194話 誤算でした!?
イリアたちの反応は早かった。
まず、土から出てくる触手を、エクレシアが植物を使い動きを封じる。
「私が抑える! イリア、メッテ!」
「はい!」
「おう!」
その触手をイリアは刀で切り払い、メッテは金棒で薙ぎ払い、巨大なダンゴムシ──キングバグへと向かっていく。
キングバグはイリアとメッテの接近に気が付くと、口から紫色の液体を射出した。
あれは触れただけで人を死に至らしめる毒だ。
「任せてください!」
アスハはそう言うと、突風をキングバグへと放つ。
毒は逆に、キングバグにぶちまけられてしまった。
「うぉおおおおおお!!」
メッテがジャンプし、一気にキングバグの頭へと金棒を振り上げる。
だが、
「丸まった!?」
キングバグは体を丸めた。
球のようになったその体にメッテの振り下げた金棒は、ぼよんと弾き返されてしまう。
だがそれは陽動。
いつの間にか後ろに回っていたイリアが、刀でキングバグを切り刻む。
確かに、イリアの刀はキングバグの外皮を切り裂いた。
だが皮も身も厚く、致命傷には至っていない。
しかも何発かは見えない壁に、はじき返されているようだった。
「──っ!?」
イリアはとっさにキングバグから離れる。
キングバグがその場で回転し始めたからだ。そのまま、ものすごい速度で大地を転がり始める。
「皆、集まれ!」
俺の声に、イリアたちは一旦集まる。
そしてすぐに、俺は周囲にハイドをかけた。
キングバグはあのままでは眼が使えない。
こちらは音も気配も消しているので、気が付けないだろう。
現にキングバグは明後日の方向に転がっていってる。
「皆、すまない。連携も戦術も完璧だったが」
「いえ、私たちの力不足です。早まってしまい、申し訳ありません」
イリアは頭を下げる。
「いいや、イリア……あれは蟲の王と呼ばれている魔物だ。虫系の魔物では、最強だ。人間の兵士が千人でかかって全滅したこともある」
この世に何匹もいる魔物ではない。
それが、何故こんな僻地にいるのか。明確に、何か目的があるからだろう。
「堅い……というよりは、攻撃が難しい。私の金棒はもちろん、イリア様の刀でも切断しきれなかった」
メッテの声に俺は頷く。
「丸まっているところは特に強力だが、隠している腹の部分も堅くて厚い。それに加え、俺が使うようなマジックシールドを使う」
「となると」
「中からやるしかないな」
俺はそう言ってインベントリから、球体を出した。
メッテは少しおっかなそうにそれを見る。
「ユミルの作った、爆弾とかいうやつだな……それで、クラーケンを倒した」
「ああ。だが、奴は見た目に反して口が小さい。しかもマジックシールドが使える。一斉に強力な攻撃を加えなければ……ここは、ノワ族に手を貸してもらおう」
「ノワ族の魔法に?」
「ああ。あれだけの数で魔法を放ってくれれば、マジックシールドはそれを防ごうとする」
「だが、ノワ族たちに転がっていかないか?」
「陽動は俺がやるから大丈夫だ……デーモンのロネアにも手伝ってもらう。ノワ族には、岩山の上から攻撃してもらう」
それを聞いたメルクが訊ねる。
「口が小さいのはどうする? モニカを呼ぶ?」
「いや、少し時間がかかる。どこか遠くへ行かれると厄介だ。だから、俺たちで叩く。
俺は皆に顔を向ける。
「ノワ族が攻撃したら、まずイリアが外皮に斬りつける。それをメッテが金棒で広げて、最後にアスハが、これを投げ込む」
「でしたらまずは、ローナさんたちに岩山に来てもらうよう伝えます」
アスハはそう言うと、南へびゅんと飛んでいった。
二十分もしない内に、ノワ族たちは岩山へと駆けつけてくれる。
その間、キングバグはキラーワームを呼び寄せたようで、平原にキラーワームが蠢いていた。
皆、ぞっとする。
こんなにたくさんいたのかと。全部で、千匹……いや、もっといるのではないかと。
エクレシアが呟く。
「なんとか、要所要所を植物で抑えるが……」
「ああ、迅速に作戦を遂行する必要がある。それじゃあ、始めよう」
俺が言うと、メッテが頷き矢を空へと放つ。
それを見ていたアスハは、岩山へと飛んだ。
「よし……あとは、ノワ族の一斉攻撃を待つだけだ。キングバグが岩山へと転がりだしたら、俺がローナを召喚し陽動する──お、始まった……っ!?」
岩山から、突如閃光が走った。
光はそのままキングバグへと向かい……
すぐに、とんでもない爆発が平野に広がる。
「何が!?」
一瞬の出来事に俺たちも驚く。
とっさにエクレシアが穴を掘って、俺は岩壁を作り、その爆風を防いだ。
やがて爆風は収まった。
恐る恐る岩壁から顔を出すと、遠くには黒焦げとなったキングバグと大量のキラーワームがいた。
 




