第3話『諦めて絶望でもしようか』
今回は今までに比べて大分長いです。
俺は今、隣にセミロングの茶髪に狼の耳と尻尾を持つ、十人に聞けば十人が美人だと答えるであろう女性と森を二人で歩いている。
それだけ聞けば、男としてはとても魅力的な状況と言えるだろう。
その森が見渡す限り草木の枯れた森で、しかもここが何処だか分からないという状況でさえなければ。
「リウス。まだ森を抜けるのには時間かかりそう?」
「んー。もうそろそろのはずなんだけどな」
「あまり景色が変わらないから同じところを回ってる気分になるね」
歩き始めて三十分。俺たちは未だに森から抜けられずにいた。
とはいえ迷いの森という訳ではないので、単にこの森がそれ程広いというだけだ。
俺は現在【空間把握】の他に【気配察知】という索敵に使うスキルも併用している。
しかし、周囲に俺たち以外の生物はいないようで、それが余計にこの森の『滅びの森』感を演出していた。
「そういえば、なんでここの木は全部枯れてるんだろう?」
「さあ、それは分からな――ん?」
ふと木に目を向けると、違和感に気付く。
あれ? この木……。
「どうしたの?」
「この木、枯れてる訳じゃないみたいだ」
「……? それってどういう――あっ」
ユキも気が付いたようだ。
「これって……全部燃えた後?」
そう、この木は全て枯れているのではなく、全て“燃えた”後だった。
「そうみたいだな」
「山火事でもあったのかな?」
「それにしては広範囲過ぎる気もするけど......なんとも言えないな」
もし山火事などがあったのだとしたら、この周辺に生物が一切いないのも頷ける。
そんな会話をしていると、木々の隙間から森の終わりが見え始める。
「そろそろ森も終わりだな」
「あ、ホントだ。森を抜けたら人のいる場所を探さないとね」
「近くに町があればベストなんだけどな」
森を抜けるとそこは草原だった。
時刻は現在一時二十四分。
町はないか……?
「リウス。向こうにあるのって何かな?」
そう言われ、ユキが指を差す方向をよく見ると、大分距離があるが奥に町のようなものがあるのが分かった。
「ここからじゃよく見えないけど、行く当てもないし行ってみるか」
歩き出そうとするとユキから声がかかる。
「行くのは賛成だけど、その前にその格好をなんとかしない?」
「え?」
俺の今の格好は白で縁取られた漆黒の鎧に、裏地が紅い黒のマント。それに加え、黒い刀身に赤で装飾が施されている大剣を背負っている。
さらには角と翼まで生えているときた。
まるで魔王だ。いや魔王なんだけどね?
この世界で魔人種と人類種が友好的とは限らない。
ゲームや物語に於いて魔と付くものは大抵が悪役。
況してや俺は職業上は魔王。RPGで言えばラスボスだ。
この世界に魔王がいるかは分からないが、町では情報収集などをしなければならないし、魔人種がどの様な立ち位置にいるかを知るまでは、隠しておいたほうが良いかもしれないな。
「そう……だな。せめて鎧ぐらいは変えるか」
「角と翼はどうにもならない?」
「……なんとかしてみる」
とは言ってもどうするか。
鎧だけならば装備を変えれば済む。
装備変更がメニュー画面から可能なのは確認済みだ。
鎧を自分で着ろ。なんて言われても出来ないからな。
ただ角と鎧は……。
「あっ」
「何か思いついた?」
「ああ、ちょっと試してみる」
俺がこれまでに使ったスキルは【空間把握】と【気配察知】の二つ。
ゲーム内では【空間把握】はメニューにマップが表示されるだけだった。
だが今実際に使ってみると、マップだけではなく、生えている木々の位置、形、落ちている石の数まで鮮明に把握することが出来た。
【気配察知】はゲームではマップに敵の位置が表示されるだけだ。
だが今は隣で歩くユキの挙動の一つ一つを詳細に把握することが出来るまでになっていた。
また、効果範囲なども自分の意思で決めることが出来た。
これはゲーム内よりも遥かに精度が上がっている。
言い換えれば、自由度が上がっている。
であれば、ゲーム内では出来なかったことも今ならば可能なのではないか?
