141話 遠征隊を組織しました!
ヴァースブルグに子供を送った翌朝、俺はフェンデル村に帰ってきていた。
今、同盟各種族の代表が、村の中央の円卓を囲んで座っている。
「ということだ……俺は、トレアに行きたい」
皆、真剣な顔で俺の話に耳を傾けている。
そんな中、話を聞いていた亜人の長老の一人が呟く。
「つまり、ヨシュア殿はこの村をしばらく留守にするということですか……」
他の長老たちも不安そうな表情を浮かべる。
メッテが腕を組みながら言う。
「今までもそんなことは何回もあっただろ。そもそも、私たちはヨシュアが来るまでは、ヨシュアがいなくてもやってこれたんだ。何を怖気づくことがある」
その声にエクレシアも頷く。
「しかも、我らにはヨシュアが作ってくれた道具と建物がある……それに、我らはこうして多種族の亜人が手を取り合っている」
「うむ。人間や魔王軍など、ワシらの敵ではない! 新しい兵器もいっぱいあるからのう」
ユミルは爆弾を見せて言った。
アスハが危ないから仕舞ってくださいと言う中、長老たちもやがて首を縦に振る。
イリアたちの説得のおかげだ。
だがそれ以上に、自分たちに多少の自信があるから、皆頷いてくれたのだろう。
俺の目から見ても、フェンデルはちょっとした国以上の戦力を持っている。
城壁に籠れば、数万の軍勢を相手にできるほどだ。
イリアが納得した長老たちを見て呟く。
「ヨシュア様も万全の備えをして、そのトレアに向かうと仰っています。それに私はフェンデルのためにも、人間の国は救うべきと思います」
モニカが頷いて呟く。
「南から魔王軍が迫っている中、北からも追われた人々がやってきたら……このフェンデルは二方向に問題を抱えることになります」
「そう。しかもヨシュアの言う通りだと、このままだと骸骨が北からもやってくる。前にダンジョンで倒した奴」
メルクの言う通り、トレアを制圧したアンデッドが南にやってくる可能性もある。
アンデッドがどうして湧いてきたのかは分からない。
だが恐らくは、どんな街にもある神殿の墓地の遺体などを利用して、アンデッドを召喚しているに違いない。
キュウビがやっていることか……あるいはそれ以外の者の可能性もあるが、魔王軍の仕業なのは間違いない。
「ああ。フェンデルにしても二正面作戦は避けたい……どうか、俺を北に行かせて欲しい」
そう言うと、皆は快く頷いてくれた。
しかしとメッテが続ける。
「ヨシュアだけ行かせるわけにはいかないな」
「ええ。そんな危険場所に一人で行かせるわけには行きませんからね」
モニカが言うと、エクレシアもうんうんと頷く。
「ヨシュアの性格を考えれば、会う者全てを助けようとするだろう。とてもではないが、帰還がいつになるか分からない……そういう意味でもヨシュア、我らから同行する者たちを選んで連れていってくれ」
アスハが首を傾げる。
「ですが、私たちを見たら人間の方々は怖がるのでは?」
俺は首を横に振る。
「そこは大丈夫だ。彼らも亜人を見たことがないわけじゃない。もちろん、嫌そうな視線を向けてきたり、珍しがるように見てくるやつらはいるだろうが」
人間も、奴隷の亜人やベイロンのような亜人の傭兵団のことは知っている。一般に南にいけばいくほど、亜人を見たことのある人間は多い。
「では、私たちのことも知っているわけですね」
「そうだ……なら、いっそのこと私たちもベイロンたちのように傭兵団みたいな名前で活動してはどうだ!?」
メッテが言うと、メルクも頷く。
「いい案。格好いい名前がいい」
「なら、ユミルディア同胞団にするのじゃ!」
ユミルの声に、メルクが「ユミルが一番偉いみたいだから駄目」と首を横に振る。
とはいえ、確かに活動名はあったほうがいいかもしれない。
フェンデル同盟、でもいい気がするが。
だが、その後もこういう名前がいいんじゃないかと皆意見を出してくれたので、しばらく静観することにした
白砂海賊団とか、黒羊毛昼寝団とか、まあ本当に色々な名前が出てきた。
そんな中、ベルドスがぽつりと呟く。
「無難にフェンデルを使えばいいだろう。人間たちに、フェンデル同盟のことを周知させるいい機会にもなる」
おお、と皆納得するように言う。
ベルドス頭いいとメルクが言うと、ベルドスは少し恥ずかしさそうに答える。
「べ、別に、当たり前のことだろう……下のなんとか団は、好きに決めればいい」
「では、フェンデル騎士団、というのはいかがでしょうか?」
イリアが皆に向けて言った。
騎士、という言葉をイリアが使うとは思わなかった。
「ソルムさんに聞きました。騎士は、本来弱き者のために剣を振るう者たちなのだと……まさにヨシュア様が、騎士の理想なのだとソルムさんは仰っていました」
「そ、ソルムがそんなことを?」
「ええ。私も、本当にヨシュア様のためにあるような言葉ですねとお答えしました」
二人でいくらか世間話をしているような場面はあった。
だが、まさかそんなことを話していたとは……
俺は少し恥ずかしくなってしまう。
そんな中、メルクが皆に向けて言う。
「なら、フェンデル騎士団にする。メルクたちも騎士になる」
皆、賛成と声を上げてくれた。
こうして俺たちは、フェンデル騎士団を名乗り、トレアに向かうことにした。
俺はもしものときのためにフェンデルに防衛用の地下通路を作っておく。
また、兵器や武器、道具、建物を有り余るほど作った。
イリアたちは俺が不在の中、どうやって外部の者に対応するか、長老たちと調整を進めてくれた。
それから遠征のための馬車など作り、俺は百人ほどの仲間と共に北へと向かった。




