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異世界転生者の場合  作者: 椿扼腕
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出来心からの転生

 台風が来ているのは知っていた。ただ、どうしても今日発売の漫画を手に入れたかった。初回限定特典がなくなってしまう前に欲しかった。どうして他の交通手段を選ばなかったのか今更後悔しても遅いのだけれど、藤島大吾の乗ったエコカー減税対応の4WDセダンは濡れて滑りやすくなったアスファルトをフィギュアスケートばりに滑走、交差点を曲がりきれずに電柱へと見事に突き刺さった。そして死んだ……らしい。

 

 「ここまで訂正箇所はないですか?」

 白い装束を着た五十代前後の男性(前方禿げ)が確認を求めてきた。

 「は、はぁ...。」

 訂正もなにも覚えていないのだから何も言えない。

 「あ、もしかして記憶ない感じですか?よくいるんですよ、脳の損傷が大きくて、記憶障害になってからお亡くなりになる方って。」

 「そ、そうなんですか...。」

 「わかりました。では大吾さん、えーっ、藤島大吾さん。このまま提出しておきますので、奥の六番の待合室にて少々お待ちください。」

 促されるままに先へと進む。後ろを軽く振り返ると数え切れないほどの人々が列をなしていた。国籍はバラバラでさっきの白装束の男は何か別の言語で大吾の後ろに並んでいた鼻の高い蒼白い顔をした男性の対応をしていた。生気の感じられないのはその男性だけではなく、後ろの集団全員が死んだような顔をしていた。いや、実際に死んでいるのだろう。ここはおそらく天国、地獄へ行く前の閻魔大王に会うようなところなのだろう(日本人的感性による推察)。頭上にはヒト科と大きく書かれている。なるほどこうもざっくりとした区分けだから列も長くなるわけだ。そう考えるとなんとなくさっきの白装束の男に頑張れと応援したくなる。

 

 [六]と大きく書かれたドアを開け、中に入る。部屋全体が日に焼けたような黄色がかった白色をしている、二畳ほどの小部屋だった。大吾の他にに待たされているひとはいない。部屋の奥にはカーテンがあり、視界が遮られており、何があるのかまったく見えない。後ろのドアをしめると静寂が耳についた。

 なかなか呼びに来ないので手持ち無沙汰にしていると、だんだんと耳の感覚が鋭くなっていき、先程まで聞こえなかった音が聞こえてくるようになった。

 

 ーーーーー水音。

 

 微かにだがカーテンの奥から水の流れる音がしてる。動いては行けないのだろうけれど、なかなか呼ばれる気配もないので少しだけカーテンを開いてみる。

 

 待合室の先は大きな川になっていた。向こう岸は靄のような霧のようなもやがかかっていてよく見えなかった。手前側に視線を移すと、今自分が待っているのと同じような待合室が数えきれないくらい並んでいた。どうせ死んでいるのだから何をやったっていいだろう。これ以上悪くなることはないはずである。大吾は徐にカーテンの外に出てみた。風はなく匂いもないけども、かえって川のせせらぎが目立っていた。

 「下流には何があるのだろうか。」

 この川がなにであるかは薄々気づいていた。まぁ、そうでしょう。三途の川でしょう。こちら側は生の世界。向こう岸は死の世界。まあ、もう死んでいるのだからこちらは完全に生きている世界とは言えないのだろうけれど、渡ってしまうともうかえってくることはないみたいなやつであろう。川をわたってはいけない。けれど、うーむ…。どうしてそう思い立ったのかわからないが、無性に下流に行ってみたくなった。今までいろいろな文献で三途の川は見てきたけど、下流ってなにがあるのだろうか。無償に気になる。好奇心に勝てる感情はなかなかない。周りを見わたしても誰かがいる気配はない。よし。思い切って下流へと進むことにした。

 

 自分の感覚では30分ほど歩いているのだが、周りの景色は一向にかわらなかった。薄暗い空に同じ形の待合室が永遠と並ぶ。この先何も変わらないようだしそろそろ戻ろうか、そう思ったとき、近くのカーテンが開く気配がした。見つかっていいことがあるはずがない。とっさに岩の影に隠れる。

 「この川を渡れば黄泉の国ですので、あと少しですよ。ただ川にだけは落ちないようにしてください。空間の狭間で永遠と彷徨うことになってしまうので。一生後悔しますよ。もう死んでるんで一生は終わってますけど。」

