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最強魔王の異世界放浪記  作者: 塩砂糖
第3章《呪われし奴隷編》
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第44話『人ではない他の何か』

救出開始

「攫われたって……どういうこと?」

「そのままだ。いきなり武装した奴らが現れて、そのうちの一人がミティアを転移魔法で連れ去った」

「じゃあ……さっきの人たちは……」

「ミティアを連れ去った男の仲間だ」


 クレーターに目を向けながら答える。武装した男達は魔法によって吹き飛び、骨の欠片すら残っていない。


「ご主人様、先ほどの魔法は……?」

「ああ、ただの火球(ファイアボール)だ。力加減を間違えたけどな」

「あれが……火球(ファイアボール)……?」


 目を見開いてクレーターを見つめるレイミア。

 レイミアが驚くのも無理はない。火球(ファイアボール)はアポカリプスでも、この世界でも最弱の炎魔術だ。

 火球(ファイアボール)は、魔術を覚えたての魔術士が最初に習う魔術であり、実戦で使う者は殆どいない。と言うのも、火球(ファイアボール)で出来る事と言えば、せいぜい相手に火傷を負わせる程度で、この魔術一つで相手の命を奪う事は難しい。尤も、熟練した魔法士、魔導士が使えばその限りではないが、それでも人一人を倒すのが限度だ。四人の人間を吹き飛ばし、地面に直径十メートルのクレーターを作れるような魔術ではない。俺のステータスの高さがあっての芸当だ。


