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103話 風車を作りました!

「風が強いのはここらへんです」


 アスハは川沿いのある場所で立ち止まる。

 村のすぐ東、橋の近くの場所だ。


「たしかに、いい風が吹いているな」


 俺の言葉にメルクが首を傾げる。


「風? 確かに、他の場所よりも強い風が吹くかも」

「メルクもそう思うか。川は上流の風が強いって聞くからな」


 アスハはコクリと頷く。


「仰るように川の風は強いです。でも、特にここは風が強く、一日のほとんど風が吹いてくるはずです」


 アスハは天狗で生まれてからすぐ空を飛んできたという。風の強弱や流れなどには詳しいはずだ。そのアスハが言うのだから、間違いない。


 しかし、メッテが不思議そうな顔をする。


「風とはいうが、風がどうしたっていうんだ?」

「ああ。説明するよりそうだな……ほら」


 俺は魔法工房で木材を使い、子供が遊ぶのに使うような風車かざぐるまを作った。


 その風車かざぐるまは手に出すと、やがて風を受けてぐるぐると回りだした。


「ほら、風で回るだろ?」


 俺が言うと、メッテは微妙そうな顔で呟く。


「ヨシュア……意外に子供っぽいところがあるのだな。たしかに子供は喜ぶかもしれないが」

「こ、これは分かりやすいように作っただけだ。作るのは、もっと大きくて高い。大きな家に、この風車かざぐるまを付けたような建物を作るんだ」

「そんなものを作ってどうする?」

「風で回る……もしその風を利用できたら、便利だと思わないか? 魔力を使う必要もないし、無限に風は吹いてくる」


 俺はそう言って、魔法工房で風車ふうしゃの部品を作り始めた。


 まずは土台。

 基礎は石造りにして、その上も石材を積んで組んでいく。

 内部はらせん状の階段を壁に沿うように、ばねのように上部へと伸ばす。建物の中央は、天井まで吹き抜けとなる。


 円筒形の建物ができたら、石瓦の屋根を被せて土台は完成だ。


 十ベートルほどの高さ。ある程度遠くからでも見えるから、エルフやドワーフたちがここに来るのに目印になるかもしれない。


「相変わらず、ヨシュア様の魔法は……」


 イリアは感心したような顔で、俺が組んだ風車ふうしゃの土台を見上げる。


「なるほど。あれに、先程のおもちゃのようなものを付けるわけだな」

「ああ。だが、風の力を利用するには、ただつけるだけじゃだめだ。ここからは、久々に繊細な作業になるな……」


 その後は木材で風を受けて回る羽根板と、歯車という縁がギザギザとした車輪のようなものをいくつか作る。


 そうして作った歯車と、風車部分を軸で接続する。その歯車とかみ合うように、垂直に歯車を置いてさらにそこから軸を伸ばし歯車をつけて……


 とまあ、いわゆる機械部分を作るわけだが、ちゃんとレシピ化してあるからそんなに時間はかからない。


 ただギザギザ部分が荒いと、歯車が上手く回らなかったりする。試運転は念入りにしないとな。


 魔法工房で試運転し歯車が上手くかみ合うのを確認したら、最後は歯車から伸ばした軸を石臼と組み合わせて完成だ。


 それを魔法工房から建物の中に展開すれば……


「よし、完成だ!」


 それを見たイリアたちは、おおと声を上げる。


 同時にぎいっと音を立て、羽根板が動きだした。


 それから少し遅れて、建物の中からも重い音が轟く。歯車と石臼も回り始めたようだ。


「よしよし。うまく、回ってるな」


 水車という手もあったが、ヘルアリゲーターなどの魔物がやって来ないとも限らない。また豪雨で川が増水するとしばらく使えなくなる。ランドマークも欲しかったしな。


「それじゃ、早速中で麦を挽くか」


 俺がそう言うも、皆何が何のことだかという顔だ。


 まあ、あれこれ説明するより、早くパンが出来上がるのを見てもらったほうがいいだろう。


 俺はそのまま風車ふうしゃに入り、石臼のほうへ向かった。


 桶の内側で、円形の石の機械が回転している。そこに、先程収穫した小麦を少量注ぎ込んだ。


 同時に、周囲に香ばしい匂いが漂う。


 少しして、桶の下側に開いていた穴から金色の粉が飛び出してきた。

 粉は、木の箱によって受け止められる。


「粉々になった……」


 メルクは少し寂しそうな顔で、粉……挽きたての小麦を目にした。


「よ、ヨシュア。せっかく取れたのに、いいのか?」

「まあまあ。次は外だ」


 俺は粉を魔法工房に回収すると、今度は外に向かう。


