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104話 探偵でした!?

 グランク麦を収穫し、パンを焼いた翌日。

 収穫された麦の一部とヴァースブルグで手に入れたマギ豆や作物の種を埋め、畑での俺の作業は終了した。日々の手入れに必要な農具や運搬用手押し車も作ってある。


 あとは、育つのを待つだけだ。

 エントたちの成長促進の力もあるし、豆や野菜も麦同様きっとすぐ食べられるようになるだろう。


 畑を見るイリアは俺に言う。


「これでひとまず終わりですか?」

「そうだな。農作業で必要な物はあらかた作れた」

「では、今日はさっそく」

「ああ……海だな」


 俺が少し晴れない顔をしているのが気になったのか、イリアが心配そうな顔をする。


「何か心残りが?」

「いや、見間違えかもしれないんだが、昨日パンを焼いているとき、見たこともない子供がいてさ。その後、ぜんぜん見つからなくて」

「どんな格好の者です?」

「全身毛むくじゃらだった。毛を切ってないドワーフの子供かとも思ったんだが、ユミルに聞いたらそんなやつはもういないって」

「私も見たことがありませんね……モープさんでも?」

「妊娠しているモープはいるそうなんだが、小さな子供は今、いないらしい」

 

 そう言うと、今度はメルクが呟く。


「メルクも見たことない。だけど、変わった匂いならメルクも気づいたはず。特に昨日はそんな匂いはしなかった」

「そうか……俺の見間違えだっただけかも」


 しかし、もしあれが魔王軍の密偵だったりでもしたら……


 俺の不安を察したのか、イリアが言う。


「もし、村の中から何かをされたらたまりませんね」

「夜、見張りを増やしたほうがいいかも」


 メルクもそう呟いた。


「そのほうがいいだろうな。それに、できればやっぱり正体をはっきりさせておきたい」

「なら探す。メルクは匂い、アスハは空。他は、皆で村を探す」


 メルクの声に俺は頷く。


「ああ、探そう」


 こうして俺たちは、村を捜索することにした。


 だが、三十分ほど歩いても全く見つからない。遊びまわる子供を特に注意深く探したが、該当する子どもは見つからなかった。


 そんな中、前からエルフのフレッタとミノタウロスのモーが街路を歩いてくることに気が付く。


「あ、ヨシュアさん!」


 フレッタは俺を見つけると、モーと一緒に走ってやってくる。


「おはよう、二人とも。村で友達はできたか?」

「うん! これから皆と、かけっこしにいくところ。ヨシュアさんたちも一緒にやる?」


 フレッタが言うと、メルクがいつもの淡々とした感じで答える。


「メルクたちは人を探してる。フレッタたちも調査に協力する」

「へえ、面白そう! 私たちも仲間に入れてもらおうかな! 皆も呼んできて。でも、どんな人を探してるの?」

「小さくて、毛むくじゃら」

「小さくて毛むくじゃら……あっ」


 フレッタは声を上げると、モーと顔を合わせた。


「うん? 二人とも、見たことがあるのか?」

「うん。昨日、ヨシュアさんたちがパンを焼いてたでしょ? それで私たちももらったんだけど、ずっとパンを受取りに行かない子がいて。それで私のをあげたの」

「へえ、えらいじゃないか」

「だって、とってもお腹が空いてそうだったんだもん。それで……その子がすごい毛むくじゃらだったんだ」


 お腹が空いてそうか。

 昨日パンを焼いたのは、まだ昼前。朝食を食べてから、皆まだそんな時間は経ってなかったはずだ。それに種類は少ないが、空腹になるほどこの村の食料事情は悪くない。


 そして積極的に受け取りに行かない。単に内気な子供か、あるいは警戒をしていた?


 ドワーフたちにも十分食料を輸送できているし、フェンデル同盟の以外の者の可能性もありそうだ。


 メルクが訊ねる。


「そのパンは食べた?」

「食べて、体を大きく震わせた。その後、美味しいって聞いたら、何も言わないでこれをくれた」


 フレッタは、スカートのポケットから古びた木片を俺に渡した。


「何か書かれている?」


 メルクが木片を見て呟く。


 木片には確かに、刻まれた痕が見えた。だが、俺の知る文字ではない。魔物の文字のように曲線が多いわけでもなく、どちらかといえば簡単な絵に見えた。


「子供の落書きみたいだな」

「きっとお礼なんだと思う! そのあと川のほうへ走っていった!」


 フレッタはそう言って川に指をさした。


「川か。となると」


 イリアは俺の声に頷く。


「やはり、ドワーフさんかもしれませんね」

「ああ。だが、ユミルが言う以上、あの山にはいないのだろう。別の集団のドワーフかも」


 しかしメルクは不思議そうな顔をする。


「ドワーフの匂いは強かった。メルクも絶対気が付く。でも、匂いはしなかった」


 メルクは川に顔を向けて続ける。


「もしかすると、川に潜ったのかも」

「水に浸かれば、匂いが消えるかもな。水辺に住んでいるなら、なおさら……もしかして、カッパかも」

「モニカさんが話していた水に住む方々のことですね」


 イリアの声に俺は首を縦に振る。


「ああ。だが、近くではないだろうな。となると、北か南だが。水中にいられると発見は困難だな」


 そう話すと、メルクが何かを閃いたのか、拳で手を叩いた。


「パンが気に入ったなら、パンで釣ればいい」

「そんな安直な……」

「あのパンなら、きっと食べにくる。ヨシュア、さっそく船を作る」

「分かった……どのみち、エルフたちとの物資のやり取りにもっと大きな船が欲しかったところだ。船を作ろう」


 俺はそう言って川に向かうのだった。

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