第50話『魔法演算記憶領域』
ちょっと今回は説明が多いので退屈かも知れません。
次回で説明は終わる筈です……!
寝室からリビングへ移動し、早速銃の弾薬作りを開始する。
とは言っても、何から手を付けるべきか。
今回は魔法を使って弾薬を作る事になる。だが、“魔法が発動した結果物質が作り出された”場合と、“元からその物質を作るつもりで魔力を変換する”のとでは大きな違いがある。
それを説明するには先ず、魔法がどの様にして発動するのかを説明しなければならない。
この世界で魔法を使える人間――いや、魔法を使える全ての生物は、魔法を使えない生物には無い機能が備わっている。
それは、『魔法記憶領域』と『魔法演算領域』の2つだ。この2つが無ければ魔法を使う事は不可能。魔法が生来の才能と言われるのはこの為だ。
魔法は意思やイメージによってその在り方を大きく変える。しかし、毎回魔法を使う度に“使用する魔法がどの様な効果を発揮するのか”“どの程度の威力なのか”などを想像、イメージするのは時間が掛かり非効率な上、その時々の状況、心理状態によって大きく変わってしまう。更に言えば、魔法はイメージによって発動するが、不完全なイメージでは十全に効果を発揮する事が出来ない。それどころか、魔法が発動しない事もあり得る。
そこで必要になってくるのが『魔法記憶領域』だ。
この『魔法記憶領域』というのはその名の通り魔法を記憶しておく事が出来る脳の機能――と言って良いのか分からないが――の1つだ。
ここには自身の扱える魔法が全て記憶されている。ここに記憶されている魔法は、“その魔法が魔法たり得る最低限の情報”で構成されており、魔法を扱う者はこの記憶領域から魔法を呼び出す事で、安定した威力、効果を持つ魔法を複数回に渡って使う事が出来る。という訳だ。
ただし、あくまでこれは記憶領域。そこから魔法を呼び出した後、魔法を発動させる為のイメージをしなければならない。具体的には、呼び出した魔法の情報を、発動する為にもう一度頭の中で繰り返さなければならなくなる。魔法は理解しなければ発動しない。呼び出された魔法は呼び出されただけに過ぎず、脳が理解している訳では無いからだ。分かりやすく言えば、『魔法記憶領域』はアルバム。呼び出された魔法は写真といったところか。特定の条件に合致する写真をアルバムから取り出した後、写真を見てそこから情報を読み取る様なものだ。なので、『魔法記憶領域』だけでは魔法発動までに間が空いてしまう。
そこで必要になってくるのが『魔法演算領域』だ。
『魔法演算領域』では、『魔法記憶領域』から呼び出した魔法の情報を読み取り、本来術者自身がしなければならないイメージを無意識下で行ってくれる。
ここで一旦整理してみる。
魔法を発動するという事は、『魔法記憶領域』から魔法を呼び出し、記憶領域に記されている魔法の情報を『魔法演算領域』が読み取り、無意識下に処理を行う事によって成り立っているものだ。当然だが、これによって発動する魔法は言わばその魔法の基本形。術者の意思でそこから更に威力を上げたり下げたりする事は可能だ。
因みに、『魔法記憶領域』から魔法を呼び出す方法は様々だ。俺の場合は魔法名を頭の中で唱えるか口にするかで呼び出しているが、人によってはそれが“詠唱”であったり、道具を使った“儀式”であったりする。また、発動する魔法が魔術なのかそれとも魔法、魔導なのかによって呼び出す難易度は変わり、魔導が一番難易度が高い。
今回は説明の為に2つに分けて説明したが、本来『魔法記憶領域』と『魔法演算領域』は2つあって1つだ。記憶領域の容量や演算の速さなどに個人差はあれど、魔法を扱えるのであれば必ずこの2つが備わっている。その為、一部では『魔法演算記憶領域』などと呼ばれてもいる。
