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最強魔王の異世界放浪記  作者: 塩砂糖
第4章《女神降臨編》
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第55話『どうか、この願いが聞き届けられますよう』

あまりお待たせするのも申し訳ないので、取り敢えず1話だけ。

付けてから思ったのですが、いきなり最終回みたいなタイトルですねこれ。

 彼女は、人に憧れた。

 人々が羨み、崇拝し、至らんと願う場所に身を置きながらも、彼女は人になりたかった。

 食事をし、休息を取らなければ生きて行けず、無意味な争いを繰り返し、時に愛し合う。

 不便極まりなく、救いようのない程愚かしい。しかし、同時に美しさを持つ。そんな人間に彼女は興味を惹かれ、憧憬の念を抱いた。

 彼女には、合理性だけを追求した、見かけだけの身体は必要なかった。

 文明を容易く破壊する力も、思い通りに出来る世界も必要なかった。

 彼女の願いはただ1つ。


 『人として生きてみたい』


 ただそれだけだった。


 だが、定められた掟はそれを許さなかった。

 そもそも、彼女の願いは彼女だけで叶えられるものでは無かった。

 枷を外し、依り代を探さなければならない。

 それは、彼女が個人で解決出来る課題ではなかった。

 だからこそ諦められていた。

 不可能だと。幻想だと。そう自分に言い聞かせる事が出来ていた。


 だが、それも過去の話。


 彼女が願いを抱いて幾千年。

 枷は解き放たれた。

 そして、その枷を解き放った人物を知った時、彼女は初めて人の感情を理解した(、、、、、、、、、)


 人の感情に言い換えるのであれば、それは恋だった。それも、一目惚れという、彼女が最も理解に苦しんだ感情であった。

 相手の事を良くも知らず惚れるなどあるわけがないと。そう思っていても、では、今自分が感じている感情は何かと自問すれば、自身が持つ知識の中では一目惚れが最も近しいものである訳で。