今回使うスキルは【外見偽装】
本来はモンスターの姿になり、敵とのエンカウントを避けるために使用するスキルだが、今ならばそれ以外の姿に変える事も出来るのではないか?
自分の中に意識を向け、スキルを発動する。
「【外見偽装】」
イメージするのは、角と翼のみを消して後はそのままの姿。
結果は…………成功だった。
「あっ! 角と翼が消えた!」
「すごい便利だな……このスキル」
正直ゲームだった時は大して使わないスキルだった。
避けようにも自分よりレベルが上のモンスターには効かないわ、移動速度が遅くなるわ、良いことがあまり無かったからだ。倒して進んだ方が結果的に早いほどに。
正直に言って、使い道がなかったのだが……。
ここに来てこんなにも便利になっていたとは。
だが、デメリットもあった。
何故だかは分からないが、ステータスが全体的に20%ほど下がっていた。尤も、体感ではあるのだが。
ゲームで言うところの移動速度低下がこれなのだろうか?
まあ元々ぶっ飛んだステータスだったので大したデメリットでもないが。
「いいなぁ。こんな事になるなら私もその手のスキル取ったのに」
「ユキは必要ないだろ? 気になるならフードか何か被っていけばいいんじゃないか?」
「そういう意味じゃなかったんだけど……まあいいや。そうするね」
「……? ああ」
俺は着ていた鎧を革鎧に変え、背中に下げていた大剣は鉄の長剣に変え、腰に下げる。
ユキも着ていた鎧をフード付きのローブに変え、両脇に下げていた二本の長剣は、二本の短剣に変わっていた。
「まるで魔法使いだな」
「魔法は補助程度しか使えないんだけどね」
「そうなのか? 職業は何に就いてるんだ?」
「ああ、そういえば言ってなかったね。私が就いてるのは獣王だよ」
まさかの獣人種のユニーク職でした。
「……いつの間に就いたんだ?」
「……リウスがゲームを辞めてから1年ぐらいあとっ」
少し怒ってる……?
「そ、そうだったのか……」
「そうだよ! リウスがユニーク職に就いてるから、私もユニーク職に就いて驚かせようと思ったのにその前に辞めちゃうし!」
「う、すいませんでした……」
「……ふふっ、なんてね。もう怒ってないよ。リウスがゲームを辞めちゃった時は寂しかったけど、今こうして再会できたしね」
何でそういうことサラッと言えちゃうんですかね。勘違いしますよ?
「さっ、早く行こう! リウス!」
「あ、ああ!」
◇◇◇◇◇
暫く歩くと、やはり先ほどから見えていたのは町だったようで、人がちらほら見える。
「あ! 人がいるよ!」
「第一町人発見だな」
「ふふっ、そうだね。町に着いたらまず何をするの?」
「まずは情報収集だな。お金の確認や宿の確保もしなくちゃな」
「う……やることいっぱいあるね……。観光とかしちゃダメかな?」
「落ち着いてからな。お金が使えなかったら宿代稼がなくちゃいけないんだから」
「はーい……」
なんで少し残念そうにしてるんですか。
この状況で観光の余裕があるなんて意外と大物……?
