106話 手がかりでした!?
腹の中から出した物に、俺は肩を落とす。
もっと早く気づいてやれば、こんなことには……あれ?
手を持った毛むくじゃらは、非常に軽かった。毛というよりは、葦などの植物を束ねたものだったのだ。
気になって裏返すと、そこには麻で編んだような糸が。
「葦……いや、蓑を使った衣服?」
「私たちの先祖も使っていた衣服ですね」
イリアの言葉通り、こういった蓑の服はフェンデル族に伝わる古代の布絵にも描かれていた。鎧を作ったときにも参考した絵に。
飲み込まれたのは確かか。しかし、死体は見つからない。
俺は気になって、ヘルアリゲーターを魔法工房で解体する。
だが、腹の中では誰がいるわけでもなかった。
「まさか、この服だけ脱いで逃げた?」
メルクがとことこと、こちらに近づいてくる。
「貸してみる。何か、手掛かりがあるかも」
「あ、ああ」
俺はメルクと一緒に蓑の衣服を探す。
「かすかに匂いがする……嗅いだこともない。ちょっと、魚の匂いに近い」
「ヘルアリゲーターが魚を食べているだけってことはないか?」
「それとはちょっと違う。それに、この服からなんだかしょっぱい匂いがする」
「どれどれ。確かに」
蓑の一部を鼻に近づけると、潮の香りがそこはかとなく感じられる。
これは、蓑に潮の香りが付着してるからだろう。
とすれば、この服を身に着けていた者は海に長時間いたということになるだろうか。
「やはり、海か」
「それに、ヘルアリゲーターから逃げるわけですから、あまり強い力の方ではないのかもしれませんね」
イリアの声に俺は頷く。
「そうだな。もし近場にまだいて、俺たちが不在の間に村に来ても心配はいらないだろう。そこはもう心配しなくてもよさそうだ……明日、皆で海へ行こう」
一応、数日分の食料を積んでいく。服や道具も少し持っていって、誰かいた場合交易できるようにしよう。
そんな中、後ろでフレッタが声をあげているのに気が付く。
「おーい、お姉ちゃん!」
振り返ると、ボートでこちらにやってくるエルフのモニカがいた。
エルフの村から、川を下ってきたのだろう。
モニカのボートには、なにやら木箱が満載されていた。
桟橋に着岸すると、モニカは走ってくるフレッタとモーを抱っこする。
「元気にしてましたか、フレッタ?」
「うん! 今日はあの大きな船で釣りをしたんだ!」
「そうでしたか。大きなボート……ですね」
俺はモニカへと歩いていく。
「やあ、モニカ。あの船をいくつか作って、もっとエルフの村と行き来しやすいようにしようと思ってね」
「なるほど。それなら、もっとたくさんあれを持ってこれそうです!」
「あれ?」
モニカはエルフたちがボートから陸揚げする木箱を見ている。
「あれ?」
「この箱に詰めてきました。お世話になっている皆さんにお裾分けをと思い」
モニカは一つ木箱を取ると、その蓋をぱかりと開いた。
その中には、紫色や赤色をした小さな粒がぎっしりと入っていた。
「ベリーか。フェンデルの近くでも少しは取れるみたいだが、こんなにたくさん」
「実は、少し北の台地に、これがたくさん実っている場所を見つけまして。とても食べきれないので、わけにきたのです」
メルクはベリーをしっているのか、「いただく」と言って口に運んだ。すっぱいのか、少し口をすぼめる。
実もしっかりしているし、美味しそうだ。
「へえ、ありがとう。これだけあれば、畑に植えてもよさそうだ」
さらに畑で取れる物が増えるだろう。
「本当にヨシュア様たちのおかげです。道具があることで行けない場所にもいけるようになったし、色々と食べ物を集めやすくなりました。また何か取れたら、持ってきます」
「ああ、ありがとう。少しだけ、明日の航海にも持って行くよ。実は、モニカが話していたカッパが、南の海にいそうなんだ。もしよかったら、明日一緒にくるか?」
「海に興味はございます。でも、いいのですか?」
「ああ。もし別の亜人がいたら、色々な部族がいたほうが交渉しやすいからな。エルフのことも覚えているかもしれない。ドワーフやミノタウロスも誘ってみるつもりだ」
「そういうことでしたら、ぜひ」
こうして俺たちは、各亜人の代表と共に、海へ向かうことにした。




