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148話 船を求められました!?

「なるほど……」


 地下水道から階段を上がった先は、王都の中でもさらに高い防壁に囲まれた場所だった。

 周囲はテントで埋め尽くされているが、やたら手入れされた芝生を見るに、ここはもともと庭園か何かだったのだろう。


 テントだけではなく、ただ蹲っている人々がそこかしこにいる。


 俺は少し先を歩くイーリスに言う。


「敷地が足りてないようだな」

「彼らは、この外苑にしか居住が許されてないからね。テントがあるのはまだいいほう。中には、土の上で寝る人もいる」

「家は作っているのか?」

「資材はあることはあるけど、王が許さない……兄上が」

「そうか……」


 この防壁で囲まれた宮殿地区というわけだ。

 内部にも防壁に囲まれた部分があって、その中は内苑やら宮殿があるのだろう。


 イーリスが案内してくれたのは、大きなテントだった。前線で指揮官が集まるような、集会用のテントだ。


 中には、巨大なテーブルが置かれており、多くの騎士や兵士が地図のあちこち印をつけたり、駒を動かしている。


 今この時も、防壁の一部で戦闘が行われているようだ。


 誰も俺たちを気に留める者はいない。同行するイリアとメルクは人間に近い姿をしているからだろう。


 イーリスはテントの奥側の椅子に俺たちを座らせてくれた。

 自身も椅子にかけて、早速口を開く。 


「それで、神殿を目指していたのよね」

「ああ。途中でヴィンスさんに会った」

「あの神官長ね。神殿の近くからあのスケルトンたちが湧き出ているのは間違いないかな」

「やはりか」

「私たちも幾度となく決死隊を募って、神殿の封鎖を試みた……だけど、駄目だった」

「それは、戦力が足りなかったってことか?」


 イーリスは少し間を置いて、首を縦に振る。


「結果的にはそうなると思う。だけど、最初の決死隊の百人は特に、精鋭中の精鋭だった。彼らはスケルトンにやられるような者たちじゃない」

「じゃあ、別の敵に?」

「ええ。私たちは防壁から決死隊をずっと眺めていたの。彼らが神殿まで到達するのを望遠鏡で見てたわ……だけど、巨大な竜が火を吹いて……決死隊は灰すら残らなかった」

「魔法かブレスを使うやつがいる……」


 イリアが思い出したように言う。


「以前倒した不死の竜と同じかもしれませんね」

「ああ。スケルトンということを考えると、アンデッドドラゴンの可能性が高いかも」


 スケルトンをあれだけの数作れるということは、強力な死霊魔法師がいる可能性が高い。アンデッドドラゴンを使役していてもおかしくないのだ。


 一度、俺たちもアンデッドドラゴンとは戦っている。

 ファイアードラゴンの遺体がアンデッド化した個体と。


 アスハのいる天狗の山を占拠していたので、俺たちが討伐したのだ。

 あの時は回復魔法や、回復効果のあるエントの葉を駆使し、アンデッドドラゴンの痛覚を復活させ倒した。


「エントの葉は持ってきているから、同じ戦法が取れそうだな。それに、回復魔法を使えるメルクもいる」

「メルクの出番。頑張る」


 メルクは杖を手にして言った。


 しかしイーリスが苦笑いする。


「さ、さすがのヨシュアでも無理だよ。あれは私やソルムが一緒でも勝てない」

「だが、誰かがやらなければ、やがてアンデッドはここも呑み込んでしまう。予測はつくだろうけど、王国中にスケルトンはもう散らばってしまっている」

「それは分かっているわ……兄上が各諸侯に救援の船を求めているんだけど、誰も来ないからね」


 皆、自分の領地の防衛で手いっぱいなのだろう。あの避難民の数では、どの領地も混乱しているはずだ。


「だからこそ、早くこの騒動を鎮めないと。そこでイーリス。どこか、神殿までの近道はないかな」

「地下道とか? 残念だけど、ここと神殿では川で隔てられている。地下道はないわ」

「なるほど……」

「それに、神殿は小高い場所にあるからね。高さ的には、この宮殿地区より少し低いぐらいかな」

「となると、やはり川を渡って正攻法で行くべきか……」


 俺はアスハの作ってくれた地図を広げてみた。

 先ほど使おうとした最短経路でもう一度神殿を目指してみるか。


 しかし、俺たちはあそこで混乱を起こしている。

 向こうに指揮官がいるなら、そこにスケルトンを集中させるはずだ。


「何か他にいい方法はないかな……」

「そしたら、空を飛ぶ船で行く」


 メルクがそんなことを呟いた。


「あの設計図の飛行艇のことか? だけど、とても空を飛べるようには」

「エントがやってくれたのを思い出す。蔦で吊り上げて、運んでくれた」

「それはつまり……なるほど、索道か」


 ロープを伸ばし、それに荷台を吊り下げる。その荷台に乗って、神殿の近くまで行く。


「俺はハイドを使える……アスハと協力すれば、こちらからロープを取り付けることもできるだろう」


 イーリスは首を傾げる。


「ヨシュア……よくわからないけど、ちょっと難しいことやろうとしてない?」

「いいや、イーリス。俺たちならできる。どこか、高い場所を紹介してくれないか?」

「い、いいけど……うん?」


 突如、テントに伝令らしき兵が入ってくる。


 その兵士はまっすぐイーリスに向かってきた。


「で、殿下。陛下の近衛騎士が、地下水道に泊った船に」

「え? まさか、船を……ヨシュア」


 俺はイーリスに頷き、地下水道へと走った。

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