「でも、お金を稼ぐにしてもどうやるの?」
「それも兼ねての情報収集だよ。向こうの世界の常識は通用しないだろうからな」
「そっか。本当に何もかも分からないんだもんね……それを聞いて少し不安になってきたよ……」
「今更かい。でも情報収集の段階で問題が――」
「ちょっとリウス! ねえ、あれ見て!」
俺が話しているとそれを遮りユキが大きな声を出す。
会話しながらも歩いていたのでだいぶ町は近くなって来ている。
ユキが指差す先には看板があり、そこには『この先フィレスト』と書かれていた。
恐らくこの先の町の名前なのだろう。
「あの看板がどうかしたのか?」
「え? 気が付かない? もしかして読めない?」
「いやいや、馬鹿にしすぎ。文字ぐらい読め――あっ」
そこで俺も気が付く。
そう。あの看板に書いてある文字は、平仮名でも片仮名でも漢字でもなく、またアルファベットでもなかった。
不自由なく読めた為全く気が付かなかったが、まるで見たこともない形をした文字だった。
「やっぱり読めるよね?」
「ああ、なんかもう……どうなってるんだろうな」
だがこれは好都合だ。
俺が懸念していたこと。それがまさに『言語』だった。
情報収集をしようにも、言葉が通じなければ会話することも出来ない。
その時は諦めて絶望でもしようかと思っていたところだが、文字が読めるなら話は別だ。
音声言語まで通じるかは分からないが、文字が読めればそれだけでもある程度のコミュニケーションは取れるだろう。
「だけどまあラッキーだな。このまま言葉まで通じればいいんだが」
「きっと大丈夫じゃないかな? なんだかそんな気がするよ」
うん。俺もそんな気がします。
◇◇◇◇◇
町は思いのほか人が多く、賑わっていた。
周囲には、目が覚めたあの森とは違い、ちゃんと葉の生い茂った木々が生える森が見える。
道行く人々の中には子連れの親子や、耳の長いエルフの様な人、ユキの様に耳と尻尾を持つ獣人種、そして剣や鎧などを着用している者たちもいた。
しかし残念――と言っていいのかは分からないが、魔人種の様に角や翼を持つ人は見当たらなかった。
これは隠しておいて正解だったかもしれない。
「意外に人が多いね」
「そうだな。これなら情報収集も出来るだろうし、宿なんかもあるだろうな」
「その、さっきから気になっていたんだけど、その情報収集っていうのはどこでするの?」
「うーん。ゲームや物語なら情報収集は冒険者ギルドや酒場って相場が決まってるんだけど……。とりあえず少し歩いてみようか」
歩きながら町を見てみると、この町の大通りのような場所に出た。
そこには様々な店があった。
酒場などをはじめとした屋台などの飲食店、野菜や果物を売っている八百屋のようなもの。そして日本ではまず見れないであろう、武器や防具を売っている武具屋などがあった。
それぞれの店には結構な数の客がおり、皆誰かと会話をしている。
「ねえ、やっぱりみんなが喋っている言葉って……」
「ああ、完全に日本語だな」
こちらの世界では『日本語』とは言わないかも知れないが、彼らが喋っている言葉はどう聞いても日本語だった。
明らかに日本人ではない顔つきの人達が流暢に日本語を喋っているというのは、なんだか変な感じだ。
しばらく歩くと、町の中でも一際大きな建物に着いた。
高さ2メートルはありそうな木の両開きのドアの上には、看板に書いてあったものと同じ文字で大きく『冒険者ギルド』と書かれていた。
「ここだな」
「まずはやっぱり冒険者になるの?」
「ああ、持っている金が使えなければ稼がなくちゃいけないからな」
尤も、冒険者というものがどんな職業なのか知らない訳だが。
ギギィという音ともに扉を開き中へ入ると、中にいた人達から視線が集まる。主にユキに。
建物は少なくとも二階建て以上のようで、一階にはギルドの受付に、大量の紙が貼ってある掲示板、テーブルや椅子が多く用意されているそこは、宛ら飲食店のようだ。と思ったら大衆食堂を兼ねた酒場もあった。
受付の隣には二階へと続く階段があり、壁には『宿屋はこちら』と書かれた紙が貼られていた。
中にいる殆どの人は皆何かしら武装をしており、そのような光景とは全く無縁だった普通の日本人からすると、結構な威圧感を受ける。
男女比はぱっと見、8:2といったところか。
やはり圧倒的に男性が多いようだ。
隣のユキはというと、少し怖いのか、先ほどまでよりも距離が近くなっていた。
護ってあげたいオーラが物凄く出ていた。
(行くぞ)
