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最強魔王の異世界放浪記  作者: 塩砂糖
第3章《呪われし奴隷編》
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第46話『次に会った時は必ず殺す』

本当はここで終わらせて次回から日常パートへ行こうかと思ったんですが、思いの外長くなったので二分割しました。

 地下室を出て階段を登る。階段を登り切ると、ミティアを攫った男が出てきた扉が見えてくる。

 その扉に手を掛けた時、この先の惨状を思い出す。スキルによる確認なので色は分からないが、壁には血が飛び散っており、死体はベルゼブブが処理したのか、一体も残っていないが、刺激の強い光景が広がっている事に変わりはない。

 屋敷の周囲に人影は無い。これなら一時的に〈空間隔離(アイソレーション)〉を解除しても問題無さそうだ。ただ、その前に――。


『聞こえるか?』

『聞こえております。我が主』


 七つの大罪全ての悪魔から同時に返答が来る。召喚した悪魔や魔物と意思疎通が出来るのはやはり便利だな。


『俺は一旦宿に戻る。その際一時的に結界を解除する。周囲の警戒を怠るな。不審に思われたり目撃された場合は殺せ。死体は完全に処理すること』

『畏まりました』

『ああ、それと、扉の場所に死体を一つ置いておく。この館の主人の死体だ。確実に処理してくれ』

『畏まりました』


 扉を開けてダトスの死体を放る。

 さて、これで取り敢えずは大丈夫かな。


「それじゃあミティア。転移で戻るぞ」

「んっ」


 返事と共にミティアの手が俺の手をより強く握ってくる。それに応えるようにこちらも握り返してから、スキルを発動する。


 《空間転移》


 一瞬にして視界が切り替わり、宿の部屋が目の前に広がる。

 転移に気付いてユキとレイミアが咄嗟に警戒の姿勢を取るが、転移してきたのが俺とミティアだと気付き、駆け寄ってくる。


「ミティアちゃん!」

「……ユキさ――」


 駆け寄るなりミティアを抱き締めるユキ。遅れて来たレイミアはミティアの無事な姿を見て安心したのか、ホッと胸を撫で下ろしていた。


「リウス、ありがとう。怪我とか無い?」

「ああ、俺は大丈夫だ」

「そう、良かった……」


 ミティアを抱き締めて無事を確認できた為か、力が抜けてその場にへたり込んでしまうユキ。


「ちょっ、ユキ、大丈夫か?」

「う、うん。ちょっと安心したら力抜けちゃった」


 本当ならここでゆっくりしたい所なんだが、生憎とまだする事がある。


「レイミア、少し頼みたい事があるんだ。一緒に来てくれるか?」

「はい。畏まりました」

「どこに行くの?」

「ちょっと後片付けにな。すぐ戻るよ」


 レイミアの手を取り、スキルを発動して再び館に戻る。転移先は館の玄関ホールだ。


「これは……」


 レイミアが声を洩らす。その声はこの惨状に向けられたものか、それとも、目の前で跪く七人の悪魔に向けられたものか。


「彼らは俺の使い魔……のようなものだ」


 本来使い魔という言葉は使役されている魔物や魔獣に対して使われるものなので、この場合は少し違うが、他に言い方が思い浮かばなかったので“使い魔のようなもの”という事にしておいた。尤も、俺に召喚され使役されているのであながち間違いでは無いかも知れないが。


「何か異変はあったか?」

「いえ、特に御座いませんでした」


 答えるのは怠惰の名を冠するベルフェゴール。

 俺も《気配察知》で周囲を探ってみるが、俺を中心とした半径百メートルの円の中に人はいないようだった。

 誰もいないのを確認してから〈空間隔離(アイソレーション)〉を張り直す。


「それじゃあレイミア、この屋敷に飛び散った血を吸収してくれるか?」

「畏まりました」

「お前達も今日はありがとうな。何かあったらまた頼む」

「お礼など私共の身に余るお言葉。また何なりと私共をお呼び下さい。微力ながらお手伝いさせて頂きます」


 傲慢のルキフェルが代表して答え、全員が頭を垂れる。そして、召喚された時のように黒い靄に包まれて消えていった。

 そんな事をしているうちにレイミアの方は終わったようだ。


「終わったのか?」

「はい。これで館の中に血液は残っていないかと」


 俺が言うのも何だが、相変わらず物凄いスキルだ。証拠隠滅なんてお手の物だし、その上――これでまたレイミアの命が数十個増えた訳だ。死ぬ事が無いというより、死ぬ事が出来無くなりそうだ。


