130話 設計図を手に入れました!
本日で連載開始からちょうど一年が経ちました!
おかげさまで130話を超え、先月には書籍版も発売されました。読んでくださった方々に感謝申し上げます!
「皆は周囲のスケルトンを倒してくれ! 俺は、あのリッチを倒す」
俺の言葉に、皆は四方から迫るスケルトンと戦い始めた。
リッチは、人間でも最高級の魔法師と同等の魔力を操るとされている。
俺はまずリッチに火魔法を放つが、リッチのマジックシールドに簡単に跳ね返されてしまった。
リッチはそんな俺に、己の魔法を誇るかのように極大の火炎を放つ。
俺はマジックシールドを展開して、それを防いだ。
衝撃はもちろん、火炎の熱も半端ではない。床の石材が溶けてしまっている。
「──っ! なんて、火炎だ。皆、大丈夫か?」
周囲を見るが、誰も怪我はない。
イリアをはじめ、大丈夫という言葉が返ってくる。
魔法自体はなんとか防げるか。
しかし、やつと俺では扱える魔法の種類が違う。他にどんな魔法を使ってくるか分からない。
一方でイリアたちは、次々と周囲のスケルトンを倒していった。
だが、スケルトンは際限なく現れる。
この状況ではユミルたちもトラップをどうにかするどころではない。
そもそもこのスケルトンの大部分はリッチが召喚しているのだろう。
だから、俺がリッチを倒さなければいけない。
それにリッチの体には、魔法しか効かないのだから。
もちろん、イリアたちの攻撃が通用しないわけではないと思う。
皆は魔力の宿る武器を持っている。
ダメージは与えられると思うが、近づいて敵の魔法を喰らえば厳しい。なにより、奴との間には大量のスケルトンがいる。あの厚いマジックシールドも破らなければいけない。
だから俺がやらなければ……
そんな中、イリアが俺の隣で言う。
「ヨシュア様。ご指示を」
「イリア……」
残念だが、俺だけの力では敵わない。
超人的なイリアたちの力に頼らなければ。
俺はリッチの攻撃を防ぎながら、イリアに作戦を伝える。
その後、リッチの攻撃が止んだのを見計らって、アスハに叫ぶ。
「アスハ! リッチに向かって、風魔法を!」
「はい!」
その言葉にアスハは風魔法をリッチの方向へ放つ。
突風が吹き、リッチを守るスケルトンたちを神殿のほうへ吹き飛ばしていった。
だがリッチは、飛んでいかない。その場で悠々と浮遊していた。
だが、これでリッチまでの道ができた。
俺はその機を逃さず、身を隠せるような岩壁を、リッチまでの進路に次々と作っていった。
「イリア! 今だ!」
「はい!!」
イリアは刀を手に、複数の岩壁を盾にリッチへ近づいていく。
リッチも魔法で岩壁を破壊していくが、イリアはすでに次の岩壁にいる。あまりに速すぎるためか、イリアの姿を捉えられないようだ。
やがてリッチはイリアを見失ってしまったのか、周囲を探すように見回す。
「よし! メルク、回復魔法を周囲に!」
「わかった」
メルクはリッチの周囲に回復魔法を放った。
アンデッドには回復魔法が有効だ。しかし、リッチのマジックシールドは破れない。
そんな中、イリアはリッチの目の前にいた。
「前です!」
その声に前を向くリッチ。
そこには、イリアの姿が映ったはずだ。
だが、すぐにそれが偽のイリア……鏡に映ったイリアだと思い込む。
リッチは後方を向いて、マジックシールドを展開した。しかし、そこにもイリアの姿はない。
次の瞬間、リッチは後方のイリアに首を落とされるのだった。
リッチの遺体と、ガラスが地面に落ちる。
と同時に、周囲のスケルトンの大半が消滅した。
「おお! 倒した!」
メッテが声を上げる。
ユミルたちもでてきて、やったと声を上げる。
しかしメルクが首を傾げた。
「なんで、リッチは後ろを振り向いた?」
「こんなのを作ったんだよ。ちょうどガラスも入ったし」
俺は、メルクの前に、先程リッチの前に展開したのと同じ板を出した。
上はガラス、下はガラスに金属を張り合わせた鏡になっている。
メルクはぽんぽんと板を叩く。
「ガラス。上は透けるけど、下は自分の姿が映っている」
「ああ。リッチはこれを見て、一枚の鏡があると錯覚したんだ。だが、実際の上の部分はガラス。見えていたイリアは本物だった」
「二重で騙した。ヨシュアは本当にかしこい」
メルクは感心するように言った。
「せっかくガラスが手に入ったし、使わない手はない。それにメルクが回復魔法でリッチが魔力を探るのを混乱させてくれたおかげだ。あれでイリアの位置を誤魔化せた。スケルトンを倒したメッテやアスハの力も当然ある」
俺はそう言って、ユミルたちに振り返る。
ユミルたちドワーフはすでに、岩壁の向こうにトラップがないか探ってくれていた。
まだ少しスケルトンが残っているが、ベルドスが倒してくれている。
「よし、俺たちは神殿に向かおう。ユミル、宝箱を開けるぞ!」
「今いくのじゃ!」
俺たちはそのまま、神殿のほうへと向かった。
そこには変わらず綺麗な宝箱がある。
「さ、ユミル。開けてみてくれ」
「本当にワシでいいのか?」
「ああ。魔力の類はない。構造を見ても、大した罠はないだろう。一応、開けても中にはすぐに手を入れないでくれ」
「分かったのじゃ! それでは開けるぞ!」
ユミルはそのままぱかりと宝箱を開けた。
するとその中には、巻物が入っていた。
「これはスクロール? ……にしては魔力を感じないな」
スクロールは魔法を覚えられる魔法の道具だ。
その性質上、魔力を宿しているはずだが……
今の俺は魔覚の魔法が使えるが、魔力を感じない。
「となると、ただの……いや、何か面白い物が書いてあるかも。ユミル、その巻物を広げてみてくれ」
「うむ! ──ううん? なんじゃ、これ?」
ユミルが広げた巻物は、何かの設計図のようなものだった。
一見、船のように見えるが、船体から丸い球体が浮かんでいたり、羽根のようなものが両舷から伸びている。まるで空を飛べるような船だ。
「空を飛ぶ船……ってところかな。大事なものだから保管していたんだろうが……」
とてもそんなものは作れないだろう。
誰かの空想を描いただけかもしれない。
「まあ、帰ったら、俺とドワーフで作ってみるか」
「そうするのじゃ!」
「ああ。ともかくこれでダンジョンは攻略だ! 皆、よくやってくれた」
こうして俺たちは、ダンジョンを攻略するのだった。
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