第59話『平和で退屈な世界』
月一投稿になったら終わりだと思うんです(手遅れ)
〈平和で退屈な世界〉
時空魔導に分類されるこの魔法は、ゲーム時代には無かった魔法だが、この世界に来てからリウスが創った魔法という訳でもない。
この魔法を構成する要素は大きく分けて2つ。
1つは、最大24時間滞在出来る特殊な空間の生成。
もう1つは、生成した空間と本来の世界を繋げる事。
2つ目の効果の制約上、この魔法は人の出入り出来るドアや窓などの境界線に対してのみ使う事が出来る。
この魔法の本質は、1つ目の効果にある。
生成した空間は当然、中に入る為の物なのだが、その空間に入った者には一種のバフが掛けられる。
あまり適切な言い方ではないが、端的に言うと、この空間に入った者は一切変化が生じなくなるのだ。
攻撃を受けても怪我はせず、当然HPも減らなければ、魔法を使ってMPが減る事もない。お腹が空く事もなければ、休息の必要すら無い。
ただし、この空間で使用した魔法効果や作り出した物質を〈平和で退屈な世界〉の外に持ち出す事は出来ない。
時間は流れているが、この空間での1日は外の世界の1分となっている。
また、この空間から出る事はいつでも出来るが、一度空間から出てしまうと、空間に滞在していた時間と同じ時間だけ入場制限がかかり、入る事が出来なくなる。
デメリットを考慮したとしても十分異常な魔法なのだが、この魔法の最も異質な部分は別にある。
それは、この魔法の発動に必要な魔力が0という事だ。
本来、魔法の発動には魔力の消費が不可欠だ。なので、“これ”を魔法と呼ぶ事が適切なのかすら分からないのだが、分類上は時空魔導という事になっている。
そもそも、このような魔法を普通に使おうとした場合、必要な魔力量は計り知れない。
怪我をしないという部分は魔法がダメージを肩代わりする形でどうにかなるかも知れないが――現に、冒険者ギルドの訓練場ではダメージの無効化するにあたって、この方法が採られている――魔法を使用しても魔力が減らないという部分は、魔法の効果でカバーする事が難しい。
繰り返しになるが、魔法の使用には魔力の消費が不可欠だ。であれば、魔法発動者の魔力消費無しで魔法を使用するには、発動者以外の魔力を使用する必要がある。魔法を構築してもらい、魔法が発動すると同時に、魔法発動に伴って消費した魔力分だけ、魔力を発動者に譲渡しなければならない訳だ。
魔力回復を早くするという魔法効果であれば、使用した魔力を魔法によって補填すればよいが、魔力消費無しでとなると、ここまで面倒な手順を踏む必要がある。
この現象を引き起こす為に必要な魔力。消費魔力を補填する為の魔力。この2つを魔法発動者が全て負担しなければならない。
また、このような魔法では、この魔法を発動している者が別の魔法を使用した場合、魔力消費は無くならない。補填される魔力は自分自身のものなのだから、当然である。むしろ、無駄な手順を踏む為に消費魔力は増えてしまうだろう。
このような理由から、〈平和で退屈な世界〉と同じ効果の魔法を創る事は不可能であるし、仮に可能であったとしても、その効果を発動者にも適用する方法がない。消費魔力が0など以ての外だ。
だがしかし、現実にこの魔法は存在している。
そこで、リウスが出した結論は、『この魔法はアポカリプスの名残』――もしくは残滓、引き継ぎ要素と言っても良いかも知れない――であるといったものだ。
このような結論に達した理由は2つ。
1つは、〈平和で退屈な世界〉が既存の魔法からかけ離れており、尚且つ、リウスがアポカリプスで習得した魔法に、このようなものは無かったという事。
2つ目は――というより、殆どこちらがメインなのだが――アポカリプスには、この魔法と良く似たシステムが存在していたという事だ。
特別名前が付けられていたわけではないが、そのシステムはプレイヤーの間では『実験場』と呼ばれていた。