「そうか、ありがとな。それじゃあ戻るか」


 そこで殺戮が繰り広げられていた事など嘘だったかのように綺麗になった玄関ホールに背を向け、館を出る。庭に転がっていた衛兵の死体も綺麗に片付けられていた。

 蹴り破ってしまった門もどういう訳か綺麗に修復されていた。能力的にベルフェゴールが修復したのだろう。本当は俺がやろうと思っていたのだが……。気が回り過ぎて怖いくらいだ。

 修復された門の前まで来て〈空間隔離(アイソレーション)〉を解除する。


「さて、後片付けも済んだしこれで――」

「……? ご主人様?」

「……レイミア。悪いけど、先に帰っててくれるか?」

「何かありましたか?」

「いや、俺の気の所為かも知れない事だ。すぐに帰るから、戻っててくれ」

「……畏まりました。お気を付けて」


 そう言ってレイミアの姿が目の前から消える。転移魔法で宿に転移したのだろう。

 俺が感じたのは“視線”だ。ただ、明確にこちらを見ていると感じる訳ではなく、そんな気がする程度のものだ。この世界に来る前であれば気の所為だと思うような、それ程些細なもの。街中で感じても無視する程の視線だが、〈空間隔離(アイソレーション)〉を解除した瞬間にそれを感じた為、少し不審に思ったのだ。

 俺は《気配察知》と《空間把握》を使いながら、視線を感じた方向へと歩き始めた。



◇◇◇◇◇



 時は少し遡り、リウスがミティアを助け出し宿に戻った頃。

 〈空間隔離(アイソレーション)〉による結界が解除された領主の館を覗き見る人影が一つ。

 ミティアの誘拐を依頼したダトスとギルドを仲介したレンブ・タンクルだ。


「結界が消えた……?」


 裏ギルドの命により、リウスが来るであろうダトスの館を監視していたレンブ。

 予想通りリウスが現れたまでは良かったのだが、リウスが衛兵を殺し屋敷の敷地内に入った途端、結界が張られ中の様子を見る事も、侵入する事も出来なくなってしまったのだ。

 それでも、侵入出来ない。中の様子が分からないからと仕事を投げ出して良い理由にはならない。

 何の変化も起こらない館を監視し続けて数十分。突如として結界が解かれたのだ。

 侵入するには千載一遇のチャンス。だが、レンブは動く事はしなかった。

 レンブとリウスが実際に会ったのは合計二回。街ですれ違った時も合わせれば三回か。そんな数少ない遭逢だが、レンブはリウスとの実力差を感じていた。

 真正面から戦ったところで勝つ事は出来ない。そう分かっていて尚、結界が張られていた場所に立ち入る程レンブは馬鹿ではなかった。

 レンブのその判断は正しかった。

 結界が解かれて数分後。再び結界が張られたのだ。

 館に足を踏み入れなかった事を安堵しつつ、監視を続けるレンブ。

 しかし、張られた結界が解かれたのは思いの外早かった。

 結界が解かれた事で現れた人影が二つ。一つはレンブが監視をしていたリウス。もう一つは攫われたミティアという少女ではなく、白い肌をした別の少女だった。


「あれは確か、彼と一緒にいた……名前は何だったか。聞いていないな」


 名前を思い出そうとしたところで、そもそも名前を聞いていない事に気が付く。尤も、知っていたからといってどうという事は無いが。

 仕事に関係の無い思考を頭から追い出し、監視を再開する。

 視線の先、リウスと色白の少女――もといレイミアが数回言葉を交わすと、レイミアだけが姿を消した。転移によって何処かへ移動したのだろうとレンブは予測を立てる。


「でも、何故彼はここに残ったんだ?」


 そうレンブが呟いたとほぼ同時、リウスは歩きで館の敷地外に出て、とある方角に向かって歩き始めた。

 その方向は――レンブが監視の為に潜んでいる家の位置と同じ方角だった。


(まさか、気付かれた?)


