第6話『昨晩はお楽しみでしたね』
もう殆ど書き貯め無いです。
ついでに話のネタも欲しいです。
外の騒がしさに比べて、食堂の中は思ったよりも静かで空いていた。
部屋の鍵を受付の人に見せ、店に入る。
入ってから気が付いた事だが、酒場なのは夜だけらしく、今はビュッフェスタイルのレストランとなっていた。
「なんだかホテルの朝食って感じがするね」
「そうだな。こういうのはどこの世界でも同じなのかもな」
皿を取った後、俺とユキは先ずサラダを取り、空いている席に置いてから料理を取ることにした。
料理の種類は豊富で見たことのない料理も幾つかあった。
だが、俺もユキも朝早くはそこまで食べない――というより食べられない――タイプの為、結局焼いたパンにスクランブルエッグのような卵料理とソーセージだけを取った。
「……なんか、質素だね」
「……せめて朝食っぽいと言ってくれ」
とまあ、そんな朝食を食べて店を出た。
ちなみに料金は宿代に入っているらしいが、宿代を払っていないので料金は分からなかった。
ギルドの中は先程よりも人が増えているように思えた。
「今日は何かあるのかな?」
「さあ? ギルドの人に聞いてみるか」
受付には昨日色々と説明してくれたミュエさんがいた。
「お早うございます。リウス様、ユキ様。昨晩はお楽しみでしたね」
お〜っと、そうきますか。
いきなりぶっ込んでくるスタイル。
「……別にそんなことしてないんですが」
「そうでしたか。二人部屋を希望されたのでその様な目的かと思いまして」
「だから違います」
「失礼致しました。それで本日はどのようなご用件ですか?」
無理矢理話を戻すスタイルですね。
ミュエさんの性格がいまいち掴めないです。
もしかしたらこの世界の『お約束』というやつだったのかもしれない。
そして俺の隣ではユキが顔を少し赤くしてそっぽを向いていた。
やめて! 本当に勘違いされるからやめて!
「……昨日よりギルドにいる人が多いような気がするんですが、今日は何かあるんですか?」
「あれ? ご存知ありませんか?」
あれ? もしかして知らないとマズい事だったりしたか?
「はい。知らないんですけど……」
変に嘘を付くよりは聞いたほうがいいだろうと素直に聞くことにする。
「そうでしたか。今日ここに集まられている冒険者の方々は、本日出される依頼が目的の方がほとんどですね」
「それって何の依頼ですか?」
「この町より北に位置する森に出現した魔物の討伐ですね」
たかが魔物の討伐でこれほど人が集まるだろうか?
「それにしては人が多くないですか?」
「非常に強力な魔物の討伐依頼ですから、各地から腕利きの冒険者が集まっているんですよ」
なるほど。北の森の魔物か……。
北にある森となると俺とユキの目が覚めた森が一番近いが……。
あそこに魔物なんかいたか?
それとも違う森なのか?
「その森って木々が枯れているあの森ですか?」
「ご存知なんですか?」
「知ってるも何も――」
――ってそこで目が覚めたなんて言えないよな。
「どうかしましたか?」
「い、いえ。その森を通ってこの町に来たんですよ」
「その森を通って来た⁉︎」
ミュエさんが身を乗り出して聞いてくる。
……これは言わないほうが良かったか?
「は、はい。そうですが……」
「無事だったんですか⁉︎」
「ぶ、無事だったからここにいるんですが」
「そ、そうですね……失礼しました」
「い、いえ……そんなに危ないんですか? あの森」
「いえ、あの森自体は普通の森“でした”」
「……でした?」
「実は、一週間程前――」
ミュエさんはあの森について聞かせてくれた。
今から約一週間程前までは、その森は木々が生い茂り、動物、魔獣、魔物の棲息する、ごく普通の森だったらしい。
ところが一週間前、その森全域が『一晩』で燃やし尽くされたという。
棲息していた動植物は全滅。すぐに冒険者で構成された調査隊が派遣されたそうだ。
だが、その調査隊が帰ってくる事はなかった。
調査隊の一人から通信用の魔道具で『化け物がいる』という通信を最後に、調査隊の全員の消息が不明となった。
その後、生存者兼遺体捜索の為の隊が森へ向かったが、一人を残して隊は全滅。
生き残りの話によると化け物は炎の魔法を使い『大きな人の影』の姿をしていたという。
――それって……。
(ねえリウス――)
(ああ、多分あの影だな)
完全にあの森で倒したやつですね。
瞬殺したせいで魔法を使っているところなど見ていないが、間違いないだろう。
「どうかされましたか?」
「いえ、続けてください」
「あ、はい。その為、今日その魔物の討伐依頼が出されるという訳です」
なるほど。まあもしその魔物とやらがあの黒い影ならば、もうあの森はいない訳だが。
なんか、冒険者の皆さん。すいません。
でも、調査隊が全滅する様な化け物を相手に戦いたいと思うだろうか?