俺はユキにそう小さく声をかけ、集まる視線を務めて無視して受付へと向かう。
「すいません」
「はい。どのようなご用件ですか?」
「冒険者になりたいのですが」
「畏まりました。お連れの方もご一緒に登録されますか?」
「はい。お願いします」
「文字は書けますか?」
「……多分……大丈夫です」
「それでは、こちらの用紙に必要事項を記入して下さい。あと、こちらの冊子には冒険者になるにあたっての規則や注意事項が書かれておりますので、一度ご確認ください」
「はい。有難うございます」
そう言って渡された紙を受け取り、近くにあった椅子に腰掛ける。
「はいユキ」
「うん。ありがとう。実は、こんな場所に来るのは初めてだったから少し怖かったんだ」
「俺だって少し怖いと思ったからな。仕方ない」
書類の記入事項は、名前、年齢、性別、戦闘は可能か、魔法が使えるか否か、使えるのであれば魔法の種類は何か、といったところだった。
出身地などを聞かれたらどうしようか。などの不安はあったが杞憂に終わった。
文字を書けるのか? という不安も無い訳ではなかったが、やはりというべきか、使い慣れた言語のようにスラスラと書くことができる。
記入する名前はゲーム名のリウス。年齢は日本にいた時の年齢である26歳。性別は勿論男だ。
……やろうと思えば女性になることも可能だろうが、生憎と俺はそんな特殊な性癖は持ち合わせていない。
戦闘は可能。と、ここまで書いたところでペンが止まる。尤も、使っているのは鉛筆に似た筆記用具だったが。
魔法の使用が可能か。それはまだ試していない事だった。
ゲーム内では俺も魔法は使えた。
それがここでも使えるか。それは分からないが、なんだか使えるような気がした。
メニューもスキルも使えて魔法だけ使えないなんて事はないだろう。
……フラグになっている気もするが、また後で確認すればいいだけの話だ。
俺は使用可能に丸をつけ、次に進む。
次は魔法が使える場合、どのような魔法が使えるか、というものだった。
選択肢には、攻撃、回復、補助の三つがあり、俺は攻撃と補助の二つに丸をつけた。
俺が必要事項を記入し終わり顔を上げると、ユキはまだ記入中のようだった。
その間に俺は受付の人からもらった冊子に目を通す事にする。
内容を要約すると大体こんな感じだ。
まず始めに、冒険者のランクは全部で7種類。S,A,B,C,D,E,Fの七種類だ。
書かれていた文字は実際にはアルファベットではないが、意味合いとしては同じだろう。
Fランクが最も下でSランクが最も上。
一般的にCランク以上が高ランクとされるらしい。
基本はFランクからのスタートとなるが、何らかの実績があれば例外的にEランク以上からのスタートとなる。
上のランクに上がるには、一定数の任務をこなすか、なんらかの形でギルドに実力を認められれば進級可能のようだ。
ただし、Sランクのみギルド側が冒険者の中から選出する事になっているらしい。選出の基準は書かれていなかった。
次に、冒険者の身分についてだ。
冒険者の身分はギルドによって保障されている。
身分証はギルド登録時に渡されるギルドカードがその役割をしてくれるらしい。
また、ギルドカードを紛失し再発行する場合、再発行料が発生する。
そして最後に依頼について。
受けられる依頼はランクによって決まっており、自分より一つ上のランクまでの依頼を受ける事が出来る。
また、依頼には契約金が必要となるものがあり、依頼を達成できれば契約金の倍の額が報酬額に加算される。が、もし依頼を達成できなかった場合、契約金は没収となる。
とまあ、重要な部分を大まかにまとめると大体こんな感じだ。
俺が冊子の内容を確認し終わると、いつの間にか書類の記入を終えたユキも冊子を確認していた。
暫くするとユキも冊子の確認を終え、顔を上げた。
「よし。じゃあ出しに行くか」
「ごめんね。待たせて」
「いや、俺だけだと何か見落としてそうで不安だからな。全然構わないよ」
受付に行き、受付嬢に書類を提出してそれで終わりだと思っていたのだが......。
「リウス様とユキ様ですね。書類の提出を確認致しました。リウス様は攻撃魔法を扱えるとの事ですので、冒険者登録の前にどの程度の威力なのか確認をさせて頂きますが、よろしいですか?」
まさかのその場で確認ですか。
聞けば魔法を扱える冒険者は魔法を扱えない冒険者より貴重な存在である為、ギルド側としても実力がどの程度か予め確認しておく必要があるのだそうだ。
自分が魔法を使えるかは確認していないが、多分……大丈夫だよな?
