170話 不発でした!?
「モニカ!」
俺が声を上げた時には、すでに一本の矢が王へ向かっていた。モニカが放ったのだ。
モニカの矢は、紫色の光を発する王冠に当たり……それを射落とした。
「へ?」
そこでは、周囲をきょろきょろと見回す王が。
やがて周囲に誰もいないことに気が付くと、そのまま大慌てで北へと馬を走らせた。
それを見た城壁の歓声はさらに大きなものになった。
「アスハ。悪いが、あの冠を」
「かしこまりました」
俺の声に、アスハは王冠を回収してくれた。
手早くアスハはこちらに戻って、王冠を手渡す。
「お持ちしました」
「ありがとう、アスハ」
俺は早速それを魔法工房へ入れた。
イリアたちも不安そうな顔でそれを見ている。無理もない。今の光は、ヨモツも発していたような光だったからだ。
イリアが心配そうに訊ねてくる。
「どうでしょう、ヨシュア様?」
「とてつもない魔力を感じる……魔法の道具だ」
むしろ、イーリスの持っていた本物の王冠よりも強力な魔力を感じた。
紫色の光を発するだけ……ってことはないよな。
死霊術が使えると見ていいだろうか。
メッテが言う。
「では、やはりあの光は」
「ああ。ヨモツが魔法を使っていたとき見た光と同じだ。あのままだったらトレア王は死霊術を使っていたかもしれない」
王冠をすり替え、アンデッドを多数出現させる……
とはいえ、あの周辺では倒されたスケルトンがいるぐらい。
この王都の攻防戦では全く被害者が出ていない。
使ったところで、どれだけのアンデッドが呼び出せたか。
なんというか、お粗末な作戦だ。
もともと、作戦を立てるのは上手くないのだろうか。
いや、どこか焦りを感じる。
例えば、捕らえられた仲間を救うための行動だったら……
「王都の混乱に乗じて、仲間を助けたかった」
「つまり、キュウビ……のせいでしょうか」
イリアはそう答えた。
俺の頭にも、狐の面を付けたキュウビがよぎる。
キュウビはヨモツの仲間だ。
王都でまだヨモツが囚われているかもと、救助を急いだのかもしれない。
「しかし、あのキュウビにしては少し粗がある気がする」
ただ、キュウビは俺たちを見てすぐに退散したりと状況分析に優れていた。
ヨモツを解放したくて冷静さを欠いているのだとしたら、この行動も頷けるが。
まあ、キュウビでなくてもこの王冠の紫色の光を見ればヨモツの仲間の犯行であることは明白だ。
イリアが再び口を開く。
「ですが、私たちが王冠を奪うのを知っていたのですよね」
「あるいは、もともと王冠をすり替えるつもりだったか。いずれにせよ、やった本人はこの付近にいるだろう。そして俺たちを見ているだろう……」
それがキュウビだったら……俺たちがフェンデルの者だと気が付くはず。
フェンデルを狙ってくるかもな。
そうなる前に、こちらも手を打つ必要がある。
「メッテ、頼みがある。ヨモツを連れてきてほしい」
「本気か? あいつを連れ出せば、仲間が」
「だからこそだ。釣り餌のようなものだ。敵は必ず食いつく」
「分かった」
メッテはすぐさま、トレアの宮殿の地下牢に向かった。
ともかく、王都での攻防戦はイーリス側の勝利に終わった。
トレア王の敗走は、すぐに王都中に知れ渡った。名実ともにイーリスは王に相応しいと多くの民衆が口にするのだった。




