109話 見たことのある場所でした!?
灯台を降りて、メルクとアスハのいる場所に向かった。
「メルク、アスハ。大丈夫か?」
「ごめんなさい、ヨシュア様……私はメルクさんにやめるよう言ったのですが」
アスハがぺこりと頭を下げる中、メルクはぽつりと呟く。
「メルクもまさか開くとは思わなかった。これと同じ匂いがしたから辿った」
「それは……フレッタが例の子供からもらった板か」
メルクはコクリと頷く。
そんな中、後ろからモニカ、エクレシア、ベルドスがやってくる。
モニカが心配そうな顔を俺に向けた。
「なにか音がしたので、来ましたが……」
「大丈夫だ、モニカ。皆、怪我はないよ」
ほっと胸を撫でおろすモニカ。
そんな中、エクレシアがメルクに訪ねる。
「メルク。ここから木の匂いがしたのか?」
「そう。エクレシアの言う通り、島の木は皆同じような匂いがした。だけど、この奥からはこの板と、特に似た匂いがする」
メルクが答えると、エクレシアが俺を見て言った。
「その板自体は、千年前の木だ。だが、この島に生えている木と同じ種類でな。島のどこかに、何かあるんじゃないかと思ったんだ。私も、匂いで追うのは無理だったが……メルクはさすがだな」
その声にメルクは「朝飯前」と答える。
「ともかく、この階段を下りてみる。きっと何かある」
メルクは、石畳に開いた穴を見て言った。
「何かあるのは確かだろうな。遺跡……いや、これは」
俺が言いかけると、イリアが頷く。
「私とヨシュア様が以前入った、ダンジョンに似ていますね」
「ああ。ゴーレムが採掘していた岩場の地下だな」
ダンジョンという言葉に、メルクたちは首を傾げる。
「簡単に言えば、昔の魔物の住処だよ。何か珍しい物が置かれている可能性もあるが、その場合罠が仕掛けられていることもあり得る。進むなら、慎重に進まないと」
俺はミノタウロスのベルドスに顔を向けた。
「誰か入ったらこの入り口が閉じる可能性がある。ベルドスはここにいてもらって、その際、岩かなんかで入り口が塞がらないようにしてくれるか?」
「うむ? 任せてくれ」
ベルドスは少し意外そうな顔をしたが、すぐに首を縦に振る。
自分に背中を任せるような真似をしていいのか、ということだろうか。
そんなことを心配しなくても、俺たちはミノタウロスを信頼している。
「モニカは周囲の警戒を頼む。ゴーレム……岩の人形が周囲から現れるかもしれない。赤い石が現れたら、それを弓で即座に射落としてくれ。それを壊さない限り、人形は壊れない」
「わ、わかりました」
モニカは背中の弓を持った。
「モニカの弓の腕なら大丈夫だよ。俺とイリア、メルクは前衛。アスハとエクレシアは後ろから支援してくれ。それじゃあ、行くぞ──トーチ」
魔法で光の球を浮かべ、俺は階段を下りた。
島自体はそこまで大きくなかった。このダンジョンも島より大きいとは思えないが……
だが、階段は相当な長さだった。
もう一分ほど歩いているが、まだまだ終わりが見えない。
この島の高さは二十ベートルほどだったはずだが……
もう海面の下まで下っていることになりそうだ。
しかし、しばらくするとようやく階段の終わりが見えてきた。
石の通路……にしては短い通路を進むと、目の前に木製の扉が見えてくる。
「ここ……この匂い」
メルクは扉に鼻に近づけて言った。
どうやら板と近い匂いがこの扉からするようだ。
「なら、何かしらの関連がありそうだな」
だが、扉に鍵穴などは見えない。
試しに押してみるが、扉はびくともしなかった。
扉の向こうからは、かすかにだが水の滴るような音が聞こえる。
海水が溜まっているから、開かないのかな?
なら、魔法工房で扉を吸収するか。
そう考え手をかざすが、扉は吸収できなかった。
これ自体に、特殊な魔法がかけられているのだろう。ダンジョンでは、構造物が壊されないような魔法が付与されていることがある。
扉だけでなく壁の石材なども試すが同様に吸収できなかった。
「駄目だ。俺の力じゃ開かない。ベルドスかメッテを呼んでくるかな」
「待て、ヨシュア。私に試させてくれないか」
エクレシアはそう言って、扉の前に立った。
「板に描かれた紋様。これがもしかしたら、扉を開く鍵になるかもしれない」
目を瞑り、エクレシアは板に刻まれた文字をなぞった。それから扉に、その刻印を描くように指を動かす。
すると、
「おお!」
扉は光を帯び、ゆっくりと開いてくのだった。




