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14話 北から人狼がやってきました!!

「ひゃっ!? な、なんだ!?」


 俺の横で、メッテがばさっと上半身を起こした。


「北……森からですね」


 同じく体を起こしたイリアは、涼しい顔をしてそう言った。


 いや、何で二人とも当たり前のように俺の両隣で寝てるんだ……?


 いやいや、今はそれどころじゃない。


「……奴隷狩りの別動隊かもしれない、見に行こう」

「はい!」

「ああ!」


 俺たちは見張り櫓へ向かった。


 すると、見張りが俺たちに気が付き、声を上げる。


「森の中に人影が見えた! それも獣のように速い! 北から、こっちに向かっている!」

「獣のように速い……騎兵隊かもしれないな」


 俺が言うと、メッテがすぐに周囲に声を上げた。


「すぐに戦闘準備だ! クロス棒と鉄の槍の訓練を受けた者は、北に向かえ!」


 鬼人たちはすぐに行動に移る。


「俺たちも北側に行こう」

「はい、ヨシュア様!」


 イリアは刀を握り、そう答えた。


 俺たちは村の北側で、森から来る者たちに備える。


 クロスボウを構えたメッテが呟く。


「音も聞こえてきた……数十……いや、百以上か!?」

「ええ。しかも、足音が迫るのが早い……」


 イリアも額から汗を流し、言った。


「そんなにか……」


 恐らくは騎兵かもしれない。

 ガイアスの死を聞きつけた騎士団の者だろうか。


 だが、騎士団の騎兵は全部で千。

 そのほとんどは、賊を討伐するため、西部に遠征している。

 急に南方にやってくるとは考えづらい。


 となると、奴隷狩りの騎兵隊か……

 ただ突っ込んでくるなら、昨日と同じ手が使えるが。


 それにこちらにはクロスボウを五十丁、鉄の槍を三十本装備した鬼人たちがいる。

 十分、撃退できるはずだ。


 しかし、俺の耳に聞こえてきたのは、馬特有の蹄音ではなかった。


 もっと軽く、静かな音だ。


 メッテはその音の正体を、こう推測した。


「この音は、人狼!?」


 人狼というのは、狼の特徴を持った人間のことだ。

 普段は人のような姿だが、戦いや狩りの際は、狼のような姿となる。


 ここ南方は、亜人の居留地が多い。

 人狼も住んでいたという報告を聞いた。


「イリア。鬼人と人狼は仲が悪いのか?」

「そうですね……百年以上前は、互いによく縄張り争いをしていたと聞きます。ですが、今は私どもの村はこんな感じですので、たまに森で会ったと聞くだけです」


 イリアの言葉に、メッテが頷く。


「私も森で会ったが、特に何事もなく別れた。一族の者が獲物を巡って殴り合いになったという話は聞いたが、それで大きな戦いに発展したわけでもない」


 互いに縄張りが小さくなり、衝突することもなくなったってことか……殴り合いってことは、相手もろくな武器を持ってなかったのだろう。

 人狼たちもきっと、鬼人たちと同じ生活をしていたはずだ。


「しかし、それが今になってどうして」


 考えられるのは、困窮し掠奪しに来た、か。


「ともかく、いつでも撃てる準備をしておくぞ!」


 メッテの叫びに、鬼人たちはおうと声を張り上げ、クロスボウを構える。


 と同時に、森から勢いよく飛び出してくる者たちが。


 それは灰色の狼たちだった。

 ただの狼ではなく、巨大な狼たち。人狼で間違いない。


 やけに痩せ細っているのは鬼人も変わらないが、様子がおかしい。

 

 皆、すでに血だらけだ。


 ある者は、人の姿のままぐったりしている人狼を抱えている。


 俺は、昨晩のガイアスの言葉を思い出した。

 獣の耳の者を捕まえ……終いには、殺したと。


「イリア、もしかしたら彼女たちも」

「奴隷狩りに襲われたのかもしれませんね」


 そんな中、人狼の先頭を行く比較的小さな狼は、俺たちを見て止まった。

 

 他の狼がそれを見て足止めると、小さな狼は一体でこちらに向かってくる。


「よく狙え!」

「メッテ、待ちなさい。あの人狼は話をしたがっているようです」


 そう言って、イリアは皆より一歩前に出た。


 すると、小さな狼はイリアの前で頭を垂れる。


「フェンデル族の方々とお見受け……します。どうか、わたしたちを南へ通していただけないでしょうか?」


 狼は幼い声で、かつ慣れない敬語で言った。


 イリアは頷き即答する。


「私たちも、あなた方と戦う意思はありません。通っていただいて構いません。でも、一体何が?」

「人間に襲われたのです……このままでは、あなた方も。一緒に逃げ」


 狼がそう言いかけたときだった、後方の森から声が上がった。

 今度は蹄の音も迫ってきている。


「皆さん、ともかくこちらへ!」


 イリアは迷わず人狼たちに叫んだ。


 メッテはすぐにイリアに言う。


「ひ、姫、しかし彼らは!」

「けが人もいるのです! 受け入れないわけにはいきません!」


 小さな狼も驚くような顔をしたが、「ありがとうございます」と頭を下げると、狼たちにこちらに来るよう促した。


 狼たちがちょうど村に入る頃、森から「ヒャッハー!」という声をと共に飛び出してくる者たちが。


 騎乗した奴隷狩りたちだった。

 全部で二十名ほどだ。


「どこに逃げたって無駄だぜ! 犬っころは、人間様のいうことを聞いてりゃいいんだ!! え?」


 奴隷狩りたちは、馬を走らせながら目を丸くした。


 無理もない、目の前にクロスボウを向けた者たちが並んでいるのだから。


 相当速度を出していたのか、馬はすぐには止まらなかった。


「メッテ、馬は使いたい。できるだけ、人だけを狙ってくれ」

「わかった! 馬の上の人だけを狙え!! 撃て!!」


 その瞬間、鬼人たちはクロスボウの引き金を引き、ボルトを打ち出した。


「ぎゃんっ!?」

「あべじっ!?」


 鬼人たちは次々と奴隷狩りを射止めていく。


 すべての奴隷狩りが倒れると、鬼人たちから歓声が上がるのだった。

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