メニューから行くことが出来たその場所では、魔法を使ってもMPが減らない為、新たに習得した魔法やスキルの効果、エフェクトを確認する場所として使われていた。
いつの間にか使えるようになっていた〈平和で退屈な世界〉という魔法。それとよく似た『実験場』というシステム。
ここまで似ていれば、リウスがこの結論を出すのに時間は掛からなかった。
勿論、この結論が出たところで、『何故それが魔法になっているのか』『何故魔力消費がないのか』などと言った諸々の疑問が解消された訳では無いのだが、考えても分かるようなことでは無いので、リウスはそれ以上考えるのをやめた。
細かな理由を知っていようが知らなかろうが、この魔法を使う上で問題はないのだ。尤も、単純に面倒だったからという理由も無くは無いのだが。
要は、使えるのであればそれで良かったのである。
閑話休題。
リウス達は4人揃って〈平和で退屈な世界〉に足を踏み入れる。
「取り敢えず、俺はミティアの射撃練習に付き合うけど、ユキとレイミアはどうする?」
「私たちは……組手でもしよっか。相手、してくれる?」
「畏まりました」
ユキとレイミアが少し離れた場所へ移動する。
因みに、この空間は一辺1km、高さ100mの四角い空間だ。ただ、明確に端が見える訳ではなく、突然見えない――と言ってもガラスのような物なので注視すれば見えるのだが――壁が現れるので、あまり端に行きすぎるとぶつかってしまう。尤も、空間へ最初に入った人を基準として端が決まる為、余程のことがない限り端に辿り着くことはない。
2人が十分に離れた事を確認した後、リウスとミティアも訓練を始めることにした。
「それじゃ取り敢えず、準備運動からな。俺はその間に準備をしておくから」
「……ん。わかった」
リウスに言われた通り、ミティアが準備運動を始める。その間リウスは〈複写形成〉による弾の複製を始めた。
この空間では基本的に一切の事象が変化しないが、外から持ち込んだ使い捨ての物をここで使った場合、外に戻ってもそれが返ってくることはない。つまり、外で〈複写形成〉を使って複製した弾をここで使えば消費されるが、ここで複製した弾をここで使う分にはプラマイゼロという訳だ。
魔力消費が無いのを良いことに、リウスがテンポよく数種類の弾を弾倉ごと複製していく。
リウスが準備を終えた頃、ミティアも準備運動を終わらせたようだった。
「さて、それじゃ始めるか」
リウスはそう言うと、アイテムボックスから高さ70cm程のテーブルを一脚取り出した。そこにイヤーマフと弾が入った状態で複製した弾倉、それに対応したハンドガン、アサルトライフル、ボルトアクション式スナイパーライフル、ポンプアクションショットガンを置く。因みに、これらの銃は外でオリジナルから複製されたものだ。
「今日はどれからやろうか」
「……じゃあ、これ」
ミティアが手に取ったのはハンドガンだった。
「分かった。装填から安全装置解除まで出来るな?」
「……ん」
イヤーマフを付けたミティアが右手に銃本体を、左手に弾倉を持つ。銃のグリップ部分に弾倉を差し込み、スライドを引く。そして、親指で安全装置を解除して銃を構える。素早い訳ではなかったが、迷いのない流れるような動作だった。
それもそのはず。装填から発射可能な状態にするまでの動作と、安全に銃から弾を排出する方法。そして、銃を取り扱うにあたって気を付けなければいけないあらゆる知識は、リウスが真っ先に教えたことだった。今のミティアであれば、目を瞑った状態でも弾が装填されていない銃を発射可能な状態に出来るだろう。尤も、危険なのでそんな事はしない――というよりさせない――が。
「じゃあ次は、そこから弾を抜いて最初と同じ状態にしてくれ」
「……ん」
ミティアが銃から弾倉を抜く。そして、スライドを引いて薬室から装填されていた弾を排出する。排出された弾はくるくると空中で回転した後、地面に落下した。排莢口から薬室に弾が残っていない事を確認した後、ミティアは銃をテーブルに置く。そして、地面に落ちた弾を拾い、弾倉に装填した。
