184話 巨大なミミズでした!?
「にゃにゃ! あそこにゃ!」
ローナが走っていく先には、巨岩……というよりは小さな岩の台地があった。
その下には緩やかな坂があって、洞窟になっているようだ。
あそこがノワ族の住処か。たしかに見つかりにくい場所だ。
しかし、その洞窟からたくさんの黒猫が悲鳴を上げながら飛び出してきていた。
「逃げるにゃ!」
逃げる黒猫の一体にローナが話しかける。
「何があったにゃ!?」
「見たこともないミミズに、食べ物が奪われてるにゃ!」
「み、ミミズ!? 蛇じゃにゃくて? そんなの、ひっかいてやれば」
「めっちゃでっかいにゃ! 牙も長いし、危険にゃ! あ、あんた、ちょっと!」
黒猫は隣を走り抜ける俺たちを呼び止めようとする。
「俺たちが倒す。任せてくれ……皆、恐らくはキラーワームという魔物だ。強力な魔物だから気を付けてくれ」
イリアたちが頷くのを見て、俺は手を洞窟へ向ける。
「──トーチ!」
魔法で光の球を放ち、洞窟内を照らす。
すると、イリアが刀を抜いてそこへ飛び込んだ。
「斬りました!」
イリアの声が響く洞窟に俺たちも入る。すると、そこには体を細切れにされた巨大なミミズが。
体を斬られても頭が残っていればまだまだ動ける強力な魔物だが……ここまで斬られればさすがに動けないようだ。
「イリア、さすがだ」
「ヨシュア様の作ってくださった刀の前では、敵ではありません……しかし、ここまで大きなミミズがいるとは」
イリアは斬られたミミズに視線を落とす。
メッテも驚くような顔をする。
「ほ、本当にでかいミミズだ……」
「こんなでっかいのは見たことがない」
メルクもそう呟いた。
フェンデル周辺にはもともといなかった魔物のようだ。
キラーワームにびくびくとするローナや黒猫たちノワ族を見れば、この近くでもいなかったのだろう。
人里でも見たことがない……魔王軍との戦いでなんどか、野営地を急襲されたことがある程度だ。人間をその長い牙で噛み殺したり、丸のみにしたり、地中へと引きずり込んだりと非常に厄介な魔物だった。
強力な魔物なので、おそらくは魔王軍所属と思われていたが……こいつは野生なのだろうか。
ともかく、ローナたちには警戒してもらったほうが良さそうだな。
「ローナ。ここは少々危険だ。住処を変えた方がいいと思う」
ローナは青ざめた顔をしながら頷く。
「そ、そうにゃね……でも、この洞窟以外でも、こいつが現われたら」
「ああ。だから襲われない場所に家を造るんだ」
「家? 地上かにゃ? でも、そうしたら今度は蛇や猪に」
「ああ。だからそいつらからも襲われないように、高い場所に家を造る……この巨岩をうまく利用してな」
「にゃにゃ……よく分からないけど、お願いしたいにゃ。できる限りのお礼はさせてもらうにゃ」
「ああ。任せておいてくれ。すぐに作るよ。こういうのは慣れているからな」
俺はさっそく、ノア族のために家を建てることにした。




