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107話 出港しました!

「すいすい進む」


 メルクは船首で前方を眺めながら言った。


 船を造った翌日、俺たちはその船で川を下っていた。


 イリアをはじめ、フェンデルのそれぞれの種族を代表する者たち。村に一緒に住む者たちはもちろん、モニカやユミルも今回は同行している。


 村ではそれぞれの種族の長老たちに緊急時は対応してもらうことになっている。

 何か問題があれば、天狗が報告に来てもらえるようにもした。

 ここの力は、魔物や人間を凌ぐ亜人たちだし、俺やイリアたちがいなくても問題ない。


「ヨシュア様、こんな感じでよろしいでしょうか?」


 帆柱の隣に立つ俺に、船の上を飛ぶアスハが声をかけてきた。


「ああ。十分だ。アスハも少し休め」


 俺の言葉に、アスハも船に降りてくる。


 アスハの風魔法がなくても、追い風で川の流れも急だから船はすいすい進む。

 速度は十分出ているから、あとは岸に乗り上げたり、岩に衝突しないようにするだけだ。


「おお! 見えてきたぞ!」


 メッテは川の先に見えてきた水平線を見て叫んだ。


 日光を浴びてキラキラと輝く水面、香ってくる潮の香り。海が見えてきた。


 イリアは海を見て、息を呑む。


「あんなに水が……まるで空みたいですね。どこまで続いているんでしょうか?」

「俺というか、人間も皆知らない。まだ誰も、あの海の終わりを見たことがないんだよ。船乗りの話だと、世界は陸地よりも海のほうが広いらしい。何か月進んでも、陸地が見えないこともあるそうだ」


 俺の言葉にエクレシアが少しぞっとするような顔をする。


「陸地がないなんて、考えられないな……」

「先祖の話ですが、海について聞いたことがあります。海をずっと進むと、やがて空に見える星にたどり着くと」


 モニカはそんなことを話してくれた。


 人間にも同じような話が語り継がれている。あの世に繋がっているとか、果てには永遠に落ちる滝があるのだとか。


 そんな大海に乗り出す……ことが今回の目的ではない。あくまで沿岸付近を航海し、他の亜人を見つけたり、魔王軍の動きを探るのが目的だ。俺たちの村に現れ、蓑の衣服を置いていった子供も気になる。


 どちらにしろ、この小さな船では荒れ狂う外洋は進めない。もっと大きな船が必要になる。


 皆が興奮する中、メッテが甲板に横たわりながら青ざめた顔で言う。


「い、いずれにせよ、ちょっとどっかの陸地で一度休まないか?」

「賛成……なんというか、ワシ、体がふらふらして」

「メッメー……目の前で、ケーキが踊ってるっす」


 ユミルとセレスも、そんなことを呟く。どうやら船酔いしてしまったようだ。


 メルクは情けないと声をかける中、イリアが呟く。


「まだ夕暮れまでありますが、メッテの様子を見ると……」

「限界だな。一度、河口付近に着けて休憩しよう。今日はそこで野営の準備だ」


 俺はそう呟き、前方を見渡した。


 すでに海に近い川の下流まで来ており、川幅が広くなってきている。


 休憩のついでに、後々の交易拠点となるような場所をここらへんで作っておくといいかもしれない。

 嵐で海が荒れたり、川があまり急になったときに船を泊める場所が。


 そんな中、メルクが前方を指す。


「前に、小さな山みたいのが見える」

「うん? おお、島だな」


 河口を出て、少し沖にいった場所に島があるのが見えた。最初はこちらのほうの陸地と繋がっていたと思ったが、別れているらしい。


 こちらから見て、島の幅は二百ベートルほど。中央の山は二十ベートルほどの高さがあり、木が点在している。島の周囲には砂浜も見えた。


「ちょうど河口を出たところだから、海から帰るときの目印にもなりやすいな。防衛のことを考えても、海岸より守りやすい……よし、あそこに船を泊めよう」

「なら、私が先行して、様子を探ってきます」

「アスハ、助かるよ」


 アスハは俺に頷くと島へと飛び立った。


 その後を追って島の砂浜に船を進める。

 岩に衝突しないよう、船尾の舵を操りながら。


 帆はあらかじめ扱いを教えておいたイリアやモニカが操ってくれた。


 ようやく河口を出たところで、アスハが帰ってくる。


「ヨシュア様。特に、危険な生き物はいませんでした。一番多いのは、海によくいる白い鳥のようでした」

「カモメかな。ともかく、そんな危なくなさそうだな。ありがとう、アスハ」


 次第に島の白い砂浜がはっきりと見えてくる。


 砂浜にはアスハの言うようにカモメがいるのみ。危険な生き物はいそうもない。


 傾斜もなだらかで、細かい砂の浜だ。

 このまま船を浜に乗り上げさせるか。


 この船には力持ちのメッテとベルドスがいる。浜に揚げても、再び船を出すのは容易だ。


 俺はそのまま、滑らせるように船を砂浜に乗り上げさせた。


「一番乗り」


 そう言って砂浜を降りたのはメルクだ。


 周囲の匂いを嗅ぐメルク。

 特に珍しい匂いはしないようだ。


「はあ、やっと地上か」

「メッメー……ちょっと、ここらで寝させてもらうっす」


 メッテとセレス、そしてユミルは倒れるように砂浜に寝転んだ。


「気持ちよさそう! ……さらさらしてる!」


 フレッタもそれを真似する。

 

 俺も試しに砂を手に取ったが、だいぶ手触りが良かった。


「枕とかにも使えそうな砂だな。この白い砂に因んで島を白砂島とでも名付けるか。それじゃあ、今日はこの白砂島で泊ろう」


 こうして俺たちは、この白砂島で野営することにした。

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