリナ、お手柄」


 メルクが呟くと、ミリナは「違うって」と恥ずかしがる。


 狐の代表らしき者が口を開く。


「お主たち……西の者たちじゃな」

「そうだ」

「お主たちが、我らを争いに巻き込んだのか?」


 その言葉にメッテがすかさず反論する。


「悪いがあの虫たちは、私たちのところには現れてないぞ。お前たちこそ、何かしでかしたんじゃないのか?」

「我らは我らだけで暮らしておる。別種族と交流することはない」


 自分たちは何もしていない、というわけか。


 この狐は恐らく族長なのだろう。俺たちと手を組もうとする雰囲気はない。


 俺はイリアと顔を合わせると、狐にこう言った。


「無理に交流するつもりはない。お前たちの子供はすぐに返そう」

「そうしてくれるとありがたい。しかし我らには礼になるものがない……そうじゃな。おい」


 狐は後ろにいる、他の狐に顔を向けた。


「お主の子……あの子をこの者たちに差し出そう」

「は、はい……族長」


 狐は暗い顔をしながらも頷いた。


 これには、ミリナが声を上げる。


「ちょ、ちょっと。子供を差し出すって」

「我らには、他に礼になるものがない」

「だ、だからってそんな簡単に」


 おかしい。

 俺だけでなく、イリアたちも思っただろう。仲間を礼に引き渡すなんて。


 しかし狐たちにはそれが普通のことのように見える。


 俺は、とっさに二人の名が浮かんだ。


「一つ聞かせてくれ。キュウビとヨモツという名前に、聞き覚えはあるか?」


 その言葉に、族長は黙り込む。なんとか冷静さを保とうとしているようだ。


「俺の推測だが……キュウビは、お前たちに復讐しようとしている。あの虫たちは、やつの刺客だろう」


 俺が言うと、狐たちは急にざわつきだした。やはり、キュウビという名前に聞き覚えがあるようだ。あのキュウビ、と不安がる声が聞こえてくる。


 族長は後ろに顔を向けると一喝する。


「静まれ! 余所者の言葉など、信じるでない!」

「ああ、あくまで俺の推測だ。だが……俺はこれで終わるとは思えないぞ。キュウビは、お前たちを相当憎んでいるはずだ」


 族長は再び口を噤んでしまう。


「ともかく、子供は返す。だが、それまでによく考えてほしい」


 そう言うも、族長は首を縦に振らなかった。


 ともかく俺たちは、村に帰り狐を連れてくることにするのだった。

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