177話 賑やかになりました!
俺たちが帰ったその日の夜。
フェンデルでは宴会が開かれていた。
もともと俺たちの帰りが今日になるというのは、連絡係の天狗によって村の皆も分かっていた。
だから料理も会場の飾りつけも数日前から準備していたのだろう。非常に豪勢だ。
「さあ、皆飲め! 王都から持ち帰った酒がいっぱいあるからな!」
メッテは杯を持って上機嫌だ。
他の亜人たちもその勧めにどんどんと酒を煽る。
グランク麦のパンはもちろん、ベリーを使ったジュースなど、本当に食卓も豊かになった。
ベルドスは俺の隣の席で言う。
「しかし、本当に皆無事で帰ってきてくれてよかった」
すでに王都でのことはベルドスに話してある。今後、王国との交易が始まることや、グランク傭兵団もいずれ仲間に加わることも。
「俺も村が何もなくて安心したよ……むしろ、出発前よりも賑やかになっているような」
道には街路樹や花壇なども置かれ、色彩豊かとなっている。
もっと単純に、人口……子供が増えたようだった。
特にモープは以前赤ん坊がいなかったが、今では十名ほどの小さなモープがいる。
セレスは一族待望の赤ん坊だと、自分の子でもないのに乳を飲ませ可愛がっていた。
イリアが隣で呟く。
「もっと、賑やかになりますよ、この村は」
「そうだな。虎人たちも加わった……そういえば、ヨモツたちの様子は?」
「子供たちは、メルクさんには口を利くようになったみたいですね」
イリアの目を向ける先には、狼の姿のメルクと、それに飛び掛かる小さな狐が。
「そんなんじゃメルクは倒せない」
メルクは素早く狐人たちを躱すと、その体を抑えた。
「く、くそ!」
喧嘩をしているわけではない。
帰路も野営地では、メルクは狐人を檻から出してこうして取っ組み合いをしていた。
自分から一本取ったらヨモツを解放するとか言って、なんとか子供たちの気を惹いているのだ。
おかげで子供たちは塞ぎ込むこともなく、食事をしてメルクを倒そうと躍起になっている。
とはいえ、メルクには全く敵わないが。
イリアはその近くにある檻の中にいる人物に視線を向けた。
「ですが、ヨモツ自身は何を話しかけても上の空のようで……無理やり口に、メッテから食べ物や飲み物を押し込まれてました」
「吐いたりは?」
「いいえ。体は弱ってはいないかと」
「拒否する気力もない感じか……監視はつけるが、檻からどこか家に移すか」
「反対はしません。やはり皆、見ていてあまり気持ちのいいものではないですからね」
亜人の中には奴隷狩りに捕まった者もいる。
檻というのは、その時の記憶を想起させるのだろう。
「分かった。なら、他の亜人たちとも話して、どこにするか決めてみる。虎人たちは、何か言っていたか?」
「ここでもいいと言ってくれましたが、彼らは暖かい場所が良いようです。なので、できれば村の南側の白砂島に近い場所にでも、住まわせて欲しいと」
「そうか。そっちは住人が少ないし、誰かがいてくれるのはありがたい。早速、明日にでも家を造るとしよう。家畜も増えたし、囲いも作らないといけないし……やることはいっぱいあるぞ」
「はい! 私もお手伝いいたします。もっとこのフェンデル大きくしましょう」
「ああ。人にも魔王軍にも負けない……豊かな場所を作ろう」
俺とイリアは顔を合わせ頷くのだった。
 




