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112話 指揮官でした!?

「綺麗に焼けた」


 メルクは浜に打ちあがったクラーケンを前脚でつつき、生死を確認する。

  

 クラーケンを見るのも初めてだが、クラーケンが死んだのも始めて見た。


 体のほとんどが水分だったのか、今はほぼ皮だけのような見た目だ。


「しかし、ユミル……驚いたよ。ドワーフたちはあんなの作っていたのか」

「驚いたどころじゃないっす! あんなの持ったまま乗せるなんてとんでもないっす!」


 セレスは怒り声を上げた。


 ユミルはそんなセレスに近づくと、なだめるようにその頭を撫でる。


「そ、そう怒るでない。火をつけてもすぐ爆発しないようにはなっている」

「まあ、取り扱いは気を付けたほうがいいな。ドワーフたちにも、ああいった類の物は地下の頑丈なところに保管するよう伝えてくれ」

「分かったのじゃ……気を付けますのじゃ」

「でも、まあとても強力な武器だ。帰ったら俺にも分けてくれないか? 魔法工房にいくらか、いれておきたい」

「もちろんなのじゃ!」


 ユミルは元気よく答えてくれた。


 セレスもぷんぷんとしながらも、「気を付けるっすよ」と言った。


 まあ本当に危険な武器だ。

 でも、バリスタや投石器の弾として打てば、強力な兵器になるだろうな……あれは高位の魔法と同じような威力があった。


 そんな中、イリアが俺に訊ねる。


「このクラーケンの死骸はいかがしますか?」

「触手は……食べられるようだな」


 いつの間にか、カラスやワシなどの鳥が触手をついばんでいた。

 触手には特に毒の類は含まれてないのだろう。


 イカを焼いたような香りも漂っている。

 案外、イカやタコのように食べられるのかもしれない。

 もちろん、毒やらは確認してからのほうがいいが。


「俺の魔法工房に入る分、持って帰るよ。凍らせれば保存もできる。本体は、牙が刃物に使えるはずだ。毒も少し残っていれば、何か使い道があるだろうしな」


 俺はそう言ってクラーケンの体を回収し始める。


 だが、すぐに海がまた騒がしくなった。


「この気配は……」

「さっきのシールドシェルか」


 海から姿を現したのは、先程俺たちを襲ったシールドシェルたちだった。


 だがシールドシェルはこちらの様子を窺うように、離れた場所で待機している。


「襲ってこない?」


 彼らは先ほど、クラーケンが現れた時、一斉に撤退した。

 この動きもまるで何者かの指示を受けているようだ。


 そんな中、空を飛んでいたアスハが戻ってくる。


「ヨシュア様! 西からやってきた船がこの島の西側に」

「上陸してくるのか?」

「はい……そして見たこともない姿の者たちで。トカゲのような長い尻尾を生やしてました」

「リザードマンかもしれないな。ともかく、見に行こう。皆、周囲を警戒してくれ」


 俺はそう言って、西側へ向かった。


 このシールドシェルたちを操っている者の可能性が高い。

 ならばこのシールドシェルを蹴散らすよりは、操っている頭を叩くか、話し合いで解決したほうがいいだろう。


 シールドシェルは俺たちの行く手を阻まず、道を開けていく。


 そうして島の西側に着くと、そこには浜に上陸した船と、二本足で歩く緑色のトカゲ……リザードマンが五十体ほど砂浜にいた。


 リザードマンは長らく魔王軍に仕えていた水辺の魔物……だがその出自は、亜人のように人と魔族の混血とされている。


 砂浜のリザードマンは、山から迫る俺たちに気が付いたようだ。皆、槍や弓などを構えだす。


 こちらが近寄ると、リザードマンの一体が何かを叫ぶ。


 だが、すぐに違う者がそれを諫めるように叫び、俺たちに歩み寄ってきた。


 他のリザードマンより一回り大きい。彼の言葉でリザードマンたちの動きが止まったので、彼らの指導者で間違いない。


 やってきたリザードマンは俺たちを睨みつけながら、口を開く。


「人間、亜人……お前たちが、クラーケンをやったっていうのか?」

「あのクラーケンはお前の部下だったのか?」

「お前たちが倒したのは間違いなさそうだな……」


 リザードマンはさらに俺たちを警戒するように身構える。


「勘違いしないで欲しいが、俺たちは別に魔王軍との争いは望んでいない。お前たちが退くなら、俺たちもこれ以上戦うつもりはない」

