195話 魔石がザクザクでした!?
俺たちは残党のキラーワームを倒しながら、キングバグに近付いていった。
すでに二十体ほどに数を減らしていたキラーワームだが、エクレシアの伸ばす植物によって拘束され、イリアたちにことごとく斬られていった。
「よし、全部だな」
メッテは周囲を見渡して言った。
アスハがそれに答える。
「空からも確認しましたが、逃げ出せた者はいません」
「地下も恐らく大丈夫だろう」
エクレシアの声に俺は頷く。
「魔力も見えない。少なくとも、この近くにはもういないはずだ」
「にゃにゃ! 助けに参ったにゃ!」
その声に振り返ると、ローナと黒猫たちがやってきていた。
「ローナ。もう、皆倒したよ。しかし、すごい魔法だったな……」
ローナたちにはあくまで陽動の手助けをしてもらうつもりだった。爆弾で倒すつもりが、まさか魔法で一瞬で倒してしまうとは。
「皆で一か所に魔力を集めれば、あのでっかいのも倒せると思ったにゃ」
「魔力をそこまで自在に……」
「お師さんのおかげなのにゃ! おかげでローナたちはもう餌に困らなくなったにゃ!」
ローナの声にメルクはコクリと頷く。
「精進する。今度は、海で魚を獲れるようにする」
「メルクさん、すっかりお師匠気分」
アスハの声にメルクは「違う」と短く答えるが、やはり自分が教えた手前嬉しいのだろう。
それにしても、やはりノワ族たちは魔法の天才だ。
身体能力に優れる亜人が多いフェンデルとしては、心強い仲間ができた。
「ともかく、ありがとう。おかげで助かったよ。あの虫ももう出てこないだろう」
「どういたしましてにゃ! うちらもこれで枕を高くして寝れるにゃ!」
確かに脅威は去った。
だが、引き続き狐を探す必要があるだろう。
俺がアスハに顔を向けると、察したのかアスハは首を横に振る。
「四方を天狗に見てもらいましたが、特に異変は。狐もその他も」
「そうか。狐は危機が去ったとやがて出てくるかもしれないが、この虫たちの黒幕は」
ここにはいないと見るのが自然だろう。
キュウビも、出てこなかった。
トップは今の、キングバグで間違いない。
「ともかく、キラーワームを調べよう。肉は食べられないが、牙は矢じりになる。それに」
「魔石か?」
メッテの問いに俺はコクリと頷く。
「キラーワームは目に見える魔石を持っていてもおかしくない。キングバグは……外皮とか、色々使えないか試してみるよ」
「それじゃあ、集めるのを手伝うぞ!」
そうしてメッテはキラーワームを背負って集めてくれた。
ウィズも体に乗せて、エクレシアも植物を使い、俺の近くに運んでくれる。
俺はそれをどんどんと魔法工房に回収していった。
ローナが青ざめた顔をする。
「いっぱいいたのに……どこに消えていくのにゃ?」
「私も、ここまでたくさんとは……」
イリアたちも少し驚いていた。
すでに百体は中に入れている。
「お、俺も驚いているよ」
まさかここまで中に入るとは思わなかった。
魔法工房に入れたキラーワームから牙を取り、あとは体を焼いていく。
そこに残った煌めく石が魔石だ。
「小粒が多いが、結構な数があるな……」
アスハたちが持っている杖の魔石よりは小さい。
それでも魔法に恩恵があるから、皆の杖につければより多くの魔力を扱えるようになるはずだ。
「よし、キラーワームの処理は終了だ。次はキングバグだな」
俺は、巨大なキングバグの前に立つ。三階建ての家を見上げているかのような大きさだ。
「まずは、魔法工房に吸収できるか……」
すっとキングバグは消えてしまった。
案の定、周囲は驚く。
メッテが言う。
「ヨシュア……もしかしたら、山すらも消し去ってしまうんじゃないか?」
「海の水も全部吸い込むかも」
メルクもそんなことを呟いた。
「さ、さすがに無理でしょ。でも、フェンデルに来てから本当に色々な物を扱ったからな。それで広くなっているのかも」
「広げて、広くなるものなのでしょうか?」
イリアはそう呟いた。
「俺も分からないけど……」
変な沈黙が流れるが、本当に俺もどうしてここまで広くなったか分からないのだ。真面目にやってきたからだろうか?
ノワ族の中には、にゃにゃあと俺に平伏する者まで現れる。神様に違いないとか言い出す者まで。
「大げさな」
「でも、ヨシュアは……確かに何か特別に見えるにゃ」
ローナもそんなことを言い出した。
「そんなことない。魔法は使っていれば、どんどん上手くなる。ともかく、キングバグ……外皮は鎧に使えそうだな。反発力があるから、紫鉄の板の下に仕込むと良さそうだ」
千人以上の鎧をさらに強化できるだろう。触手と肉に関してはすでに焼けていて食べるのも使うのも難しい、灰にしよう。毒は一応、取っておくか。
キングバグとキラーワームの灰はここで埋めてあげよう。ささやかだが、墓標も作っておく。
「と……この琥珀色のは……おお、土魔法の魔石か!」
俺は早速、琥珀のような石を出してみる。人の頭ほどの大きさがある。
それを見たメッテが声を上げた。
「でかいな!」
「ああ。アスハたちのよりも少し大きい」
「土魔法、ということは土に関する魔法なのでしょうか?」
イリアの声に俺は頷く。
「ああ。土や石を動かしたり、まあ便利な魔法だよ。とはいえ、俺たちにはエクレシアやエントがいるから」
「なら、エクレシアも魔法を使ってみる」
メルクがそう呟いた。
「私か? まあ、興味はあるが」
「魔法も楽しいものですよ。私はこの魔石と杖で、もっと空を飛ぶのが楽しくなりました」
アスハはそう言って俺の作った杖をエクレシアに見せた。
「そういうことなら。だが、いいのかな。こいつはローナたちが倒したのに」
エクレシアはそう言って、ローナたちを見た。
「にゃにゃ。誰のもの、というのはウチラにないにゃ。皆仲間だから、好きにするにゃ。それに、皆には本当に世話になっているにゃ。役に立ったなら嬉しいにゃ!」
「ありがとう。そういうことなら、私も使わせてもらおう。ではヨシュア、私にもあとで杖を」
俺はエクレシアに頷く。
「ああ。いいのを作るよ。ともかく、虫の脅威は去ったな。あとは狐人を探すだけだ」
「にゃにゃ! ローナたちも手伝うにゃ!」
ローナの声にノワ族たちも声を上げた。
そうして俺たちは狐人の捜索を再開するのだった。