「リウス、ミティアちゃんが今どこにいるか分かる?」


 ユキが話を戻し俺に尋ねる。ユキの声からは焦りが滲み出ていた。


「場所は分かってる。けど――俺一人で行く」

「……どうして?」

「今、ちょっとイライラしてるんだ。そんな俺を、ユキには見せたくないからさ」


 嘘だ。確かに、今の俺をユキに見て欲しくないという気持ちはあるが、それだけではない。

 俺がユキの同行を拒んだのは、ユキがいると、どこか“人らしさ”を残してしまう気がしたからだ。


「……」


 俺の答えを聞き、少し考え込むユキ。やがて、ゆっくりと口を開く。


「……わかった。リウスがそう言うなら」


 渋々、と言った様子ではあるが、ユキは頷いてくれた。


「ありがとう。必ずミティアは連れて帰るから」

「うん、お願いね」

「私からも、よろしくお願いします」


 話が纏まった後、ユキとレイミアを魔法で宿に帰す。レイミアには宿周辺を警戒しておくよう伝え、何かあれば連絡してもらう事にした。

 誰もいなくなった森の中で、俺は改めてミティアの場所を探る。


「やっぱり、あの領主の屋敷か」


 ミティアの反応は、サーバ帝国第二地区領主の屋敷にあった。


「まさか本当に保険を使う事になるとは」


 愚痴りながらも、俺は予め設置しておいたマーカーへスキルで転移した。



◇◇◇◇◇



 魔道具のランプによって照らされた薄暗い地下室。中央には手足を拘束できる寝台。壁には所狭しと拷問器具が掛けられている。

 拷問部屋と呼ぶに相応しいその部屋に、一人の男が少女を抱えて現れた。

 その男に近づく影が一つ。この拷問部屋の上に立つ館の主人であり、サーバ帝国第二地区の領主である、ダトス・ベージ・ガルバーだ。


「随分と早いじゃないか。……ん? 他の女はどうした?」

「私では一人が限界でした。残りは余裕があればレンブ様が連れて来るとの事です」

「……まあ良い。その女をそこへ寝かせろ」


 ミティアを抱えた男、カイル・ラインは言われるがままに眠らせたミティアを拘束具の寝台に乗せ、手足を固定する。


「おい。こいつは後どれぐらいで起きるんだ?」

「使ったのは即効性の睡眠薬です。持続性は無いので、数分で目を覚ますかと」

「そうか、なら良い。お前のするべき事は終わりだ。さっさとここから出て行け」


 その物言いにカイルは、この男をこの場で殺してしまおうかと一瞬考えるが、頭を振ってその思考を追い出す。

 相手は一応ここ一帯の領主だ。そんな人物を殺せば自分がどうなるかなど想像に難くない。

 不満など微塵も顔に出さず、カイルは地下拷問部屋を後にした。

 自分とミティア以外誰もいなくなった部屋で、ダトスは嬉々としてこれから行う事の準備を進めていた。

 様々な拷問器具をミティアが眠る寝台の横に並べ、何から使うかを思案する。

 準備が一通り済んだ頃、寝台の上で眠っていたミティアが目を覚ます。


「ん……ぁ……?」

「おはよう。良く眠れたかな?」


 寝起きで朧げだったミティアの意識は、聞き覚えのない声を耳にした事で鮮明になっていく。そして、自分が今どんな状況に置かれているかを理解した。


「え……なに、これ……」


 ガチャガチャと手足を動かすが、拘束具によって固定されている為、耳障りな金属音を発するだけで殆ど動かす事が出来ない。

 唯一自由な頭を動かし、周囲を確認する。

 所狭しと並べられた拷問器具。自分が寝かされている拘束具。そして、気持ちの悪い笑みを浮かべてこちらを見つめる、大きなハサミを持つ肥った男。

 それらを確認する事に顔が青ざめていくミティア。それでも、震える声を何とか振り絞り、ミティアは自分を見下ろす男へ問いかける。


「……だ、れ……?」

「俺か? 俺はお前の本当の主人(あるじ)だ」

「ほん、と……の……?」

「そうだ。元より先にお前を買ったのはこの俺だ。それをあの男が横取りしていったのだ」

「よこ、どり……」

「ああそうだ。お前が本来いるべき場所はここだ。今までの事は夢のようなものだ。忘れろ」

「ゆめ……? いままでは、ゆめ……?」

「お前には奴隷本来の使われ方をしてもらおう。まずは……そうだな。服が邪魔だな」


 そう言って、手に持つ大きなハサミで、ミティアの着るメイド服をスカートの裾の方から切り裂いていく。

 ミティアは体を動かして抵抗するが、手足を固定されていては出来る事もたかが知れている。

 服の裁断が腰の辺りまで来た、その時。


「なんだ!?」


 突如部屋に響き渡る衝撃音。背後にある地下室の出入り口にダトスが目を向けると、鉄で出来た重厚な扉が、向こう側から杭でも叩きつけられたかのように変形していた。

 直後、二度目の衝撃音と共に扉が振動する。扉に穴こそ開かなかったものの、扉を支えていた蝶番が衝撃に耐え切れず、大きな音を立てて扉が倒れた。その向こうには、一つの人影。

 倒れた扉の向こう側にいたのは、感情の込もっていない目でダトスを見つめる、一人の魔族の男だった。



◇◇◇◇◇



 転移した先はサーバ帝国第二地区領主、ダトス・ベージ・ガルバーの館前だ。


「なんだおま――」


 突然目の前に俺が現れた事に驚いたのか、門の警備にあたっていた兵が声を上げる。その衛兵の顔を右手で掴み無理矢理黙らせる。


「貴様! 何をしている!」


 門の警備にあたっていたもう一人の衛兵が剣を抜いて近付いてくる。振り下ろしてくる剣を掴み、剣の刃を握り潰す。


「なっ――」


 近付いて来た衛兵の顔を空いている左手で掴み、衛兵の頭と頭を力任せに胸の前でぶつけ合わせる。

 ゴチャっという音と共に、衛兵の頭が潰れて血と脳髄が流れ出す。


「……そうか。こいつら生きてるんだよな。潰したら当然血が出るか」


 当たり前の事に今更気付かされる。

 俺の“人らしさを保ってくれる(ユキ)”はここにはいない。今の俺にとって他人とは“人ではない他の何か”でしかないのだから。


 頭の潰れた兵士を両手に持ったまま、門を蹴破り敷地内へ入る。手に持つ死体を地面に放り捨て、水魔法で手を洗う。ふと自分の服に目を向けると、潰した兵士の血が付いているのに気がついた。