 レンブとて何もせずただぼーっと監視をしていた訳では無い。

 生命探知魔法の対策はしているし、気配を遮断する隠密系の魔法もかけていた。

 にも拘らず、監視対象であるリウスはこちらに向かって来ていた。

 勿論、それだけでこちらの位置がバレていると決まった訳では無い。偶々同じ方向に用事があっただけかも知れないのだ。

 だが、例え位置がバレていなかったとしても、同じ方角に向かって来ている以上、自分が無関係だと思える程楽観的な思考回路をレンブは持ち合わせていなかった。


(何にせよ、早くここを離れた方が良いな。“これ”を失うのは惜しい)


 レンブは鍵も掛けずに家を後にし、人気の少ない付近の林へと駆け出した。



◇◇◇◇◇



「ん?」


 ダトスの館を出て視線を感じた方向へ向かっていたところ、進行方向で“何か”が動くのをスキルが捉えた。

 状況的に考えればそれが視線の正体だろうが、妙な事に、動いた“何か”は《気配察知》に反応していなかった。

 可能性としては、レイミアのようにアンデットだったり、生物ではないゴーレムなどである可能性。もしくは、俺のスキルを欺く魔法やスキル、アビリティを使っている可能性。

 とまあ、二つ可能性を上げてみたが、十中八九前者ではないかと当たりは付けている。と言うのも、《気配察知》には反応していないが、《空間把握》のスキルにはしっかりと反応しているからだ。

 アンデットやゴーレムの場合《気配察知》には反応せず、《空間把握》に反応するのはレイミアによって確認済みだ。

 まあ、アンデット――もしくはゴーレム――が俺に何の用かは聞いてみなければ分からないが。

 そんな事を考えていると、突然“何か”が走り出した。


「っ! やっぱりあいつか!」


 逃げたのに合わせ、こちらも走って追いかける。

 追いかけているものが何なのか《空間把握》で確認したいところだが、距離が離れている上、俺も走っている為スキルの精度を上げる事が出来ない。これも近いうちに練習しておかなければならないかも知れない。


「って、意外と早いな」


 逃げている何かが思いの外素早い事に驚く。

 これは余計な事を考えてる場合じゃないな。

 関係のない思考を頭から追い出し、逃げる“何か”に追いつく為脚に力を入れる。


「絶対逃がさないからな」



◇◇◇◇◇



 逃げていく“何か”を追いかけて行くと、着いた先は林だった。

 どうやら人目に付かない林の中に逃げ込んだようだ。

 周囲に人影は無い。

 ちょうど良いので、林一帯を〈空間隔離アイソレーション〉で囲み出られないようにする。

 林の中に逃げ込んだ“何か”はもう逃げられないと思ったのか、それとも逃げる気が無いのか、俺が〈空間隔離アイソレーション〉を使ってからその場から動かない。

 林に入ってから数分後。追いかけていた“何か”の姿が見えてきた。

 見た目は二十代ぐらいの青年。これと言った特徴の無い何処にでもいるような容姿だ。しかし、その表情は何処か感情というものが欠如しているように見えた。

 腰に下げている鉄で出来た片手剣を抜き、青年に近づく。

 すると、無表情のまま青年が口を開く。その声は、何処か聞き覚えのあるものだった。


「こんにちは、リウスさん」

「その声……レンブか」


 姿こそ違えど、確かにその声は俺達に薬草採集の依頼をしたレンブ・タンクルのものだった。


「どうも、先程振りですね。それで、何の御用ですか?」

「惚けるな。お前、俺を監視してただろ」

「……やはり気付かれてましたか」


 無表情なので判りづらいが、その声は落胆しているように聞こえた。


「それで、リウスさんはどうして僕の元に?」

「それは勿論、目撃者を殺すつもりだったからなんだが――」


 そこで言葉を区切り《敵情報解析》をレンブに対して使う。


【名前:FC-AA特化型零号機】

【レベル: 】

【性別: 】

【種族:自動人形(オートマトン)

【職業:闘拳士】


【HP:30000/30000】

【MP:20000/20000】

【筋力:3000】

【耐久力:2000】

【魔力:2000】

【精神力:2000】

【敏捷力:3000】

【幸運:0】


 ある程度予想はついてたけど、やっぱりレンブ本人ではなかったか。種族が自動人形(オートマトン)となってるあたり、本人は何処か別の場所でこれを操作してるのだろうか。まあ、自動人形を操作するというのもおかしな話だが。