「大丈夫……です」
そう答えると、俺とユキは受付の奥にある扉に案内された。
その扉を開けると、建物の裏、裏庭のような場所に出た。
そこには木で出来た的のようなものが幾つか用意されており、その的に魔法を当て威力を調べるらしい。
所定の位置に立たされると、ギルドの職員から「いつでもどうぞ」と声をかけられる。
さて、魔法が扱えるのか、例によって自分の中に意識を向ける。
やはり魔法を扱う事はできるようだ。
が、問題はなんの魔法を使うか、だ。
ゲーム内で、俺の魔法攻撃力は強い部類だったかと聞かれれば、俺は迷いなく強い部類に入っていると答えるだろう。
魔人種は種族特性により、魔法関係のステータスが他の種族より高かった。
それに加え、俺の現在の職は公式チートとも言える『魔王』だ。
魔法攻撃に特化した専門職にも、引けは取らない。
森での一件で、自分の物理攻撃力がとんでもない威力を持つものだという事は嫌でも理解させられた。尤も、あの程度は冒険者であれば誰でも出来る、という線もない訳ではないが。
俺の魔法攻撃力は物理攻撃力よりも高い。
本気で魔法を放てばどうなるかは想像もしたくないが、大惨事になるのは間違いない。
その結果、俺が選んだ魔法は得意とする闇属性魔法の中でも最も弱い部類に入る〈闇弾〉
闇弾は属性が闇というだけで、特に追加効果や特殊効果などを持たない最初期に覚える事ができる魔術――今は関係無いが、アポカリプスでは魔法は『魔術』『魔法』『魔導』の3種類があり、この順番で強力になっていく――だ。
威力も高くないので本当に序盤しか使う事のない魔法だが、この場では丁度いい。
魔法を発動させようと意識を向けると、細かく威力の調整などが出来る事に気が付く。
ゲームでは魔法の威力の調節などは出来なかったが、やはりスキルと同様に自由度が上がっているのだろう。
俺は出来る限り威力を落とし、魔法を使う事にする。
この際魔法が使えるという証明が出来ればいいのだ。
手に何かが集まっていくような感覚がする。
魔法の発動準備が整った事を理解した俺は、二十メートルほど先にある的に向かって魔法を放つ。
「行きます」
声を発した直後、手から放たれた黒い球がかなりのスピードで的に向かって飛んで行く。
的にぶつかった瞬間『バンッ』という爆発音と共に、木で出来た的が、読んで字の如く木っ端微塵となった。
唖然とするギルド職員と、俺。
ギリギリまで威力を抑えてもこれほどまでとは思わなかった。
ゲームでの能力が現実になると、こうも変わるものなのかと。
隣でその様子を見ていたユキは「うわっ、凄いね〜」と声をあげていた。
なんか軽いですねユキさん。
その声で我に返ったのか、ギルドの職員が慌てて終了告げる。
「か、確認は以上です! 最終手続きを済ませてきますので、ロビーで少々お待ち下さい!」
別に俺は悪くないのだが、あの職員には悪い事をしてしまった気分になる。あんなに慌てなくても……ね? 俺もビックリしたけどさ……。
ん? 俺がやっぱり悪いのか?