「その言葉……お前たち、まさかビッシュのオーク軍を倒した、フェンデル同盟のやつらか?」

「そうだ」


 俺がそう答えた瞬間、リザードマンたちの空気が変わった。後ろのリザードマンが叫ぶ。


「お頭、逃げろ!! ここは俺たちが!!」


 同時に矢が一斉に俺のほうに飛んできた。


 だが、それはことごとく斬り落とされてしまった。イリアの刀によって。


 イリアの刀は、いつの間にかお頭と呼ばれたリザードマンの喉元に向けられている。


「これ以上動けば、私の刀も動きます」


 その声に、リザードマンたちは体を震わせた。


 お頭と呼ばれたリザードマンが言う。


「部下がすまない……お前たち、武器を降ろせ。彼らは、話し合いがしたいようだ」


 その声に、部下たちは武器をゆっくりと下ろした。


 それを見て、リザードマンは言う。


「本当にすまないことをした。だが、魔王軍は今あんたたちの話で持ちっきりなんだよ。なんせ、あのビッシュの軍を倒したんだからな」

「あれは、ベイロンたち虎人が味方してくれたからだ。過剰に恐れられても困るな。俺たちは別に魔王軍との戦いを望んでいるわけじゃないんだ。もちろん、人間相手にしてもそうだが」

「そうか……だが、俺たちはあんたたちに宣戦布告したようなものだ。この島は、お前たちフェンデル同盟のものだったのだろう? だから奪還しに」


 クラーケンとシールドシェルを差し向けたことだろうか?

 いや、奪還と言っている。

 つまりは、ここに亜人が住んでいたんだ。

 それはあの地底湖に住んでいた子供に違いない。


 ここで俺たちの仲間じゃないと明かすのは賢明じゃない。

 知っている体で話を続けよう。


「報復は望んでいない……ただ、”彼ら”をどこにやった?」

「碌な武器もない奴らだ。少しの戦いの後、多くは東へ逃げた。上は、クラーケンによる皆殺しを望んだがな」

「つまり、自分たちは情けをかけたと?」

「そうだ。今回の大親征には、俺たちも思うところがある……あのベイロンが強引に抜けたのも頷ける」


 そう話すリザードマンの顔はどこか不満そうだった。


 今回の魔王軍侵攻の勢いは今までとどこか違う。

 そして彼らは、特に意思を持たないシールドシェルやクラーケンを操っている。

 自身を魔王軍の密偵などと名乗ったキュウビもミノタウロスをけしかけていたわけだし、彼らは今までとは違う戦略を立てているのだろう。


 大親征と名付けるぐらいだ。

 きっと、魔王直々に遠征の指揮を執っているのかもしれない。


 一方で、このリザードマンたちは交渉が出来そうな相手ではある。


 俺はこう続けた。


「何度も繰り返すようで悪いが、フェンデル同盟としては、魔王軍との争いは望んでいない。魔王軍は無理でも、お前たちが退くというなら、俺たちもこれ以上争うつもりはない。お前たちの考えを聞かせてくれ」

「俺たちも故郷の海辺で暮らしていたいだけだ。だが……魔王軍上層部の指示には逆らえない」

「なら、魔王と交渉の席は持てないだろうか? 俺たちは正式な宣戦布告を受けているわけでもない。帰って、魔王に交渉をこちらが望んでいることを伝えて欲しい」

「魔王にか……? しかし」


 複雑そうな表情のリザードマン。

 魔王軍内部でも、権力闘争があるのだろうか。


「ともかく、今日はお前たちが背中を見せても、俺たちは何もしない」


 そう話すと、後方のリザードマンの一体が言う。


「し、信用できるものか!」

「黙れ! まだ、分からないのか? クラーケンを倒した奴らだ。俺らを殺そうと思うなら、簡単に殺せる」


 俺と話していたリザードマンはそう怒鳴ると、俺にこう告げる。


「その言葉に甘んじるとしよう……そういえば」

「俺はヨシュアだ。お前は?」

「オルトだ。リザードマンのオルアン族の長」


 オルトと名乗ったリザードマンは背を向けると、俺たちを警戒するように後退りする部下とともに船に乗り込む。


 オルトは船上から声を上げる。


「ヨシュア。魔王との交渉だが……努力はしてみる。だが、確約はできない」

「わかった。何かあれば、この島に文を届けてくれ」


 俺の言葉に頷くオルト。


 そのままリザードマンを乗せた船は、シールドシェルと共に西へ海を進むのだった。

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