129話 ボスでした!?
「ここは」
俺は壁に開いた穴を覗きこむ。
そこには、さらに下に続く長い階段が。
だが今までの通路や階段と内装が違う。赤色の絨毯が敷かれており、壁には蝋燭を立てかけるような台があった。天井には、何も灯っていない豪華なシャンデリアがある。
ダンジョンの隠し部屋。
如何にもな雰囲気だ。
「だいたいこういう場所には、強力な敵が現れる。塞いで戻るのも手だが」
「ここまで来たんだ。ちゃちゃっと行かないか?」
メッテがそう言うと、皆もうんうんと頷く。
「なら、そうするか……今は魔力の反応はないが、降りた瞬間に敵が召喚されると思う。俺がマジックシールドを展開して降りるから、皆は後ろから来てくれ。ユミルたちは、今まで通り壁を」
そう言って、俺は階段を下り始めた。
階段を下りている分には、スケルトンは現れない。
ユミルたちも岩壁を剥がすが、トラップの類は見つけられていない。
嵐の前の静けさか。この下にはボスらしき者が待ち構えているのかもしれない。そして最奥には、何か貴重なものが眠っていたり──
期待と不安を胸に進んでいると、次第に階段の底が見えてきた。
やはりというべきか、広い空間に繋がっているようだ。
「ここからは危険だ。ベルドス、入り口を守ってくれ。俺とメッテが前衛を務める。メルクは回復、アスハとイリアは臨機応変に頼む」
俺の言葉に皆が頷く。
マジックシールドを前に、俺は階段を下りきる。
目の前には、暗い闇……ではなく、薄暗い空間が広がっていた。
俺たちが足を踏み入れるのと同時に、壁と天井の火が点いたようだ。
地下にしては広い空間だ。
天井までの高さは、二階建ての建物ぐらいある。
奥行きは、五十ベートルはありそうだ。幅もそれぐらい。
そして最奥には神殿らしき建物がある。その中には、キラキラと輝く装飾箱があった。
ユミルが声を上げる。
「おお、お宝なのじゃ!! さっそく、あけてみようぞ!」
「見え見え。絶対、近づいたら何かある」
メルクの声に俺も頷く。
「どんなトラップだろうか……ユミル。宝箱は開けさせてあげるから、ベルドスと待っていてくれ」
俺は大広間に足を踏み入れた。
周囲を確認しながら慎重に、一歩一歩神殿へと進んでいく。
すると、大広間の中央に魔力の動きを察知する。
「これは……来るぞ! 前だ!」
俺が声を上げると、皆武器を構える。
前方にはやがて、ぼろ布を纏った何かが現れた。
「リッチか!」
リッチは不死の魔法師。
白骨なのはスケルトンと同じだが、魔法を使える。他にもウィザードスケルトンなど魔法を使うアンデッドはいるが、それの上位種に当たるのがこのリッチだ。
「皆、こいつには魔法しか効かない」
「魔法の武器はどうでしょう?」
イリアが訊ねるので俺は首を縦に振る。
「それなら効く。だが、こいつはただ者じゃない」
リッチは膨大な魔力を宿していた。
すでに、周囲には分厚い魔力の壁、俺もよく使うマジックシールドが展開されている。
それからリッチは片手を掲げ、黒い靄を放出させた。靄は拡散すると、周囲にスケルトンを召喚させる。
先ほど戦ったスケルトンたちとは違い、皆、重厚な鎧に身を包んでいる。盾も大きく、剣も鋭利だ。
俺たちは瞬く間に包囲されてしまうのだった。




