171話 仲間がいました!?
俺たちはトレア王の敗北後、王都の北側に来ていた。
ここでは、兵士たちが小火を消したり、王の軍勢が置いていったものを集めたりして、戦場の後片付けをしている。
一方のイーリスは、王の逃げ込んだロデシアに兵を進めていた。降伏を迫るらしい。
そんな中で俺たちは、ある者を連れていきながら後片付けを手伝っている。
連れているのは狐の姿のヨモツだ。
四本の脚は自由になっているが、首輪を付けられ、メルクに綱を握られている。
ヨモツはメルクに訊ねる。
「何の真似だ、これは?」
「見世物にしたいわけじゃない。さっさと集める」
メルクの声に、ヨモツは嫌々ながらも落ちた物を咥えていく。
だが、その動作はどこか落ち着きがなかった。
自分が捕まった時以上に、そわそわとしている。
イリアがその様子を見て言った。
「ヨモツさん……近くに仲間がいらっしゃいますよね?」
「……」
黙り込むヨモツ。
先ほど、偽の王冠を見せたときも黙っていた。
メッテが呟く。
「仲間思いのやつがいるんだな」
「……俺に仲間などいない」
ヨモツは苛立ちのこもった声で言った。
「なら、試してみるか?」
メッテは刀を抜くと、それをヨモツに向ける。
「き、貴様!」
ヨモツはすぐに遠吠えを響かせた。
来るな、という合図だろうか。
しかし、メルクが何かに気が付く。
「似た匂いが近づいてきた──アスハ、あっち」
「はい!」
アスハはメルクの指さした方向に、飛んでいく。
そして俺の作った緑色の粉を袋から出すと、それを風魔法で吹かした。
すると、何もいないはずの場所に、粉がくっつく。
俺たちと同じハイドを使っているのではと予測したが、上手くいったようだ。
「尻尾を出した」
すぐにメルクがその透明な者に飛び掛かる。
やがて、狐の姿を現した。
「くっ! 離せ、離せ!」
「メッテ、手を貸す」
「おう」
暴れる狐だが、たちまちメッテによって縄で縛られた。
「父ちゃん! ……ごめん」
ヨモツは拘束されて泣く狐を見て、深く後悔するような顔をした。
綱は誰にも握られてない。今なら逃げられるが、俺たちの前では無駄だと悟っているのだろう。
代わりに、ヨモツは俺の前に躍り出て言った。
「俺はこいつのことなど知らない! そいつには、手を出すな!」
「知らないなら、どうでもいいのでは?」
イリアが冷めた表情で言った。
「くっ……」
ヨモツは黙り込んでしまう。
俺はその間、狐の魔力の動きを探っていた。
弱体化させたヨモツと比べると、魔力は少ない。口は自由なのに死霊魔法を使わない。ヨモツとは違い、死霊術は使えないのだろう。
代わりに、狐は首輪をつけていた。それには、それなりの魔力を感じる。ハイドを使える魔法のアイテムだろうか。
「自分の子に仕事を手伝わせていたか……密偵とは聞いて呆れる。メルク、一族で動いていた可能性もある。こいつの匂いを辿れるか?」
「できる。メッテ、アスハ。手を貸す」
俺の声に、メルクたちは匂いを辿っていった。
ヨモツはがたがたと体を震わせる。
「な、何が目的だ?」
「言っただろう。魔王に引き渡すと。捕虜交換を考えれば、多ければ多いほど交渉が有利になるだろ?」
「有利になどならない! 魔王様は失敗を許す方ではないのだ! 何の得にもならない!」
「じゃあ、お前たちはどうなるんだ?」
「それは……」
ヨモツは言い淀む。
なぜ、そこまでして魔王と会うことを恐れるのだろうか。
魔王が冷酷で失敗を犯した者を容赦なく処罰するからか。いやあるいは、このことは魔王に……
「いずれにせよ、お前たちは連れていく」
「……」
その後、メルクは他の狐たちを見つけた。
数にして、五名ほど。皆、小さく子供のようで、魔法を使える者たちではなかった。
少し甘い気もしたが、彼らはヨモツと同じ牢に入れて過ごさせることにするのだった。