 則ち自分は、魂の性質上異性にあたる()に恋をしたと、納得せざるを得なかった。

 だが、彼女にとって彼の存在は、言ってしまえばそれまでであった。

 人間の感情を理解する手助けとなった人物。ただそれだけだった。


 ――彼が依り代になり得ると、気が付くまでは。


 一目惚れをした人物を、彼女がこうも容易く諦められたのは、彼女にはどうしようもない課題点が1つあったからだ。

 それは、相手が依り代になり得るか否か。

 こればかりは凡ゆる部分で相手に依存している為、彼女に出来る事はない。

 そして、依り代になり得る者などごく少数。故に、彼女は無意識のうちにそれを諦めていた。


 だが、彼は依り代になり得た。

 であれば、彼女が諦める理由は存在しない。

 目の前にある好機。それを見逃す程、彼女は我慢強くなかった。


「どうか、この願いが聞き届けられますよう」


 この日、彼女は初めて――。


 ――人間の住む現世に、降臨した。



◇◇◇◇◇



「……ニーグ?」

「セニアさん……?」


 そこにいたのは、フィレストで知り合った冒険者、ニーグ・アドレンスとセニア・ヒルリースの2人だった。


「やっぱりリウスだったか」


 顔を見たことで確証が持てたのか、先程リウスに対して呼びかけた声よりも大きな声でそう言って近付いてくる。


「久し振りだな。一月振りぐらいか?」

「あー、もうそんなにか。セニアさんも、お久しぶりです」

「あ、うん。久し振り、リウスくん」

「お久しぶりです。セニアさん」

「ユキちゃんも久し振りね」


 お互いに挨拶を交わす。


「リウス達は何でここに? 王都に行ったんじゃなかったのか?」

「王都には行ってきたよ。その後サーバ帝国まで行って、こっちに戻ってきたところ」

「そうか。戻ってきてハーフルに来るって事は、リウス達もアイシアに行くのか?」

「も、って事はニーグ達も?」

「ああ。ここでしたかった事は大抵済んだからな」


 などと2人が世間話をしていると、我慢出来なくなったようにセニアがリウスとユキに対して問い掛ける。


「ところで、少し見ないうちに2人増えてるけど……その子達は?」

「俺も気になっていた。その2人は?」

「あー、まあ簡単に言うと、色々あって一緒に行動してるって感じかな」


 リウスがレイミアとミティアに自己紹介をするよう促す。


「初めまして。ご主人様とユキ様の従者をしています。レイミア・クローフィと申します」


 いつも通りの調子でレイミアが自己紹介をする。


「……ミティア、です。初め、まして」


 それに対してミティアは、幾分か緊張した様子で自己紹介をした。


「レイミアちゃんにミティアちゃんか。私はセニア・ヒルリース。よろしくね」

「ニーグ・アドレンスだ。よろしく」

「よろしくお願いします」

「……よろしく、お願いします」


 自己紹介に対し、ある種お決まりな返事を返し、互いの紹介を終える。

 基本的に誰に対しても――リウスやユキを除き――物怖じしないレイミアと違い、ミティアは少し人見知りをする。ある意味それは、今まで人と多く関わる機会のなかったミティアには仕方がない事なのかも知れない。

 元奴隷という立場もあってか、ミティアは基本的に警戒心が強い。現時点でミティアが完全に心を許しているのは、リウス、ユキ、レイミアの3人だけと言える。そんなミティアに、初対面の、それも年上の相手といきなり親しくしろと言うのは酷な話だろう。


「さて、ところで、リウス達はもう夕飯は済ませたか?」

「いや、着いたばかりで夕飯どころか宿すら決まってないんだ」

「だったら、今俺たちが泊まっている宿に来ないか? 部屋も綺麗だし、飯も美味いぞ。まあ、その分少し値は張るが……まさか金欠という事は無いだろう?」

「まあな。じゃあそのオススメの宿に行ってみるか」


 念の為、リウスがユキ達に確認を取るが、誰一人として反対する者はいなかった。


「決まりだな。じゃあ、案内するから付いてきてくれ」



◇◇◇◇◇



 ニーグ達に案内されて着いたのは、大通りに面した大きなホテルだった。少しお高そうな雰囲気に反して人の出入りは多く、港町という事もあってか様々な種族の姿も確認できる。

 一階のロビーには、受付の他に宿利用者以外にも解放されているレストランと大浴場があった。

 ニーグ曰く、大浴場は一般向けに解放されている部分と宿泊者専用の部分があるとの事で、当然宿泊者用の方が人が少なく、場所も広く取られているらしい。


「先に宿泊手続きをしてきた方がいい。この宿の宿泊料金はこのレストランでの食事代も込みだからな」

「分かった。ちょっと待っててくれ」


 そう言ってリウス達は受付へ向かう。

 レストランの前に残ったのはニーグとセニアだけだ。


「まさかこんな所で再会するとは思わなかったな」

「そうね。なんだか人数が増えていたけど」


 少し揶揄うような口調でセニアが言う。


「だな。フェイルムに行ってる間に何があったんだか」

「案外プレイボーイなのかしらね。リウスくんって」


 受付の女性と話しているリウス、ユキ、レイミア、ミティア。4人を眺めながら呟く。


「でも、仲は良さそうね」

「まあ、そうでもなければ一緒に行動しようとは思わないだろう。後で聞いてみるのも面白いかもしれないな」


 2人がそんな話をしていると、リウス達が受付から戻ってくる。


「お待たせ」

「いや、大丈夫だ。部屋は取れたか?」

「ああ、問題ない」

「じゃあ行くか。港町なだけあって、ここは魚料理が美味いぞ」

「料理のレパートリーを増やすチャンスだね」


 ユキは違う方向でも楽しみなようだ。もう既に20を超える料理を新たに覚えているというのに、ユキの勉強意欲は衰えることを知らない。


「さあ、行きましょう」



◇◇◇◇◇



 ニーグ達との夕食を終え、先程受付で取った宿の部屋に向かう。

 ニーグの言っていた通り、この宿はこの世界一般の宿と比べて少し料金が高かった。しかし、それを補って余りある食事の質の高さ。一階のロビーを始めとしたホテル全体の清潔さは、十分料金に見合うものだろう。

 特にレストランの食事はこれまで訪れた飲食店の中でもトップクラスの味だった。


「――あの魚料理に掛かってたソースって何だったんだろう……。甘くて酸味があったから果実系だと思うんだけど……でも柑橘系ではないし、知ってるベリーの中にもあんな風味のものは無かったような……。それとも特別な調理法があるのかな……」


