157話 解放しました!
「うぉおおおおお!」
メッテは先陣を切って、王宮に渡る橋を進んでいく。
迫りくるスケルトンたちは、メッテの振るう金棒に成す術もなく倒されていった。
イリアは刀で、アスハは風魔法で、その後を追うようにスケルトンを倒していく。
また、対岸からは船に乗っていたユミルやモニカを始め、亜人たちがトレア軍と協力し攻撃してくれていた。
橋のスケルトンたちは挟撃される形となり、どんどんと数を減らしていく。
城壁上や、他の場所にはもうスケルトンは見えず、ここにいる者たちで終わりのようだ。
やがて最後の一体を、イーリスが剣で倒した。
「やった……やったわ! 私たちの勝利よ!!」
イーリスは天高く剣を掲げた。
トレアの兵たちもそれに武器を掲げ、歓声を上げた。
その声はやがて、王宮のほうからも響き、王都に木霊した。
大歓声の中、イーリスは俺たちに言う。
「ありがとう、皆……この恩を、トレアは忘れないわ。必ず恩を返させて」
「そう言ってもらえると、俺たちも嬉しい。しかし、まだまだやることは山積みだな」
王都の外にもスケルトンは出て行ってしまっているのだ。それに対応しなければいけない。
その後は荒廃した人々の暮らしを立て直す必要がある。この騒動の前の暮らしに戻るには、何年もかかるのではないだろうか。
イーリスたち王国人が汗をかくのは当然として、俺たちも協力できることは協力したい。それが、人間の亜人への偏見を消すことにも繋がるかもしれない。
「だがまずは、この骨を元のあるべき場所に戻すべきだな……」
「ええ……でも、どうしてこんなことを」
イーリスはメッテの背負うヨモツを見て言った。
人間への深い恨みゆえか、あるいは魔王への絶対的な忠誠のためか……いずれにせよ、俺たちにはこんなことはできない。
そんな中、メッテが複雑そうな顔をする。
「そうだ……敵と思いつい」
メッテは金棒で、次々とスケルトンを粉砕してしまった。
「気にしないで、メッテ。あなたたちが本気を出してくれなければ、私たちは勝てなかった」
イーリスはそんな言葉をメッテにかけてくれた。
確かに、俺たちには手加減をする余裕などなかった。メッテが刀で戦ってもイリアには及ばないが、金棒でならイリアに匹敵する。むしろ、どちらが沢山倒せたかというと、今回はメッテに軍配が上がる。
「……分かっている。だがせめて、手は合わさせてくれ」
周囲が勝利に沸く中、メッテは王都を埋め尽くす白骨に手を合わせた。イリアや他の亜人たちも同様に。
メッテの素直に喜べない反応は当然のものだ。
鬼人であり、人に恨みがあるメッテも、死者に対してはこういう気持ちを持つ。奴隷狩りの骨に対してだって、土に埋めて花を添えてあげるぐらいはした。
だがヨモツには、そんな気持ちは抱けなかったのだ。
人と魔物に埋められない溝があるのは知っているが、ヨモツにも何かがあるのだろう。
別にヨモツの顔を知りたいわけじゃない。俺たちは、ただヨモツの身柄を魔王との交渉に使うだけだ。
しかし、このヨモツには仲間がいる。少なくとも、キュウビがそうだということは判明している。
……あいつも、人間が憎いのだろうか。
そんなことを考えながら、俺たちは勝利に沸くトレア人が迎える王宮に帰還するのだった。
 




