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最強魔王の異世界放浪記  作者: 塩砂糖
第4章《女神降臨編》
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第58話『今、この瞬間を、大切に』

遅くなりました。最新話です。

執筆が遅くなるのは全部C◯D B◯4とかいうゲームが悪いんです。

 アイシア大陸行きの船が出港して1日が経過しようとしている。今のところ天気は晴れやかで波が荒れるなどのことはなく、リウス達の中で船酔いの症状が出た者もいなかった。

 現時刻は午前7時。昨晩のくじの結果、睡眠時の位置は上から見て、ユキ、リウス、ミティア、レイミアといった具合になった。

 最も早く眼を覚ますのはリウスだ。次に眼を覚ますのはレイミア。だが、この場合はリウスが眼を覚ましたからレイミアも目を覚ました、という方が正しい。睡眠をとる必要が無い――必要が無いだけで睡眠を取ることは出来る――レイミアは、睡眠中であっても周囲の変化に気付けるように一応の警戒をしている。尤も、物音がすれば気が付く程度のものだが。その為、リウスが起きたことに気がついて眼を覚ますというわけだ。

 ミティアとユキは2人ともほぼ同時に目を覚ます。寝起きのユキはぼーっとしていることが多いので、何も予定がない日はミティアと共に二度寝している事もある。尤も、そういった場合はリウスもレイミアもその二度寝に加わっているのだが。

 つまり何が言いたいかというと、現在は船上で特別やらなければならない事もなく、食堂は深夜以外常時開いていて食事を急ぐ必要も無い。

 要するに、リウス達は絶賛二度寝の最中だった。


 ユキはリウスの方を向くようにして横になり、ミティアはリウスの腕を抱き枕にして丸くなっている。レイミアは横にいるミティアに寄り添うようにして寝ていた。

 リウスはミティアによって腕を固定されている為、仰向けのまま寝ている。尤も、目は覚めているので、横になっているという意味での寝ているだが。

 ミティアによって固定されているリウスの左腕には、程よく成長している2つの双丘が押し付けられている。リウスが欲望に忠実で周りの状況がそれを許すのであれば、迷わず襲っていたであろう。尤も、どちらの条件も満たされていないので関係のない事だ。

 ふと、ユキの方へ顔を向ける。

 静かに寝息を立てているユキ。リウスが空いている右手でユキの髪にそっと触れる。目にかかっている前髪を耳の方へと除ける。

 髪に触れていた手が離れると、ユキの目がゆっくりと開かれた。


「悪い。起こしちゃったか」

「ううん。元々、目は覚めてたから、大丈夫」


 ゆったりとした会話。ユキもまだ完全には目が覚めていないようだった。


「ん……?」


 何かに気づいたらしきユキ。その直後。


「ミティアちゃんがそうしてるなら……私も〜」


 そう言ってユキもリウスの右腕を抱え込む。


「これだと動けないんだけど?」

「別にまだ、起きないでしょ〜?」

「ま、そうだけどさ」


 やはりまだ覚醒しきっていないのだろう。口調がいつもと違い、少し間延びしている。

 両腕を抱えられた状態では身動きが取れないが、確かにする事はないので、まあいいか、と考えてリウスは目を閉じる。


「ねぇ、リウス」

「どうした?」

「こんな風に、両側から腕を抱かれて」


 リウスの腕が先程よりも少し強く抱えられる。


「どんな感じ?」


 揶揄うような笑みを浮かべてユキが言う。


「どうって言われてもな……まあ、役得というか、男冥利に尽きるというか、そんな感じだな」

「ふふっ、そっか」


 その答えに満足したのか、ユキは笑みを浮かべてリウスの腕に顔を埋める。

 対してリウスは、今更ながら自分の言った返事に恥ずかしさを覚えていた。

 そもそもこんな状況、日本では考えられない為、どのように答えるのが正解なのかが分からない。だが、そんな状況も今となっては日常の一部となっている。そして、それを受け入れている自分自身にリウスは少し驚いていた。


