139話 北も大変なことになっていました!?
小さな小屋を作り、そこに子供たちを寝かせてから一時間。
看病をしていると、エントから話を聞きつけたイリアとメルクが小屋までやってきた。
「ヨシュア様。村から馬車を持ってまいりました」
「ありがとう、イリア、メルク」
「ヨシュア様のためなら、例え山の中でも森の中でも駆けつけます! それで、この子たちを村に移送しますか?」
「そうだな、病状が落ち着けば……ただ、その前に話を聞いてみる必要がありそうだ」
そんな中、メルクは杖で子供たちに回復魔法をかけてくれた。
メルクの回復魔法は俺よりも強力。
心なしか、子供たちは皆さらに安心したような顔をした。
まだ、十二歳ぐらいの子供たち。
ここに来るまで、きっと辛い思いをしたことだろう。
しばらくすると、一人の少女が目を覚ました。
「あ、あれ……ここは?」
「森の中で君たちは倒れていたんだ。ほら、まずは飲物を」
搾りたてのオレンジジュースの入ったコップを少女に渡す。
「水の方がよかったかな?」
「う、ううん! 甘い物飲みたかった!」
少女はいただきますと、俺からコップを受取り、オレンジジュースを飲んだ。
「美味しい……こんなの、いつぶりだろう」
「まだまだいっぱいあるから、ゆっくり飲むと良い。ご飯も用意してある」
俺は少女にパンや焼き魚も渡していった。
少女がそれを食べる中、何気なく訊ねてみる。
「話したくなければ大丈夫だけど、君たちはどこから来たんだ?」
「トーレリア……」
「トーレリア? トレア州のか?」
少女はうんと頷く。
トレア州は、ここフェンデル州の少し北側に位置する人間の州だ。
その州のほとんどが、トレア王国の領土。
トレアは南方に近いだけあって、それなりの軍事力を誇る強国だ。
トーレリアはそのトレア王国の王都だ。
人間の城塞都市の中でも一際立派な城壁を持った巨大な都市。
シュバルツ騎士団領に近かったこともあり、俺も何度か行ったことがあるが、裕福な国である。
そんな王都の子供がなんでこんな場所にいるのだろうか?
「どうして、こんなところに君たちだけで?」
「いっぱい……いっぱい、王都で人が死んだの。私たちは、お母さんたちに守られながら逃げてきた。でも、途中ではぐれてしまって」
「王都で……人が?」
すでに神殿の聖職者たちがおかしなことは知っていた。
これも、キュウビのせいなのだろうか?
とにかくただならぬことが起きている。
俺は目に涙を浮かべる少女を安心させるように言う。
「近くに、人間の街がある。もしかしたら、そこにお母さんたちがいるかもしれない。皆が治って、食べ物を食べたらそこに向かおう。さあ、蜂蜜のお菓子もあるから」
俺は少女にお菓子を与える。
少女は涙を流しながらも、とても腹を空かせていたのだろう。腹に流し込むようにいっぱい食べた。
俺はイリアとメルク、そしてエクレシアに言う。
「一度、ヴァースブルグに彼女たちを送っていこう……もしかしたら、ソルムにも何かしら情報が入っているかもしれない」
こうして俺たちは、子供たちをヴァースブルグまで送っていくことにした。
 