 冥界ジョークなのだろうか、さっきの男とは違う白装束の男が何かを船に案内していた。何かは素直に従って船に乗り込み、対岸へと進んでいった。

 船が出港して、物音がしなくなると大吾は今見たことを頭の中で整理した。今、白装束の男に連れてかれていったもの、それは人でもなく獣でもない。中間の、言わば獣人であった。ほとんど人間の姿に相違ないのだが、頭から明らかに偽物ではないうさ耳が生え、尻には丸くて白い尻尾のようなものがついていた。ここはさっきまでいたヒト科ではないらしい。ここまで来たらいけるとこまでいってしまおう。大吾は今獣人が出てきたカーテンを少し開け、中の様子を見る。自分が待たされた部屋と同じような雰囲気の部屋だった。ならばと思い切って部屋に入り、反対側のドアを開けてみる。しかし、そこは先程までとは似て大きく非なる光景が広がっていた。

 

 長蛇の列をなしているのは人間ではなく獣人たちであった。頭上に書かれている文字は日本語でも英語でもなく、今まで一度も見たことのないものだった。おそらくヒト科のようにカテゴリーの名前が書いてあるのだろうが、まったく読めない。獣人たちは先程のうさ耳と同じような人から、犬のような獣人から鳥のような獣人など様々な種類が集まっていた。

 目の前の光景に呆気に取られていたそのとき、甲高い笛の音が空間に響き渡った。

 「ピィィィーーーーー!!!何者かが紛れ込んでいる!!!即刻捕まろ!!!!」

 白装束の男が大勢現れ、周囲をくまなく調べ始めた。心臓がすごい速さで鳴っている…ようなきがしたけどもすでに死んでいるようで、鼓動は全く聞こえない。この絶望的な状況の中で対処法を必死に考えていたとき、突然後ろから肩を叩かれた。

 

 「いやっ!!!!ごめんなさい!!!わざとじゃないんです!!!許してください!!!ほんの出来心なんですっ!!」

 我ながらなんて滑稽であるだろうか。大吾史上最高のスピードで土下座の姿勢に入り訳の分からない言い訳をしていた。これからどうなってしまうのだろうか。ちょっとした好奇心に負けた自分の心を憐れむしかなくなっていた。

 「何をしておる、このままだとどうなるかわからぬぞ、はやく逃げるのだ。」

 声のする方を向くと頭からうさ耳の生えたおじさんが手を差し伸べていた。訳の分からぬまま彼の手を取る。

 「逃げるって言ったって、どこに逃げれば...?」

 「わしに考えがある。」

 そう言って長蛇の列がある方へ大吾の手を取ったまま走り出した。

 「いたぞ!!!あそこだ!!!」

 男たちの声がする。このままだと本当に捕まってしまう。しかし、このうさ耳おじさんはどうするつもりなのだろうか。

 「こっちの世界におぬしを連れて行く。ここで捕まるよりはましであろう。」

 「こっちの世界ってどうゆうこと!?ねぇ!!!」

 「ここで捕まったら死んでも死にきれないようなことをされてしまうぞ。」

 また冥界ジョークだろうか。しかし、そんなことよりこの人?に付いていって大丈夫だろうか。

 「この先に赤く光っているところがあるだろ。そこを走り抜けるのだ。そうすればいけるはずじゃ。止まるんじゃないぞ。」

 獣人は足を止めながら大吾に説明した。

 「いけるってどこに!?ねえ!!あんたは来ないの!?捕まっちゃうよ!!」

 「大丈夫じゃ。わしは神だからの。」

 「神っ!?何言ってるの??はやく行かなきゃ!!」

 「そうじゃ、忘れとった、肉体は連れて行けんから、誰かの肉体を借りる事になる。それだけ覚えておくのじゃ。」

 そう言って大吾の背中を軽く叩いた。その瞬間弾けたように大吾の足が走り始めた。赤い光がどんどんと近づいてくる。

 「達者での〜。」

 「おい!!どうすればいいんだよ!!なあ!!」 

 振り返ると白装束の男たちが歩くような速さで追いかけてくる姿が見えた。いや、こっちが早くて男たちが遅く見えるのだろう。さっきのうさ耳おじさんの姿は見当たらない。うまく逃げてたらいいのだけれど。

 足は止まることなく赤い光に向かっていった。もう間もなく到着するというころあまりの光の強さに目を瞑ってしまった。しばらくすると先程までの喧騒は一気になくなり、辺りは静寂に包まれていた。

 

 

 

 「……っい!!!……る!!!……カミルっ!!!!」

 耳もとで誰かを呼ぶ声がする。喧しい。とりあえず目を開けようとするがなぜが瞼が重い。というか、さっきまで立っていたはずなのに今は仰向けになっているようだった。

 「おいっ!!カミル!!!死ぬなよ!!!おいっ!!!」

 うるせぇな。誰だよカミルって。重い瞼をむりやりこじ開ける。

 

 目の前で獣耳の美少女が涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。

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