162話 壊れてました!?
「もう大丈夫だからな」
エクレシアはリーセを抱き抱えながら言った。
先ほどまでは不安そうな顔をしていたリーセだが、俺たちの顔を思い出したのか落ち着きを取り戻している。
以前、リーセはフェンデル村で少しの間過ごしていたから、俺たちの顔を覚えていたのだろう。
ユミルはリーセに変な顔を作って挨拶する。
「久しぶりなのじゃ~! ほれ、エナも同じように挨拶するのじゃ!」
「え、えっと、そういう顔でですか?」
「当然じゃ! 子供はこういうの喜ぶのじゃ!」
「え、エナです。よろしくお願いします、リーセさん」
ユミルの声に、仕方なくエナも変な顔をして挨拶した。
リーセはそれを見て耐えきれなくなったのか笑い出す。
「ははっ……やめて……二人とも変な顔」
その言葉にユミルは俺と顔を見合わせる。
リーセはもう喋れるようになっていた。以前は、まだ会話できないと思っていたが成長したのだろう。
ユミルは恥ずかしくなったのか顔を赤くする。エナも同様に。
ともかくユミルたちのおかげで、リーセの雰囲気が明るくなり話しやすくなった。
「しかし、どうしてこんな場所に? ベイロンやネイアはどうした?」
俺の声に、リーセはちょっと暗そうな顔をした。
そして口を開く。
「父さん……お姉ちゃん……ケンカする。だから、仲良しさせたかった」
「ふむ。父と娘で喧嘩か。珍しくもないが……まだ小さなリーセが見ている前でそれは許せんな」
エクレシアの声に、ユミルもエナも全くと首を縦に振る。
確かに、ネイアが父のベイロンに意見をするところを俺も見ていた。組織のトップとその娘だから、意見が食い違うことも多いのだろう。
俺はリーセの視線の高さと合うよう腰を落とす。
「それは大変だったな。でも、どうしてリーセはあの広場に一人で来たんだ?」
「直してほしかった。お父さんが壊しちゃったもの」
リーセはそう言って、袋を俺に見せた。
袋の口を開けると、そこにはキラキラとしたものが入っていた。
「何かの欠片か?」
丸みを帯びている欠片を見るに、いくつかの宝石が砕けてしまったもののようだ。摩耗した組み紐も入っているから、ブレスレットだったのだろう。紐の一部には血のようなものが付いていた。
リーセは悲しそうな顔でそれを見て言う。
「お父さんが腕につけていたの。だから直してもらおうって、色んな人間に頼んだ。でも……」
「断られたわけだな……」
「ふむ砕けた宝石か……確かに、これはちょい厳しいのう」
職人でもあるユミルはそう呟いた。砕けた石をくっつけるのは容易ではない。
「そう、だよね……皆無理って言ってた」
リーセは暗い顔をする。
もちろん、近くの店では直せないだろう。
だが、俺の生産魔法なら……
「……俺が、直してみてもいいか?」
リーセの表情が途端に明るくなる。
「直せるの!?」
「ああ。でも、足りない部品があるかもしれない……とにかく、一度預かってもいいかな?」
「うん!」
リーセは嬉しそうな顔で頷くと、袋を手渡してくれた。
それから俺は魔法工房に、袋の中のブレスレットを回収する。
「粉のようになってしまっているな……埃やもともとブレスレットじゃない木くずも入ってそうだ。これは、ちょっと時間が掛かりそうだ。どこか、そこの喫茶店でも入ろう」
そう提案すると、皆賛成と返事した。
俺たちは、大通りにテーブルが置かれた喫茶店に行くことにした。
 