 ――まあ、それでも良いか。今この瞬間幸せならば、それで。


 今の自分を、日本にいた頃の自分が見たらどう思うだろうかと、リウスは考える。

 きっと、遂に幻覚でも見始めたのかと思うに違いない。それとも、とち狂ってコスプレでも始めたのかと思うだろうか。どちらにせよ、まともに取り合わない事は間違いない。

 だからこそ、そんな考えられないような状況だからこそ、今この瞬間を大切にしようと。

 この世界のこと。転移した理由。引き継いだリウスのステータス。

 分からない事はまだまだあるが、それも今は、忘れていい気がした。


 今、この瞬間を、大切に。



◇◇◇◇◇



 いつだって、何かが起きるときは突然で。

 ゲームのようなフラグ立てや、良く出来た小説のような伏線も無くて。

 イベント発生に条件は無く、物語としての脈絡など有りはしない。

 それは、日常に突然現れ、ただ事実だけを無情に突き付ける。

 今回で二度目だからといって、気持ちの準備など出来ている筈もなく。

 無意味だと分かっていながら、今更のようにやりたい事が溢れ出す。

 まだ、彼は子供だったから。

 人より正義感が強いだけの、ただの子供だったから。

 いきなり現れた男に、全幅の信頼を置く事など出来る筈も無かった。

 時間はあった。機会もあった。でもやらなかった。

 理由はただ一つ。そうする気にならなかったから。

 自分の我儘である事は彼にも分かっていた。

 いい加減慣れるべきだという事も理解していた。

 でも、彼はまだ子供だった。

 理屈で感情をコントロール出来る大人ではなかった。

 相手はあんなにも、彼を慕ってくれていたというのに。その気持ちに対して、彼は素直になれなかった。

 素直になる。そうする事が、難しい時期だったから。


「……もっと、子供らしくしてやれば良かった」


 今更、そう言っても、もう遅い。

 力無く涙を流す女を前にして、彼は立ち尽くす事しか出来なかった。


 施設から帰った、夏の日の夕方。

 日が長く、まだ明るい青空の下。

 彼はまた、大切な人を失った。



◇◇◇◇◇



「――っ」


 息が詰まるような苦しさを感じて、リウスは目を覚ます。

 昔の夢を見た気がする。

 どうやら、ベッドでゴロゴロしていたら、いつのまにか眠ってしまっていたらしい。

 少し汗をかいたのか、リウスは変な気持ち悪さを感じた。

 それは先程見た夢の所為か。それとも、未だ両手を拘束し続ける二人の体温の所為か。

 メニュー画面を開く。時刻は午前9時だった。つまり、正味2時間ほど眠っていた事になる。


「そろそろ……起きた方がいいか」


 する事がないからと言って、あまり怠惰な生活を送るべきではないだろう。また後で寛ぐ事になるならばそれでも良いのだ。

 丁度小腹も空いてきたところだ。いつもより遅いが、朝食にしよう。


「みんな、そろそろ起きよう」



◇◇◇◇◇



 いつもより少し遅い朝食の後、リウスが部屋でベッドに座って本を読んでいると、ミティアに声を掛けられる。


「……マスター」

「ん、どうした? チェス、終わったのか?」

「んっ……」

「そっか。どうする、俺とやるか?」


 リウスのその問いにミティアは首を振って答える。


「そうか。じゃあ、何がしたい?」

「……もっと、強く、なりたい」


 ミティアのやりたい事をリウスに伝えるには、その言葉だけで充分だった。


「分かった」


 リウスは本を閉じてベッドから降りる。

 そして、テーブルを使ってリバーシをしているユキとレイミアに声を掛ける。


「どうする? 2人も来るか?」

「あ、うん。私も行こうかな」

「私もご一緒させて頂きます」


 そう答えてレイミアが、持っていた最後の石をボードに置き、挟んだ石をひっくり返す。

 パッと見ただけではどちらが勝ったのか分からない。かなりの接戦だったようだ。


「どっちが勝ったんだ?」

「えーっとね」


 ユキが石を数え始める。


「29、30……2枚差でレイちゃんの勝ちかな」

「本当に接戦だったんだな」

「うん。後半からの追い上げが凄くて……」

「いえ、たまたま勝てただけですよ」

「あはは……私、角3つも取ってるのに負けちゃったからなぁ。練習しなきゃ」


 そう言いながらリバーシの石を片付け始める。直ぐにレイミアも加わった。

 片付けは直ぐに終わり、準備が整う。


「それじゃあ、行くか」


 リウスは部屋の外へ通じるドアのノブを握り、魔法を発動させる。


「〈平和で退屈な世界(テスト・オルヴィス)〉」

遅くなったお詫びと言ったらなんですが、本編執筆中に思いついたおまけを置いておきます。

尚、本編の進捗状況とは一切関係がありません。

ただ、おまけで登場した設定が本編で登場することはあるかも?



『普通の齟齬』


「今日何か食べたいものってある?」

「そうだな……。あ、シチューなんかどうだ? こっちに来てから食べてなかった気がする」

「そうだね。じゃあシチューにしよっか。パンってまだあったかな?」

「何でパンが必要なんだ?」

「だって、シチューはパンに付けて食べるでしょ?」

「え? ご飯にかけるんじゃないのか?」


「「え?」」


 両方用意しました。

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