118話 海の仲間が増えました!?
俺たちは見つけた子供エナを船に乗せ、白砂島へ向かった。
島が近づいてくると、メルクが鼻を空に向けて言う。
「パンや魚の匂いがする……誰かが、家の中のものを食べた」
「本当か?」
その言葉に、俺は空を飛ぶアスハに目を向ける。
アスハも肯定するように頷いた。
「蓑の服を着た方々が家の近くにいます」
その声に、エナが船首へと向かう。
「あたし、先に行ってきます。多分、皆を見たら逃げちゃうと思うから」
「分かった。頼んだよ、エナ」
エナは頷くと、海へ飛び込んだ。
そのまま船よりも早く、島へと泳いでいく。
メルクが呟く。
「泳ぎは達者」
「ああ。あんなに小さいのにな」
高波をものともせず進んでいく。
水に強い種族ということは確かだ。
それからしばらくして、エナが白砂島に上陸するのが見えた。
他の仲間はそんなエナを走って迎える。
エクレシアが呟く。
「無事に再会できたようだな」
「皆さん、喜んでいるようですね!」
イリアもホッと一息ついた。
「本当に良かった。仲間も心配してたでしょう」
モニカもフレッタの行方が分からないときがあった。
だから、彼らの気持ちが分かるだろう。
そんな中、ベルドスは一人だけ腕を組んでいた。
「ふむ……しかし」
「ベルドス、難しい顔をしている」
メルクが不思議そうに呟いた。
ベルドスは問題の根本が解決してないと言いたいのだろう。
俺はベルドスに頷いて言う。
「また、魔王軍が来ないとも限らないな」
「うむ。あの巨大なクラーケンとやらを連れてきたのだ。次はもっと大きな敵を引き連れてきてもおかしくない。それに、あの貝の大軍も厄介だ。彼らだけでやっていけるだろうか?」
「今の彼らだけでは、とても太刀打ちできないだろうな。そこらへんは、今から話してみるよ」
俺はそう言って帆と舵を操り、島の桟橋に船を着けた。
桟橋の近くには、先にエナが話をつけてくれたのだろう、エナと同じ緑色の肌の者たちが十名ほどいた。
「メッメー、ようやくついたっす!」
「何度乗っても慣れないな……」
セレス、メッテ、ユミルは船を降りると、桟橋に腰を落とした。
そんな中、エナと緑色の肌の者たちがやってくる。
エナの隣に立つ緑色の肌の小人は、代表するように俺に言った。
「ヨシュア様、ですね? エナから聞きました。エナを、村を、助けてくださり、ありがとうございます。それと家のあの食べ物は……」
「あれはあなたたちに食べてほしくて置いていったものだ。勝手にごちゃごちゃ建てちゃったし」
「気になさらないでください。あの怪物を倒してくださったのですから──申し遅れました。私は、カッパ族のカンベルと申します」
カンベルと名乗る小人の言葉に、俺はモニカと顔を合わせた。
彼らこそが、俺たちが探していたカッパだったようだ。水辺に住む亜人ということで間違っていないだろう。
「この島を守ってくださり、娘を救ってくださり、お礼を申し上げます。食べ物も、本当に申し訳ない……あまりに良い匂いだったもので」
カンベルが深く頭を下げると、他の者たちも同様に頭を下げた。
そんな中、ぐうっという音が響いた。
エナがすぐに恥ずかしそうに腹を抑える。先程船上でパンをあげたが、まだまだ腹を空かせているようだ。
カンベルもまた、「これはお恥ずかしい」と頭を下げた。
それを見たメルクが言う。
「皆、ご飯食べながら話す。メッテ、魚を焼く」
「おー、任せておけ。何か食べれば、酔いも醒めるからな」
メッテは立ち上がると、昨日も使った焚火へと向かう。
「さあ、皆も。シールドシェルの肉とかもせっかくだから焼こう」
俺たちは焚火を囲みながら食事をすることにした。
最初桟橋には、十名ほどのカッパがいた。
だが地底湖のほうから続々とカッパたちがやってきて、今では百名以上になっている。もっと増えそうだ。
だからメッテだけでなく、俺たちも焚火を増やして調理を手伝った。
「美味しい! こんなに美味しい貝、初めて!」
エナは焼きあがった貝肉の串刺しを口にすると、頬を緩ませた。
カッパたちには魚介を焼くという習慣がなかったようだ。いつも生で食べていたのだろう。
それゆえ皆、焼いた魚介を珍しがっていた。美味しく食べてはくれているようだ。
カッパたちは自分たちで獲ったであろう魚介も持ち寄り、メッテたちに焼いてもらっている。皆、泳ぎが達者なだけあって素潜り漁は得意のようだ。
「おお、大漁だな。よしよし、もっと焼くからな」
カンベルも遠慮がちに食べると、俺に頭を下げる。
「本当になんとお礼を言えばいいか」
「気にしないでくれ。ところで、あの怪物……クラーケンのことで話がある」
「あれはクラーケンと呼ぶのですね。私どもの爪では全く歯が立たず、六名の仲間が大けがをしてしまいました……」
「そうだったか。あとで、治療をさせてくれ」
あのクラーケンの大きさだ。もっと被害が出ていてもおかしくない。
オルトの情けをかけたというのは、嘘ではなかったようだ。
カンベルは首を横に振る。
「そんなことまで? ……ありがとうございます。しかし、もう安心です。ヨシュア様たちが倒してくださいました。私たちも、倒すところを見ておりましたから。貝も追い払ってくださいましたし」
「だがあの貝、シールドシェルはまた戻ってくるかもしれない。やつらは今、魔王軍の支配下にあるんだ」
俺はクラーケンやシールドシェルを操っていたオルトのことを話した。
魔王軍が北への侵攻のために海からやってきていること、またここが危険になるかもしれないことも。
「オルトには魔王と交渉できないか伝えてある。しかし、どうなるかは分からない。だからカンベル。俺たちフェンデル同盟と手を組まないか?」
「もちろんです。私たちからしても心強い。それに、恩返しもさせていただきたい。ぜひ、お仲間に入れてください」
「ありがとう、カンベル。よろしく頼む」
「こちらこそ」
俺たちは互いに握手を交わした。
こうして、フェンデル同盟にまた新たな種族が加わるのだった。
 