「よし。じゃあ射撃に入るか」
リウスはテーブルに触れて〈複写形成〉でそれを複製すると、30m程離れた場所にテーブルを置いた。そして、直径20cm程の大きさの岩を魔法で作ると、等間隔で5つ、テーブルの上に置いた。
『じゃあ、取り敢えず速射の練習だな。合図するから、構えてから5秒以内に全て撃ってくれ』
《主従契約》による念話でリウスがミティアに話しかける。
ミティアの準備が終わるのを確認した後、リウスが掌を上に向け、炎属性と風属性の複合魔法を空中に放った。
魔法が上空で炸裂し、音が響き渡る。
瞬間、銃声が5回鳴り響いた。
「――3ヒットか」
砕けた岩の数は全部で3つ。3回目と4回目を外していた。
風魔法でテーブルの上に残った岩の破片だけを吹き飛ばし、時空魔法を併用して先程と同じ位置に岩を補充する。
そして再び、空中に魔法を放ちながら、射線に立ち入らないようにしつつ、リウスはミティアの立つ場所へ歩いていく。
5回銃声が鳴り響く。リウスは目でミティアの射撃の様子を見ながら、《空間把握》によって何発命中したかを把握していた。
――2ヒットだな。
心の中でそう呟いた後、リウスは再び岩を同じ場所に補充した。
「……ぜんぶ、こわせなかった」
「それでも最初より上達してるから大丈夫だ」
練習を始めたばかりの頃は、いくつ破壊できるかではなく、何発撃ったら当てられるか、といった状態だった。それと比べれば、命中率5割は十分進歩と言えるだろう。
「ちょっと腕に力が入り過ぎだな。腕を肩に嵌める感じで、全身で反動を受け止めるようにした方がいい」
「……ん。でも、そのまえに……」
そう言ってミティアがリウスに銃を差し出す。
「……マスターの、みせて」
「……分かった」
リウスは銃を受け取り、先程までミティアが立っていた場所に立つ。
銃の装弾数は11発の為、リウスは空の弾倉を新しい物と入れ替えた。
「それじゃあ、合図してくれ」
ミティアは頷いた後、少し間を開けてから両手を打ち鳴らした。
その直後、射撃音と衝撃波の音がほぼ同時に鳴り響き、5つの岩を粉砕した。
「……流石に煩いな」
「……マスター、すごい」
「まあ……なんだ。ありがとう」
リウスがテーブルに銃を置く。
「取り敢えずこんな感じだ。出来そうか?」
「……やってみる」
「よし。じゃあこれから合図はしないから、自分のタイミングで撃ってくれ」
「……ん」
リウスが魔法で岩を補充すると、ミティアがそれに向かって銃を撃ち始めた。
今となってはこんな射撃指導のような事をしているリウスだが、元から教えられる程上手かったかと言えばそうではない。
そもそも、日本で銃を撃つ機会など殆ど無い。リウスは銃に関する知識はあったが、実際に銃を撃った事は然程多くなかった。クレー射撃の選手の方が経験豊富で技術も高かっただろう。
では何故、今こうしてリウスが射撃を教えられているかと言えば、教える為に練習したからだ。
〈平和で退屈な世界〉でミティアが射撃練習を始めたのはここ最近だが、リウスがこの魔法自体を知ったのは、それよりも少し前だった。具体的には、〈複写形成〉を作成した翌日ぐらいだ。
この魔法を発見してからというもの、リウスは皆が寝静まった後、夜な夜なこの空間に立ち入っては、制限時間である24時間を目一杯に使って、射撃練習に明け暮れていた。この空間での24時間が現実世界の1分だという事。この空間で複製した物質は持ち出せないという事。この2つに気付いたのもこの頃だ。
どれだけ素人でも、100時間以上文字通り休みなく練習すれば上手くなるというもの。今となっては人に教えられる程の腕前になったという訳だ。
「――よし、そろそろ休憩にしよう」
射撃練習開始からおよそ2時間後。ミティアに精神的な疲れが見えてきたところで、射撃練習は一時中断となった。
遅れてホントすいませんでした。
そう言えば、B◯5とス◯ブラが発売されましたね。
ええ、勿論買いましたとも(原因)




