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122話 問答しました!

 声を上げたのは、ソルムだったようだ。


 俺は武器を下ろして言う。


「悪いな。俺も戦うために、ここに来たんじゃないんだが」


 ソルムが答える。


「分かってますよ、ヨシュア殿。ともかく、ヴィンス殿。ひとまず彼らを」

「……いいでしょう。神々の子らよ、野営地に戻りなさい」


 ヴィンスと呼ばれた司祭服の老人は、神殿騎士団の農民にそう告げた。


 農民たちは納得のいかない顔をしながらも、ヴィンスの声に従い、テントの張ってあるほうへ引き上げた。


 ソルムはヴィンスにこう続ける。


「彼はヨシュア殿。私の戦友です。ヨシュア殿、こちらは南方神殿の神官長ヴィンス殿だ」


 俺は武器を降ろし、そう話すソルムのもとに歩み寄った。


 そしてヴィンスに言う。


「ヴィンスさん。あの数で、あの武装で、南に向かうつもりですか? 無茶もいいところだ」


 するとヴィンスは、血走った目をぎろりと向けて答える。


「何を言うか! 我らは神々の戦士! 決して、異形の者どもには負けぬ!」

「負けます! たったの五百人だ! しかも、ろくな武器もない。訓練もしてないでしょう。それで、何ができるんです!?」

「ワシらを愚弄するか! 数や武器の質など問題ない! 信仰こそが武器だ! 信仰があれば、魔王軍は絶滅できる!」


 このヴィンスという男も、農民と同じようなことを宣った。


 正常な思考を失っているのは間違いない。

 だが、もともと正常な思考ができないなら、彼はここにはいないはずだ。


「ならば問います。なぜ、この劣勢になる今の今まで、あなたは南へ行かなかった?」

「それは! それは……それは……魔王軍と戦うため」


 ヴィンスは突如、言葉に詰まり始めた。


「何故、今まで魔王軍と戦わなかったのですか? 信仰があれば、魔王軍は絶滅できたのでしょう? なら、なぜ今まで野放しにしてたのです?」

「それは……な、何故じゃ? いや、今回の魔王軍は勢いが違うから……いいや、それでは今まで行かなかった理由には」


 頭を抱えるヴィンスに俺は回復魔法をかけた。


「とにかく落ち着いて。まずは茶でも飲みましょう」


 俺はヴィンスを近くの丸太に座らせた。


 そしてエントの葉で淹れた茶を、木の杯に注いで渡す。


「こちらを」

「ふ、ふむ……」


 ヴィンスは茶を口にする。


「なんと甘い──むっ? わ、ワシは今まで何を?」

「もう一度聞きます。なぜ、あなたは南へ?」

「南の都市を落とした魔王軍と戦うため……その準備もしていた」

「それにしては、準備不足に思えます。人数も武器も、食料さえも足りなかったのでは?」

「お主の、言う通りじゃ。なぜこんなにも早まってしまったのだろう?」


 ヴィンスは自分でも分からないのか、困惑するような顔をした。


 何かの魔法をかけられていた? しかし、誰に?

 他の人間が唆す理由は見つからない。彼らはもともと戦うつもりだったんだ。それを早めて何になる。


 ならば、考えられるのはやはり……


「イリア、メルク。これをさっきの男たちに分けてきてくれるか?」


 俺はまず、イリアとメルクに大きな水筒を渡す。

 中には、エントの葉の粉末を混ぜた水が入っている。


「かしこまりました」

「まかせておく」


 イリアとメルクは、そのまま神殿騎士団のいる野営地へ向かった。 


 それからヴィンスに問う。


「誰か、男を覚えていませんか?」

「そう言われれば、不思議な男が一人やってきた」

「男はなんと?」

「神々が守ってくれるから、南へ向かえと。今はまだ無理とワシは答えた……そのはずじゃが」

「男の顔は覚えていますか?」

「覚えておらん。ただ、不思議な光を見た」

「なるほど」


 キュウビか、彼と同じような幻惑の力を持つ者の仕業で間違いない。


「ヴィンスさん。あなたはその男になんらかの魔法をかけられた可能性がある。最近魔物の動きが活発化していることにも関係があるかもしれません」

「そうだろう、な。でなければ、こんなことをするはずがない。ヨシュア殿、ありがとう。ソルム殿、先程はすまなかった」


 ヴィンスは俺とソルムに頭を下げた。


 ソルムは首を横に振って言う。


「気になさるな。魔王軍を倒したい気持ちは我ら同じ。しかし、ヨシュア殿の言うことが本当なら……」

「他の神殿でも、同じ混乱が起きているかもな」


 俺に同調するように、ヴィンスがうんと頷く。


「こういうときこそ、我ら神殿がしっかりしなければ……このまま引き返すのは悔しいが、ワシは一度北へ引き返す。他の神殿にも文を送り、まずは足元を固めなければ。我が兵は、しばらくここに駐留させてくれないか?」

「もちろん、私は構いません。むしろ心強い」

「ありがとう。神殿への呼びかけが終われば、ワシもまた戻ってくる。それまで、彼らをよろしく頼む」


 ヴィンスはそう言って頭を下げた。


 この後、イリアとメルクが茶を飲ませたおかげで、神殿騎士団は正気を取り戻した。

 ヴィンスは翌日、数名とともに北へ戻るのだった。

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