 ユキは頼んだ料理を随分気に入ったらしく、自分でも再現してみるつもりらしいが、料理に掛かっていたソースが何で出来ていたのか分からなかったらしく、さっきから小声で何かをブツブツと呟いている。

 ただまあ、あのソースをユキが再現出来たのなら、是非とも様々な料理に使って欲しいとリウスは思う。今回は魚に掛かっていたが、きっと肉料理に使っても美味しいに違いない。


「気になるなら、厨房で仕事をしている人に聞いてみたらどうだ?」

「うーん。でも、あのソースのこと、メニューには『特製ソース』って書いてあったよね? 教えてくれるかな?」

「……ちょっと厳しいか。だったら、明日の朝もう一度食べてみたら? 昼と夜で料理が変わるらしいから全く同じものは無理だろうけど、あのソースが使われてる料理はあるんじゃないか?」

「そう、だね。そうしてみようかな」


 そう答えてユキは再び考え事を始める。余程作り方が気になるらしい。


「ミティアとレイミアはどうだった? 美味しかったか?」

「はい。流石、プロの作る料理は違いますね。あの、魚の周りに焼き目が付いていた……鰹のたたき、でしたか。あれが美味しかったです。掛かっていた、タルタルソース? あれも美味しかったです」

「タルタルソースなら簡単に作れるぞ」

「そうなんですかっ」

「あ、ああ。随分気に入ったんだな。タルタルソース」

「いえ、その……はい。美味しかったので」


 リウスやユキからすればありふれた調味料であるタルタルソースだがレイミアには珍しいものだったようだ。

 今度ユキに頼んでエビフライのタルタルソース掛けでも作って貰おうとリウスは考える。


「ミティアはどうだった?」

「えと……マグロのステーキが、美味しかった……。あのソース、いろいろ掛けて食べてみたい」


 ミティアが頼んだのはマグロのステーキだった。その料理にも例のソースが掛かっており、ミティアもあのソースが気に入ったらしい。リウスも一口貰っていたのだが、確かにあれは美味しかったと思い出す。

 ――これは、是非ともユキに再現して貰わないとな。

 リウスがそんな事を考えていると、宿の部屋の前に着いていた。

 取った部屋は3階の角部屋。部屋の位置的にレストランから距離が離れており、意外と時間が掛かった。因みに、ニーグとセニアが宿泊している部屋は一階だ。

 リウスは受付で受け取った鍵をドアの鍵穴に差し込み回す。ドアを開けて中に入る。

 部屋にはキングサイズのベッドが2つに大きな鏡の付いたドレッサーが1つ。その隣には丸いテーブルが置いてあり、椅子は2つ用意されていた。

 部屋を入って直ぐの扉の奥には風呂とトイレが付いていた。

 4人は靴を脱ぎ部屋に入る。

 移動続きで疲れたのか、ユキとミティアは直ぐにベットに腰掛ける。リウスはドレッサーの前にあった椅子に腰掛けた。


「部屋も綺麗だね」

「宿代もそこまで高いってわけでもなかったし、ニーグに教えてもらえてラッキーだったな」


 2人がそんな会話をしている間に、レイミアは部屋に置いてあったポットと紅茶の葉を見つけたらしく、4人分の紅茶を淹れる準備をしていた。流石高級ホテルだけあり魔道具も部屋に備え付けてあるらしい。


「この部屋にもお風呂があるみたいだけど、どうしよっか?」

「せっかく大浴場があるんだし、今日はそっちにしよう」


 大浴場は一般用と宿泊者用が分かれているとニーグが言っていたことをリウスは思い出す。現時刻は午後8時過ぎ。それほど人がいる時間でもない。どれ程の広さかは分からないが、ゆったりと入ることは出来るだろう。

 そうリウスが考えていると、紅茶を入れ終わったレイミアが4人分の紅茶をトレイに乗せやってくる。


「ありがとう」


 そう言ってトレイから順に紅茶を受け取ると、リウス達は先程食べた料理の話に花を咲かせながら、何もなく、故に平和な4人だけの時間を過ごした。

さて、第4章でも新ヒロインが登場します。それがどんな人物なのかは第4章のタイトルが思いっきりネタバレしているので敢えては言いません。

あぁ……これでまたリウスのハーレム化に拍車が掛かっていく……。

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