閑話休題
つまり、魔法を発動した結果物質が作り出された場合は、術者自身は殆ど何もしなくて構わないという事だ。魔法さえ呼び出してしまえば後は勝手に発動するのだから。
だが、意識して特定の物質を魔力の変換によって作り出す場合は魔法を使う事が出来ない。その為、『魔法記憶領域』はもちろんのこと、『魔法演算領域』すらも使う事が出来ないのだ。というより、記憶領域は兎も角、演算領域は無意識下にあるものだ。自分の意思で使う事は出来ない。
詰まる所、全てイメージによって“魔法と同じ事”をしなければならないのだ。
例えば火を灯したい場合、頭の中で自然な状態の火をイメージする。それだけならば大抵の人は出来るだろう。だが、それを絵として描けと言われた場合、完全にイメージ通り火の絵を描く事が出来る者は少ないはずだ。
イメージだけで魔法を使うというのはこういう事だ。
イメージが出来なければ魔法は発動しない上、イメージ出来ても形に出来なければ意味が無い。その為、魔法を使って物質を作り出すより難易度が跳ね上がるというわけだ。尤も、火を灯す、水を作るなどといった簡単なものは既に魔法として確立されているのだが。
弾薬を作り出す魔法は勿論の事、特定の金属を作る魔法は存在しないので、今回は完全にイメージで作らなければならない。
「取り敢えず、実物を見てイメージを固めるか」
アイテムボックスから9mmの弾薬を取り出す。雷管が存在しない事を除けば、形自体は至って普通の弾薬だ。
そういえば、昼間はサラッと流したが、魔力によって推進力を得るというのはどういう事なのだろうか。もしかすると、構造や使われている物が違うのかも知れない。
――分解……してみるか……?
確認するならそれが一番手っ取り早いのだが……。構造が分からない以上もし爆発とかしたら困るな……。
「手と弾薬を覆う様にして障壁を張れば良いか」
弾薬を手にした状態のまま手の周りに障壁を張る。これならば、もし仮に爆発などしたとしても俺の手が吹き飛ぶだけで済む。まあ、爆発しない事が一番ではあるのだが。
弾薬の大まかな構造自体は単純だ。金属の筒に火薬を入れ、蓋をする形で弾頭を嵌めているだけなのだから。なので、力を入れれば薬莢から弾頭を抜く事も出来る。勿論、今の身体の身体能力があってこそだが。
本来銃弾を薬莢から外す際は、ブレットプーラーという専用の道具を使うのだが、当然そんな物は持っていない。
弾頭と薬莢を指で掴む。弾頭が小さい為力を入れ難いが仕方がない。
「ふっ!」
力を入れて弾薬を左右に引っ張る。
スポッという音はしなかったが、思いの外簡単に弾頭は薬莢から抜ける。
しかし、込めた力が強過ぎたのか弾頭と薬莢が少し歪んでしまっていた。再利用は不可能だろう。
弾頭が抜けた薬莢からは火薬――ではなく、濁った白色をした砂のような物が少量入っていた。恐らく火薬の代わりになっている物だろう。
《全アイテム鑑定》
『魔壊石』
魔力を吸収する鉱石。そのままの状態では無害だが、魔力を込めた状態で強い衝撃が加わると魔力爆発を起こす。魔力を込めるとあるが、込められる魔力は微々たるもので、魔力を込めた者のステータスの高さによって爆発力は変化する。
「魔壊石……?」
読み取った情報を見る限り、やはりこれが火薬の代わりをしているらしい。
魔力を込めて衝撃を与えると魔力爆発を起こす。魔力を込めた者のステータスの高さによって爆発力が変化するとあるが……つまりはレベルが高いほど威力が上がるという事だろう。俺が銃を撃った場合とミティアが撃った場合とで威力が違ったのはこの為だった訳だ。
…………だとしたら、たったこれだけの魔壊石の粉末に魔力を込めて衝撃を加えただけだと言うのに、あれだけの威力が出たと……?
――これ、物凄く危険な物じゃないか……?