「だとしてもこの人数は多くないですか? 死ぬかもしれないんですよね?」
「冒険者はいつだって死と隣り合わせの仕事ですよ」
正論だ。
「それはそうですが……」
「まあ今回は討伐に成功すれば、国から報奨金が出ますからね。それ目当ての方も居ると思いますよ」
未だ敵の強さも不明なのに国から報奨金なんか出るだろうか?
「まだ森が燃えてから一週間ですよね? それなのにもう国から報奨金が?」
「状況にもよりますが、ここまで早いのは稀ですね」
「では今回は普通では無いと?」
「はい。実は過去にも似た様な事件があったんです」
「似た様な事件?」
ミュエさんが言うには過去にも二度、同じ様な出来事あったのだという。
最初にあったのは約二百年前。
この大陸とは別の大陸で、今回と同じ様な『大きい人の影』の姿をした魔物が出現したという。
その魔物は風魔法を操り、大陸にあった国を一つ壊滅させた後、姿を消した。
二回目は約百年前。
この大陸とも一度目の大陸とも違う、別の大陸で同じ姿の魔物が確認された。
その魔物は一度目とは違い、地魔法を操り町を幾つか壊滅させた後、編成された討伐隊によって相打ちで討伐された。
「――私たちはそれらの魔物を、扱う魔法の属性と、伝えられている神に準えて、1度目の魔物を『風神の化身』。2度目の魔物を『地神の化身』と呼んでいます。今回の魔物は『炎神の化身』といったところでしょうか」
「……そうですか。説明ありがとうございました」
「いえ。そこでなのですが、宜しければリウス様とユキ様にもこの依頼を受けて頂きたいのですが……」
「……考えておきます」
「はい。宜しくお願い致します」
ミュエさんと別れ、近くにあった席に座る。
依頼がどうのという話は途中から頭に入っていなかった。
「リウス? どうかした?」
「あ、ああ。ちょっと気になることがあってな」
「それって……あの魔物の名前のこと……?」
「……やっぱりユキも気付いてたか」
『風神の化身』『地神の化身』そして『炎神の化身』
それらの名前に俺たちは心当たりがあった。
「アポカリプスのボスモンスターの名前と同じだね」
そう。アポカリプスのボスと名前が同じなのだ。
勿論、偶然という可能性もある。
だが、ゲームのアバターで、ゲームのシステムが引き継がれているこの世界に転移した上、ゲームのボスモンスターと同じ名前の、この世界では強大な力を持つ魔物。
全てが偶然とは、俺には思えなかった。
もし、もしこの世界に転移したことが誰かの手によるものだとしたら。
それ以前にアポカリプスというゲームは一体なんだったのか。
それに――。
「リウス、今は考えても仕方ないと思う。今は先のことを考えよう?」
「……そうだな。ごめん」
「ううん。リウスは考え込むところあるから」
「そう……だな」
自分では割り切ったつもりでも、まだあの事を引き摺っているらしい。
それにしても、ユキに慰められるとは思わなかった。
「うし。ユキの言う通り、今は考えても仕方ないな」
考えていたって何も始まらないし、たとえ答えにたどり着いたところで、何も変わらない。
今は忘れよう。
「うん。それじゃあ依頼を受けるか決めなきゃね」
「あー……それ受ける必要あるのか?」
話を聞く限りでは、あの影の魔物『炎神の化身』は俺が倒したあれの事だろう。
あの森に行ったところで多分もういない。
ん? そういえば……。
「なあ、俺のレベルがアホみたいに上がったのは、あの黒い影を倒したからだったよな?」
「そうだと思うけど……それがどうかしたの?」
「いや、ミュエさんはあの魔物を神に準えてって言ってたけどさ、もし本当に神様だったらあり得ない経験値の量も説明付くかなってさ」
「じゃあ……神様を一撃で倒しちゃったってこと?」
「……あくまで可能性の話だ。本当に神様だったらあんな呆気なく倒されたりしない……だろ?」
「どうだろうね? リウスだったら出来そうな気もするけど」
「……まあいいか。どっちでも」
あれが神だろうがなんだろうがもう終わった事だ。今はどうでもいいか。
「そうだね。それで依頼受ける?」
「そういえばそんな話だったな。……本当に倒したかの確認の為にも一度、行ってみるか」
「じゃあミュエさんの所行こっか」
――なんかユキに引っ張られるのは新鮮だな。
「どうかした〜?」
「いや、なんでもない」
先に受付に向かうユキにそう返し、俺も受付へ向かった。
次回新キャラ登場......?