「これを壊してもお前は殺せそうに無いからな」

「よく出来てるだろう? 僕の自信作なんだ」


 自分で作ったのか、これ。

 街中で見かけても全く違和感がない程見た目は本物に近い。日本でもこれ程までのアンドロイドは作れていなかった。相変わらずこの世界は変なところで技術力が高い。


「まあ、それは良い。俺が聞きたいのは何で俺を監視してたかだ」

「貴方なら大方予想はついているじゃないですか?」

「裏ギルドの命令だろうとは思ってるが、何でそんな事をしてるのかが分からない」

「単純な理由ですよ。端的に言えば、貴方がここの領主を殺さなかった場合、僕が殺す予定でした」

「……どういう事だ?」


 レンブの話を纏めるとこんな感じだ。

 ここの領主であるダトスは、以前から裏ギルドに依頼をしてくる事があったらしい。

 裏ギルドも最初こそ依頼を受けていたそうだが、次第に依頼内容はエスカレートしていき、ある時された依頼が裏ギルドの上層部の怒りを買ったらしい。

 その為、裏ギルドは邪魔な存在になったダトスの殺害を計画。その実行者としてレンブが選ばれたとの事。

 本来ならレンブが殺害する予定だったのだが、そこに俺達が現れた。

 俺が買った奴隷をダトスが欲しがっている事を知ったレンブは、これをどうにか利用出来ないかと考えた。

 そしてレンブが考えたのが、ダトスの計画するミティア誘拐を手助けし、ミティアの救出と報復を兼ねてやってくるであろう俺を使って、ダトスを殺害しようというものだった。

 ただ、この計画の殆どはレンブの希望的観測に基づいて立てられたもので、もし計画通りに進まなかった場合は、レンブ自身が尻拭いをするつもりだったとの事。

 詰まる所、全てレンブの手のひらで転がされていたという訳だ。


「――まあ、こういう事だよ。聞きたい事はそれだけかい?」


 親しげな声が癇に触る。全て思い通りに動かされていたと思うと、急に今までやって来た事が馬鹿馬鹿しく思えてきた。


「……ああ、もう聞く事はない」

「なら、この結界を――」

「断る」


 最後まで言葉を聞かずにそう答えて、目の前の自動人形に向かって駆ける。

 一瞬にして距離を詰め、手に持つ剣を胸に刺し、頭を捻って捥ぎ取る。

 人形の体は金属で出来ており、首が落ちても血が流れる事は無かった。


「うわ。容赦無いな」


 地面に転がる首が言葉を発する。どうやらこの程度じゃ機能停止にはならないみたいだ。


「次に会った時は必ず殺す」


 完全に悪役の台詞だが、今そんな事はどうでも良い。

 転がった首を踏み潰す。流石にそこまでされると機能が停止するのか、それ以上何も言わず、動く事も無かった。


「念の為、完全に壊しておくか」


 動かなくなった人形を一箇所に纏め、その位置に向かって魔法を放つ。


火球(ファイアボール)


 爆風が周囲の木々を揺らす。〈空間隔離(アイソレーション)〉を使っていなければ間違いなく人が集まってくるであろう爆音が鳴り止み、土煙が収まる。

 着弾地点にはクレーターが出来ており、その場所に集めていた人形の残骸は無くなっていた。完全に消し飛ばす事は出来なかったかもしれないが、まあ充分だろう。

 クレーターは……直さなくても大丈夫か。俺の場合〈火球(ファイアボール)〉を使ってクレーターを作るから異常なのであって、他の魔法を使えば出来ない事でも無いのだから。


「さて、帰るか」


 完全に全てが解決した訳では無いが、現状出来る事はこれが全てだろう。

 俺は〈空間隔離(アイソレーション)〉を解除し、《空間転移》で宿へ転移した。

今回の話の補足を少し。


《空間転移》は転移先を予め決めておく必要があるのですが、転移先の設定はその場にいなくても可能です。

要するに、スキル使用者が転移先を認識さえしていれば設定は可能なので、《空間把握》の効果範囲内であれば転移先は自由に設定出来ます。

ただし、いくらその場所を認識出来れば良いからと言って、写真や絵、映像を介しての転移先設定は出来ません。写真、映像で認識しているのは、あくまで写真や映像“そのもの”なので。

仮にそのような方法で転移先設定を行った場合、転移するのは写真に写っていた場所ではなく、写真や映像がある場所になります。


ミティアを連れて一度宿に戻った後、帰ってきた時に転移先が玄関ホールだったのはこの為です。

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