いくら俺のステータスが高いからと言ってこの量であの威力は危険を通り越して脅威だ。ミティアが撃った時でも普通の銃よりは威力が出ていた。
もしこれで爆弾なんか作りでもすれば、持ち運べる大きさで核爆弾並みの威力を持つ爆弾が作れるのではないだろうか。まあ、それだけの威力だと持ち運びで使う事は出来ないだろうが。
この鉱石に関しても後で詳しく調べた方が良いだろう。
弾薬に使われている素材で目新しい物はこれだけだった。
魔壊石の粉末を薬莢に入れ直し、弾頭で蓋をしてアイテムボックスに放り込んでおく。そして、新しい弾丸を取り出す。
取り出した新しい弾丸に《空間把握》と《全アイテム鑑定》を使用する。
《全アイテム鑑定》はその名の通り対象物の情報を読み取るスキルだが、ゲームのようにアイテムの説明が分かるだけではなく、その物質の材質や成分なども特定する事が出来る。
《空間把握》は生物以外の物質を知覚し、形を理解することの出来るスキルだ。本来ならば効果範囲を広げ、地形を把握したりするのに使うのだが、効果範囲を単一の物質に向ける事で、対象物の内部構造を把握するという使い方が出来る。
更に、《空間把握》や《気配察知》などのスキルは、対象を指定して使うスキルと併用する事が出来る。例を挙げると、《空間把握》で把握している場所に《空間転移》の転移先を設定する事が出来る。などがこれに当たる。
つまり、《空間把握》と《全アイテム鑑定》を併用する事で、内部構造を把握した状態で、物体を構成する物質の情報を読み取る事が出来るという訳だ。
分解などせずとも対象物の情報を読み取る事が可能なので、今回のように全く同じ形の物体を作らなければならない時に打って付けだ。
とは言え、実際に見る方が慣れているのでスキルを使うのもやり易い。先程態々弾薬を分解したのはその為だ。
ともあれ、内部構造と物質の成分が分かればイメージもしやすい。魔法で同一の物質を生成する手助けになるだろう。
「まあ、取り敢えずやってみるか」
◇◇◇◇◇
リウスが弾薬作成の試行錯誤をしていた頃。
「ん…………あれ……?」
寝室では、隣に居たはずの人物の姿がない事で目を覚ました者がいた。
「ご主人……様?」
目を覚ましたのは、レイミアだった。
現在、リウス達は4人で同じ部屋を使って生活している。なので当然――いや、必然的に寝室も同じとなる。
ミティアを奴隷商から買い取った日の夜。話題に上がったのは4人の寝る位置だった。リウス、ユキ、レイミアの3人だった時は、自然と――半ば強制的に――リウスが真ん中で寝ていたのだが、4人になるとそうも行かなくなる。
そこで、話し合い――リウスは含まれなかった――の結果決まったのは、日毎に寝る位置を3人で交換しようと言うものだった。
つまり、日によって寝る位置を変えるという事だ。
話し合った当日は、ユキ、リウス、ミティア、レイミアとなり、翌日は、レイミア、リウス、ユキ、ミティアといったように、次々に位置を変えていく。因みに位置はユキ特製のクジによって決まる。
そんな訳で、今日も寝る前にくじ引きが行われた結果、順番は、ユキ、ミティア、リウス、レイミアとなった。
レイミアがリウスの不在に気が付いたのは、寝る位置がリウスの横だったという事に加え、吸血鬼自体が睡眠を必要としないので、眠りが浅かったからというのが理由だ。
リウスが寝室に居ない事に気付いたレイミアだが、だからと言って慌てたり、リウスを探したりするような事は無かった。
何故なら、レイミアの居る寝室の隣、リビングから膨大な量のリウスの魔力が流れて来ており、確認するまでもなく隣にリウスがいる事に気付けたからだ。
だが、探す必要が無いと言っても、今はまだ夜中。そんな時間に起きてまでリウスがしている事は何なのか。レイミアは非常に気になっていた。
隣から感じる魔力は一体どんな理由で、どんな魔法を使う為に溢れているものなのか。魔法を扱う者として、純粋にそれが気になった。自分より遥かに強力な力を持つ主人が、これ程までの魔力を使って発動しようとしている魔法はどんなものなのか。
ベッドで寝ているもう一人の主人と、最近加わった二人目の従者を起こさぬようにゆっくりとベッドから降りると、好奇心の赴くままにリウスのいるリビングへの扉をそっと開いた。
