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131話 技術不足でした!?

「ふむふむ、確かにこれは海に行った時に使った船と形が一緒じゃな」


 ユミルはできあがった船体を見て言った。


 ダンジョン攻略後、俺たちはユミルディアでダンジョン攻略の祝宴を開いていた。


 だが、俺とユミルは設計図が気になって仕方がなかった。

 互いにモノづくりが好きな者同士だからか、豪華な食事よりも設計図をずっと見ていたのだ。


 結局いてもたってもいられなくなり、俺とユミルは早速設計図の物を作ってみることにした。


 とりあえずは形だけ真似て設計図の、空飛ぶ船──飛行艇と呼ぶ船を完成させたのだ。


「しかし、どうやってこれを飛ばすのか……」


 メッテは船の両舷から伸びた翼と、甲板につけられた丸い物体を見て呟いた。


 このへんてこな船は、ダンジョンで手に入れた設計図を基にして作った飛行艇だ。


 翼はアイアンオークを使った木製、丸い物体は帆布でできている。ダンジョンで見つけた設計図には素材までは記されていないから、なるべく軽いものを作った。


 問題はここからだ。

 鳥のように翼を動かすことで船は飛べるのだろう。


 この飛行艇は、甲板から伸びたオールを骨格に翼にしてある。なので、船を漕ぐようにオールを動かせば、飛べると思ったが……


 力自慢の鬼人たちに漕いでもらったが、とても飛べない。

 重さのせいで浮かべないのだろう。


 祝宴に参加する者たちは皆、記念のオブジェだとか飛行艇を見て笑っている。


 イリアは俺の作った物を馬鹿にするなとでも言いたいのか、皆に不気味な笑顔を向けるが……


 俺は溜息を吐く。


「浮かばないんじゃ、本当にただのオブジェだな」


 その声に、メルクがアスハを見て言う。


「アスハの風魔法を使えば、簡単。きっと、丸いものに風を送る。これで皆、きっと飛べる」

「できなくはないと思いますが……」


 不安そうに言うアスハに、メッテが首を横にぶんぶんと振る。


「浮かんでも、進めないだろう。というか少しでも揺れたら……」


 メッテは青い顔をする。海に行った時に酔ったのを思い出したのだろう。それ以上に、落ちたらひとたまりもない。


 俺は腕を組んで考え込む。


「風魔法を使うなら、そもそも翼はいらないよな」

「いえ。バランスを取るためにも、きっと翼はあったほうがいいかと」

「アスハが言うなら、そうなんだろうな。矢にも矢羽根は必要だしな」


 そう答えると、ユミルが呟く。


「ともかく、ワシらのほうでも色々と考えてみるのじゃ」

「ドワーフたちなら、何かいい考えが浮かぶかもしれないからな……まあ、ともかくこれでダンジョンのほうはもう安心だ。俺たちも食事にしよう」

「うむ。もう、声に怯える必要はないしのう!」

「ああ、安心して採掘できるはずだ」


 そう言うと、イリアが不思議そうな顔をする。


「ユミルさんたちが調べたので、もう隠し部屋はないのは分かりますが、近くに同じような場所はないのでしょうか?」

「前にダンジョンは昔の魔物の家って話をしたと思うけど、あの時代の魔物は今の魔王軍みたいにまとまっていたわけじゃない。互いに、縄張り争いをしていたんだ。だから、基本的にダンジョンは離れているものなんだよ」

「なるほど。では、すぐ近くにはないと」

「そうなるな。それに、あのダンジョンはそこまで大きくなかった。それを考えると、昔魔物が住んでいた時代も、ここは辺境だったんだと思う。周辺にダンジョンも少なかったはずだ」


 俺の言葉にメッテが訊ねる。


「あれよりも大きな地下空間があるのか?」

「ああ。入って最奥に行くまで一か月かかったダンジョンや、百年間冒険者が挑み続けたが結局攻略できなかったダンジョンとか……」

「途方もない話だな。一応、他の亜人たちにはダンジョンみたいな場所を見つけたら、入らないよう伝えておくぞ」

「ああ、そうしてくれ。今回戦ったリッチみたいなやつがいる可能性もあるからな」


 俺だけで戦っていたら、とりあえず逃げることを考えてただろう。イリアたちがいたから倒せた。非常に強力な敵だった。


 メルクが頷く。


「ヨシュアがいなかったら危なかった。メルクたちももっと魔法を勉強する」

「いや、俺一人じゃ……それよりも、さっきの回復魔法はたいしたものだったぞ、メルク。狙いも正確だったし。ヴァースブルグの魔導書から学んだのか?」

「そう。アスハとちょっとずつ勉強している」


 メルクが腰に提げていた魔導書を見せると、ユミルが興味深そうに見てくる。


「ワシらも、ヨシュアの生産魔法を使えるかのう?」

「ヨシュアのは難しいと思う」

「まあ、そうじゃろうな……」


 肩を落とすユミルに、メルクは励ますように言う。


「火を出したり水を出すのは簡単。ユミルも勉強する?」

「したいのじゃ! より、物作りが捗るはずじゃ!」


 そう話すと、他のドワーフの子供たちも集まってくる。

 皆も魔法を学びたいそうだ。


「困った。フェンデルでも、もう何十人も教えている」

「フレッタさんやモーさんとか、エルフやミノタウロスの皆さんも魔法を教えて欲しいって言ってましたね」


 アスハも困ったような顔で言う。


 メルクとアスハは何かを訴えるように俺を見た。


「……まあ、俺も色々作るものが落ち着いてきたし、時間があるときに皆に魔法を教えるよ。せっかくだし、石切り場の近くで学校でも作るか。あそこなら、フェンデルとこのユミルディアにも近い。川も近いから、エルフやカッパの住んでいる場所の行き来も楽だ」

「いい案。さっそく明日作ってみる」

「ああ。魔法だけじゃなくて、色々なことが学べるようにしておこう。ドワーフから鍛冶を学んだり、エルフから弓術を学んだり、カッパから泳ぎを学んだり」


 他の種族が得意なことに興味を示す亜人もいる。ここらで、フェンデル同盟の交流の中心となるような場所があるといいだろう。


 互いに交流していくうちに、今回の飛ばない飛行艇に関して何かアイデアを思いつくかもしれない。新しい技術や知識が生まれるかも。


 こうして俺たちは学校を作ることにした。

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