161話 迷子でした!?
「こっちじゃ!」
ユミルが指さしたのは、狭い路地裏だった。
俺は急ぎ、その路地裏に向かう。
すると虎人のリーセが、先程の男に家の中へと連れ込まれていた。リーセは抵抗しているが、相手は大人だ。とても逃げられない。
俺たちはすぐにリーセを追った。
しかし扉は閉まっており、開かない。
だが小窓の隙間から、中の様子がうかがえた。リーセを囲むように先程の男と、柄の悪そうな男が数名いる。
リーセの顔にはロープが巻かれ、口を塞がれていた。
「へへ。まさか、あのグランク傭兵団の子供を捕まえるとはな」
「あいつら、やけに同族には高い値を付けて買い戻すしな。こりゃ、いい値段で売れるぜ」
奴隷商とまでいかなくても、チンピラのようなやつらか。
エクレシアはそれを見て怒りを露にする。
「なんてやつらだ。扉を開き、あいつらを」
「待ってくれ、エクレシア。刺激してリーセに刃物でも向けられたら厄介だ。ここは、奇襲で行こう」
そう言って俺は、肩に乗るウィズに話しかける。
「ウィズ……この扉の鍵を、頼めるか?」
ウィズは体を縦に曲げると、ぴょんと地面に飛び降りる。
そして扉の下にある隙間へと入っていった。
ウィズは俺と長年、色々なものを作ってきた。その中には、鍵や錠前もあった。だから鍵の構造は熟知している。このまま扉の施錠を解いてくれるだろう。
「エクレシアは、ここで警戒を頼む。エナは水魔法の準備を。ユミルは、扉が開いたらこれを部屋に投げてくれ」
「……うん、なんじゃこれは? 爆弾か?」
ユミルは俺から球のようなものを渡されると、首を傾げた。
「いや、煙幕だ。煙を起こせる。その煙でやつらが混乱している隙に、俺がリーセを連れてくる」
俺はそう言って、特殊な兜を魔法工房から出した。すっぽり頭を覆うような形で、顔側にはガラスが付いている。これなら煙を吸うこともないし、目に煙が入ることもない。
視界はどうするのかということだが、俺には魔力の動きが分かる。リーセの魔力も分かるから、まっすぐに進める。
皆、俺に分かったと頷く。
すると、ガチャリと扉の錠前が開く音がした。
「よし、行くぞ?」
「わかったのじゃ!」
俺が扉を勢いよく開けると、ユミルが火を点けた煙幕玉を部屋に投げ込んだ。
すぐに、煙幕玉から煙が広がる。ただし、十秒もすれば煙は消えてしまう。
俺はリーセに向かって走った。
「な、なんだ!?」
案の定混乱する男たち。
しかし俺にはリーセがどこにいるか魔力で分かる。
リーセを抱き抱え、そのまま部屋を出ていく。
「ま、ま、待ちやがれ!!」
男たちは案の定追ってきた。
しかしこちらには、水魔法の使い手エナがいる。俺が作った、水魔法の効果が増大する杖こそ今回は持ってきていないが、エナは強力な水魔法が使えるようになっていた。
「エナ! 彼らの足元に!」
「はい!」
エナは両手を向け、水魔法を放った。
「なっ!? なんだ、この水は!?」
とても魔法で出たとは思えない波。男たちはその波に足を取られ、倒れてしまう。
「さすがじゃ、エナ!」
ユミルがそう言うと、エナは少し恥ずかしそうにする。
そのまま俺たちは、路地裏から抜け出しその場から退散するのだった。
 