裏庭からロビーへ戻ると、先ほどの音が聞こえていたのか少し騒めいている。
そりゃあんな花火みたいな音がしたら誰だって気が付くか。この世界に花火があるのかは知らないが。
視線を向けられることなどそう多くは無いので上手く言い表せないが、向けられてくる視線も先ほどとは少し違うような気がする。
暫く待っているとその視線も少なくなってきたが、受付から名前を呼ばれると同時にまた視線が集まるのを感じる。が、無視して受付へと向かう。
「リウスとユキですが」
「あっ、大変長らくお待たせいたしました。ギルドへの登録と、ギルドカードの発行が終了いたしました。こちらがギルドカードとなります」
渡されたカードは銅で出来た銅板だった。どちらが裏なのか表なのか分からない。剣の形の刻印があるが、それ以外は何も書かれていない唯の銅板。
ユキも同じものを受け取る。
「これがギルドカード?」
何も書かれていない事に疑問を覚えたのかユキが尋ねる。
「はい。使用者の魔力によって文字が浮かび上がる仕組みです。試しに魔力を流してみて下さい」
俺は先ほど魔法を使った為か、難なく魔力操作を行えるようになった。
魔力をギルドカードへ流すと、突然文字が浮かび上がる。
ユキも最初は苦戦していたが、少しコツを教えると、難なくこなす事が出来た。
「そのカードは最初に流された魔力にしか反応しないように出来ているので、他人のカードを使うことは出来ません」
試しにユキとカードを交換してみるが、魔力を流しても文字が浮かび上がる事はなかった。
ハイテクなのかローテクなのか……。
ん? ローテクってこういう意味で使うものではなかった気が……まあ良いか。
「その為紛失されても悪用される心配はありませんが、もし紛失された場合は速やかにギルドへ報告して下さい」
「分かりました」
「それではこれにて説明を終わらせて頂きます。このまま依頼をお受けになりますか?」
そこで、この町についてすぐ調べなければならなかった事を一つ思い出す。
どうせならここで気になる事を聞いてしまおう。
「ええ、依頼は受けるつもりなのですがその前にもう一つだけ宜しいですか?」
聞くのはこの世界のお金のこと。
ゲーム内のお金が使えるかどうかは重要な問題だ。
使えないのであれば、文字通り一文無しなのだから。
ゲームで使っていたお金をアイテムボックスから――ポケットに入っていた様に偽装し――取り出し、ギルド職員へ手渡す。
職員は暫くその硬貨を見つめた後、首を横に振る。
「随分前に見た本で昔の硬貨がこのような形だったと書かれていた気がしますが……残念ながら現在、この硬貨は使われておりません」
「そうですか……」
元々あまり使えるとは思っていなかったがやはり、か。
「では適当な依頼を見繕って頂けますか? 契約金が発生せず、出来れば今日中に終わるものだと良いのですが」
「であれば魔獣討伐は如何でしょうか? 討伐数によって報酬額が変動しますが、あれほどの魔法を扱えるリウス様がいれば問題無いでしょう」
「ではそれをお願いします」
「畏まりました。少々お待ちください」
職員が準備の為か受付の奥へ行き見えなくなる。
「お金……使えなかったね」
「ああ、正真正銘一文無しだな。でもまあ宿代ぐらいすぐ稼げるだろうし、もし無理でもユキ一人分ぐらいは稼いでみせるさ」
「……私はリウスのそういう所が嫌い……」
俺がユキの言葉に込められた意味を完全に理解する前に、ギルドの職員が一枚の紙を手にこちらへ戻ってくるのが見え、俺の思考はそこで中断される事となった。
設定考えるのって大変ですよね。
この回は書き終わってから大分修正入れました。
誤字など見落としがあれば指摘してくれると助かります。