◇◇◇◇◇
「……また失敗か」
魔法で弾薬作りを始めて約2時間。色々と試してみるも、一向に成功する気配がなかった。
《空間把握》と《全アイテム鑑定》で構造と成分は全て分かっている。頭の中に設計図があるような状態なのだが、何故か魔法で物質を作る事が出来なかった。
だが、成功した物もある。
弾薬に使われている弾頭は向こうの世界の弾薬と同じく鉛だ。
弾頭の形として作る事は出来なかったが、形を指定せずランダムに生成する事は可能だった。
一度イメージだけで発動出来てしまえば『魔法記憶領域』に魔法として記憶される為、ランダムに鉛を作る事は可能となったが、そこから加工しなければならないのなら魔法で作る意味がない。
「錬金術……取っておけば良かったな」
アポカリプスでもこの世界でも、錬金術という術を操る錬金術士が存在する。
魔法と同じく魔力を使って使用するのだが、決定的に違う点は、錬金術は物質の加工に適しているという所だ。
魔法のように魔力を変換させる事こそ出来ないが、そこに存在する物質を加工するという一点に関しては魔法を遥かに凌駕する。
アポカリプスでの錬金術士は、自作のアイテムや武具を作ったりする事が可能だったのだが、それにはアイテムや武具を作る為に素材を集めなければならない。しかし、強力な武具などを作る為にはそれ相応にレア度の高いアイテムが必要だった。だが、その為にアイテムを集めるぐらいなら、ドロップする武器を狙った方が掛かる時間が短く、その上武器の性能も高い。などの理由から錬金術士は微妙な職業というのが全プレイヤーの認識だった。まあ、それでも錬金術士に就いている酔狂なプレイヤーもいたのだが。
正直この世界に来て魔法を知ってから、錬金術なんて不要なものだとばかり思っていたが……。
うん。必要だわ、錬金術。
「もう一回試してみるか……」
何度も失敗が続いている上、夜中という事もあり肉体的にも精神的にも疲れが出てきたが、せめて失敗する原因ぐらいは突き止めて終わりたい。
そんな事を考えていた時。
「ご主人様……?」
「ん? レイミアか」
寝室の扉からレイミアが顔を出してこちらを覗き込んでいた。扉をゆっくりと閉めてこちらに近付いてくる。
「何をされているんですか?」
「銃に使う弾薬を魔法で作れないかと思ってな」
「それは……魔法で特定の物質を作るという事ですか……?」
「まあ、そうなるな」
「そ、そんな事が可能なんですか?」
「形は指定出来なかったけど、生成自体は出来たぞ」
魔法で作った鉛の塊をレイミアに手渡す。
「で、ですが、完璧に物質を再現するには基本4属性を魔導まで使えないといけませんが……」
「レイミアには言ってなかったか。俺、光属性以外なら全部魔導まで使えるんだ」
「…………え!?」
普段のレイミアからは考えられない程大きな声を上げる。
「レイミア、声、抑えてくれ」
「え、あ、はい……すいません」
今が夜だという事を思い出したのか声を抑えるレイミア。まあ、俺の作業音で3人を起こさないようにリビングには音を遮断する結界を張っているので、今の声でユキ達が起きてしまう事は無いのだが。
「まあ、作る事は出来たんだけど、形を指定出来なくてな」
「形の指定ですか……」
俺もこの世界に来てから魔法の事はかなり調べたつもりだが、やはり魔法を使っている時間で言えばレイミアの方が長いだろう。この世界で生まれ、小さい時から魔法を使って来たレイミアだからこそ気付く何かがあるかも知れない。
「形の指定……普通に魔法を使うのであれば形が指定されているものもありますけど……」
「そうなんだよな。普通に魔法を使うんだったら……ん?」
普通の、魔法だったら……?
「ご主人様?」
「そうか……そうだよな。魔法なら、出来るんだよな……」
「ご主人様……?」
「レイミア、ありがとう。行けるかもしれない」
何故、気付かなかったのだろう。何故、“魔法”を使おうとしなかったのだろう。何故、“作ろう”としたのだろう。
「物質を“作る”じゃなく、“複製”する、か」
今回で50話です!
更新の遅い作品ですが、これからも読んで頂ければ嬉しいです!