 そこで簡易的な窯と、作業机を作ると、俺は皆に顔を向けた。


「皆! これから、パンを作るぞ」

「粉でできる?」


 不安そうなメルクに、俺は「うん」と自信満々に返した。


 本当は魔法工房でも作れるのだが、それでは何とも味気ない。ここは皆に見て、やってもらって、実際に焼きたてのパンを作ってもらおう。


 窯の中で枝や木くずを使い火を起こし、作業台の上にまな板を用意しその上に粉を出した。あとは、ヴァースブルグで分けてもらった酵母にするパンの生地と、水の入った杯も。


 俺は水魔法で手をざっと洗浄し、風魔法で乾燥すると、皆に言った。


「皆にもパンを作ってもらう。まずは、この種パンを少し粉に混ぜて、そこに少しずつ水を注いで」


 俺はパンをこね始めた。


 それがもちもちとした生地になるのを見て、イリアたちは驚く。


「砂みたいだったのに……」

「粘土みたいになった」


 メルクもひょこっと作業台に顔を近づけた。


「あとはこうやって丸めてから少し時間を置くと膨らむ。最後は焼くだけだ。皆も、こねてくれ」

「はい!」


 イリアたちは手を洗うと、俺と同じように生地をこね始める。


 一番手際のよかったのはメッテだ。丸い可愛らしい生地ができあがる。


「上手いな、メッテ」

「それほどでも。しかし、もちもちしていて面白いな。で、これを焼くのか?」

「ああ。ちょっと膨らむまで待つ必要があるけど」


 メッテ以外も皆、順調にこねている。

 触ったこともない感触だからだろうか、皆、面白そうだ。


 何個か丸め、しばらく残りの麦を挽きながら発酵を待っていると、ついにパンがふんわりしだす。人の手ぐらいの大きさにはなっただろうか。


 それをどんどんと窯に入れて焼けば──


「完成だ」


 目の前には、見事な焼き色のついた丸いパンが。

 香ばしい匂いがあたりに漂う。


 いや、普通の小麦で焼いたパンよりも、もっと甘そうな香りだ。


 メルクはそれを恐る恐る手でつついてみる。


「外は堅そう……でも、いい匂い。食べていい?」

「もちろん。熱いから、気を付けてくれよ」

「本当。少し冷ます」


 メルクはふうふうと息をパンに吹きつける。そしてぱくりと噛みついた。


「美味しい……!」


 思わず目を潤ませるメルク。

 イリアもパンを口にした。


「本当! とっても美味しいです!」

「イリアもそう思う? メルクも、砦で食べたやつより美味しいと思った」


 メルクの声を聞いて、メッテやアスハ、エクレシアも焼きたてのパンにかぶりつく。


「おお! な、なんだこの食感は!」

「外はぱりぱりなのに、中はふんわり……まるで、雲みたいな」

「我らエントも麦の味は知っていたはずだが……人間は本当に見事な技術を持っているな」


 他の亜人たちも、パンをぱくぱくと食べていく。

 皆、至福そうな表情だ。


 俺も、早速一口パンを食べてみた。


 これは……食感だけじゃない。味も普通の小麦粉で作ったのと大違いだ。

 確かな甘み。しかし、甘ったるいわけじゃない。


 これが、グランク麦で作ったパンか。俺も今まで食べた中で、一番美味しいパンかもしれない。


 そんな中、遠くから声が響く。


「メッメー! 美味しい匂いがするっす!」

「やっほー、皆! 美味しそうなもの食べてるね!」


 セレスやドワーフのエミルも、遠くからやってくる。

 エルフの女の子フレッタや、ミノタウロスのモー……いや、他にも村のほうから亜人たちが大挙してやってきた。


「お、落ち着け、皆! 皆の分、ちゃんと焼くから!」


 俺は窯や作業台をさらに増し、他の亜人たちに石臼の使い方やパンの製法を教える。


 そうして続々と焼きあがったパンは、集まる亜人たちに配られていくが……


「……うん?」


 俺の視界の片隅に、まだ全身が毛むくじゃらの亜人が映った。


 毛むくじゃらの亜人?

 ドワーフかな。


 だが、どこか色が違うような……それに、ドワーフは皆、毛を切ったんじゃなかったか。


 よく見ようと、そちらに視線を向けた。


 しかしパンを求める人だかりで、どこにいるか分からない。


 イリアは不思議そうな顔で俺に訊ねる。


「どうかされました、ヨシュア様?」

「いや……まあ、格好なんて自由だしな」


 昔からの恰好のドワーフがいてもおかしくない。あるいはモープの子供かもしれないし。


「よし、皆もっと焼くぞ!」


 俺は気にせず、パンを焼き続けるのだった。

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