35年目の恩返し
ちょっと悲しい話です。
むかーしむかし。山あいの村に60になるぐらいの老夫婦が住んでいた。
二人には35年前まで子供がいた。いたという言い方をしているのは理由がある。
35年前、2人の子供は5歳だった。。。
「おかーさん!おかーさん!雪が降ってるよ!雪だるま作ろう?」
子供の名前はシズ。元気な女の子だった。
「シズ。雪なんか毎年イヤってほど降ってるでしょ。そんなはしゃぐもんじゃないんだから」
シズは雪が好きだった。だからあの日…
「おかーさんが遊んでくれなければいい1人で遊びに行くもん。」
そういって1人雪の中遊びにいってしまったのだ。
「シズ!シズ!あの子まさか…」
お母さんがシズがいないことに気づいたのは2時間後、外は一面雪景色だった。
「私が…遊んであげてれば…」
お母さんは膝から崩れ落ちた。村の人と夫婦の必死の捜索もむなしく、田んぼの側溝で冷たく雪のような肌の色になったシズが見つかったのは明け方だった。
それ以来、夫婦には子供はいなかった。。。
「今年も雪が降り始めましたね。お爺さん」
「シズの命日はそろそろか。明日の朝にでも花を手向けに行こうか」
次の朝、雪は30cmほど積もっていた。
お婆さんはこの35年で足腰が悪くなっていたのでお爺さんだけで花を手向けに行くことになった。
「なんでこんなところに1人で行ってしまったのか。あの子は本当に…」
35年の月日がたっても2人の心の傷が埋まることはなかった。
お爺さんだって足腰が弱っている。花を手向け、帰ろうとするとお爺さんは足を滑らせて転んでしまった。
「いたたたた…歳だな…立てない。シズと同じところで死ぬのも悪くないの…ただ婆さん1人にしてしまうのが心残りだ…そうだ…死ねない…」
どうにか立とうするが骨が折れてしまっているのだろう。立ち上がることはできないでいた。
「お爺さん、そんなところに座ってどうしました?」
お爺さんが顔をあげると白い着物を着て傘を指している20代ほどの美しい女性がたっていた。
「足を滑らせてしまったんだ…どうやら骨がおれているらしい、立つの手伝っていただけませんか」
「いいですとも。家まで送りましょう。」
美しい女性はお爺さんに肩を貸し、家まで送りました。
「ありがとうございます。あなたがいなければ今ごろ私は死んでいました。」
「いえいえ。お礼なんかいいんです。でもこんな雪の日になぜあのような場所に?」
「娘の命日が近くでして。35年ほど前になるでしょうか。ちょうど今日と同じような雪の日にあそこで亡くなったんです。なんであんなところにいたのか…」
「…そうだったのですか。辛いこと聞いてしまってすいません。」
女の人はその話を聞くと考え込んでしまいました。
「大丈夫ですからそんなに気を使わないでください。そんなことより旅の人ですよね。今日寝るところがないなら泊まっていってください。いいよな婆さん?」
「いいですとも、お爺さんの命の恩人ですとも。」
「いいんですか…ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」
「3人でご飯を食べるのはいつぶりかね。婆さん」
「またそんなこと言って。お客さんが食べづらいでしょ。お爺さんは早く足を治していただかないと」
「ご飯までいただいてしまって…悪いです」
女の人はまだ何か考え込んでいるようだった。
ご飯が終わって話していると女の人はあることをお願いした。
「泊めてもらってる身で大変厚かましいのですが…私が寝る部屋に織物をする機械がありますよね?それを使わせてもらえませんか?泊めてもらったお礼に織物をしたいのです。ですが…秘伝の折り方で織るので戸を開けないで頂きたいのです。」
女の人は深々と頭を下げていた。
「お礼なんていいですよ。こっちがしたいくらいですから、それに女性が寝ている部屋を開けたりなどいたしませんから。大丈夫ですよ。」
そうお爺さんとお婆さんがいうと女の人はありがとうございますといい部屋に入っていった。
それからガタンガタンと織物を織る音が聞こえてきた。
音が止まったのは明け方。ちょうどシズが見つかった頃の時間である。
「間に合いました。夜中まで騒がしくしてしまいすいませんでした。ありがとうございました」
寝ているお爺さんお婆さんにそういうと女の人は老夫婦の家を後にした。
「…婆さん。これ」
起きたお爺さんの目に入ったのは綺麗な織物と手紙だった。
お爺さんお婆さんへ。
今日は泊めていただきありがとうございました。ですがあなたたちに謝らないといけないことがあります。直接伝えることができなくてすいません…。
まず私は鶴です。そして助けてくれた人をずっと探していました。
そして私を助けてくれたのは5歳ぐらいの女の子でした。
そこでお爺さんから娘さんの話を聞いてピンときたのです。
あの日、私は罠に足はハマり動けませんでした。大声で鳴いているとそこに女の子が来て罠をとってくれました。人が怖かった私は罠が外れるとすぐ飛んで逃げてしまったのです。
後になってお礼をしようとそこに行くともう誰もいませんでした。名前も聞いていなかったので探すことができなく毎年同じ日にあそこの田んぼにいっていたのです。
まさか亡くなっていたとは…私を助けたばっかりに…本当にすいませんでした。
そこにある織物は私の一部を使って織ったものです。せめてもの償いです。受け取ってください。
手紙は下にいくにつれ文字が読みにくくなり、鶴の羽が挟んであった。
「あの子があそこにいたのは罠にはまった鶴を助けるためだったのか…やっとわかった」
「あの子優しい子でしたもの…」
「婆さんはあの鶴をどう思う?」
「優しいと思いますよ。ずっとお礼をいうために過ごしてきたんですもの。」
「俺もそう思う、足が治ったらシズのところに鶴の話をしにいこう」
「そうですね。そのときは私も…」
シズに手向けたお花の横で幸せそうに息を引き取った鶴を、お爺さんたちが見つけるのは雪が溶け始めた三月のことである。
鶴については議論のよちを残しました。