159話 商業区へ行きました!?
「人がいっぱい」
メルクは王都の商業区に集まる人々を見て言った。
非常に活気があるのは、商品自体は潤沢にあるからだろう。
王国中から人々が集まってきている。皆、生活の足しにしようと不要な家財を売りに出しているのだ。
代わりに、食料品が全く見当たらない状況だ。出せばすぐに売れてしまうほどの品薄状態で、中には通常の十倍で食料を売りに出している露店も見える。
メッテもそれに気が付いたのか露店を見ながら呟く。
「食品が飛ぶように売れていくな……」
「腹を空かせているのはあると思うけど、それ以上に先行きが分からないのが不安なんだろう」
明日にも食料の配給がなくなってしまうかもしれない。多くの食料を抱えておこうというわけだ。
食べ歩き、という感じではないな。茶ぐらいなら、喫茶店で飲めるかもしれないが。
一方で、贅沢品の類は破格の値で出されている。そして誰も買わない。
「俺たちも買い物が難しくなるかもな」
金品はあまり高く買い取ってもらえないだろう。交換のときも、金と銀の価値が低くなりそうだ。
イリアが呟く。
「別に買う必要はないのでは?」
「メルクはヨシュアに作ってもらいたい。見るだけでいい」
メルクもそんなことを言った。
「皆……」
なかなか嬉しいことを言ってくれる。
「任せろ、俺が何でも作るからな!」
気分がいいからか、そんな言葉が漏れた。
とはいえ、馬やロバなどの家畜は代わりがいない。やはり村ではもっとたくさん家畜を飼いたい。
それから少ししてイリアがショーウィンドウ付きのお店の前で目を輝かせる。
「これ……なんだか、いいですね」
「さっそくヨシュアに作ってもらう」
メルクの声に俺はどれどれと、ショーウィンドウの中を覗いた。
そこにあったのは……なかなかに際どい下着だった。
セレスがそれを見て首を傾げる。
「メッメー? こんなの穿く意味あるっすか?」
「そ、そうだ! こんな布切れ、穿いてないようなものじゃないか!」
メッテが顔を真っ赤にして言うと、モニカも頷く。
「さすがにこれは恥ずかしいですよ……でも、ヨシュア様が喜ぶなら」
「い、行くならイリアたちだけで行ってこい! ユミルとエナは私と他の店だ」
エクレシアも目に毒だと、ユミルとエナに見せないよう抱き寄せる。
アスハも手で目を覆っていた。
俺も見かねて言う。
「こ、これは……欲しいなら、買えばいいけど」
「さっき、なんでも作るってヨシュア言った」
慌てる俺に、メルクがすかさず言った。
「こ、こういうのはな……これを作った人が頑張って形を考えたから、真似をするのは駄目なんだ。欲しいなら、買ってあげないと」
咄嗟に思いついた言い訳に、イリアたちはおおと納得するような顔をした。
まあ、確かにこういった物は真似するより買うべきだ……
それならと、さっそくイリアたちはその仕立て屋に入っていく。それぞれ金は持たせているので大丈夫だろう。
エクレシアは少し興味がありそうな顔をしながらも、ユミルとエナ、そして俺と近くの露天を見ることにした。
だがそんな時、商業地区の広場がざわつくのが聞こえるのだった。