 汚れを落とそうかと思ったが、どうせまた血で濡れる予定なのだし放っておく事にする。

 早速館に入ろうかと考えていると、左右から人が近付いてくるのをスキルで捉える。どうやら、門の左右に設置されている兵の詰所から兵士が出てきたらしい。

 やけに気付かれるのが早いと思い魔眼を発動させると、この敷地一帯を結界のようなものが覆っている事に気が付く。結界の効果は『結界内に侵入した者を検知する』という簡単なものだ。となると、もう館の中にいる奴らにも俺が来たことはバレているだろう。


「貴様! 何者だ!」


 左右の詰所から出てきた兵士は合計八人。俺の足元で死んでいる兵士を見て警戒しているのか、近寄ってはこない。離れている“モノ”を一つ一つ“壊す”のも面倒なので、手っ取り早く破壊する為に適当な魔法を発動する。


 〈這い寄る者(リア・サナトス)


 魔法が発動した瞬間、八人の兵士の背後に『生ける死(ゾーオン・サナトス)』が召喚される。それらが一糸乱れぬ動作で兵士に鎌を振り下ろすと、糸が切れた人形のように八人の兵士が崩れ落ちる。


「こんなもんか。後は――」


 逃亡者、侵入者対策用の魔法も発動させる。


空間隔離(アイソレーション)


 魔法発動により、館を含む敷地一帯が見えざる壁によって覆われる。


 時空魔導〈空間隔離(アイソレーション)〉は、文字通り指定した空間を完全に隔離し、物理的にも魔法的にも侵入、撤退が出来なくなる魔法だ。

 また、この魔法を介すると一切の生物――死体も含む――が目視出来なくなる為、目撃者対策にもなる。勿論、内側から周囲を見た場合も同様なので、魔法範囲外の異常に気付けないという欠点はあるが、今は気にしなくとも良いだろう。

 アポカリプスでの本来の用途は、レベル上げやレアモンスターとの戦闘中に、他のプレイヤーからの横取りを防ぐ魔法だった。その反面、死亡した場合に救助されない――と言うより出来ない――という欠点はあったが、俺は良くこの魔法を使っていた。まさか犯罪行為を隠蔽する目的で使う事になるとは思わなかったが。


 地面に倒れ伏した兵士を尻目に館の入り口へ向かう。

 扉に鍵はかかっていなかった。館の中に入ると、そこは広々とした玄関ホールになっており、中央には二階への階段、煌びやかな装飾が施された照明や家具の数々。そして、およそ五十人程の武装した者達が武器を構え睨みを利かせていた。

 目視で確認出来るのはその程度だが、スキルで確認すると、ここにいないだけで館の至る所に待機している者がいた。全て合わせれば大体百人ぐらいだろうか。

 流石に全員の相手が出来る程時間に余裕はない。かと言って魔法で吹き飛ばす訳にもいかないので、“手を借りる”事にする。


 《最上位悪魔召喚》


 召喚するのはアポカリプス内でボスモンスターに位置する悪魔だ。

 アポカリプスにおいてボスモンスターというのは、大きく分けて四種類存在する。

 各エリア毎に存在する『エリアボス』。

 複数のエリアを内包するフロアの最深部に存在する『フロアボス』。

 パーティでの攻略を前提とした『レイドボス』。

 複数のパーティで共闘する事を前提とした『ギルドボス』。

 今回召喚する悪魔はレイドボスに該当する悪魔だ。尤も、ステータスは相応に弱体化されているが。


「ルキフェル、サタン、レヴィアタン、ベルフェゴール、マモン、ベルゼブブ、アスモデウス。手を貸してくれ」


 スキル発動により召喚される七人の悪魔。彼らは、アポカリプスで開催されたレイドボス討伐イベント『七つの大罪』に登場する、大罪を司る七人の悪魔だ。

 傲慢のルキフェル。

 憤怒のサタン。

 嫉妬のレヴィアタン。

 怠惰のベルフェゴール。

 強欲のマモン。

 暴食のベルゼブブ。

 色欲のアスモデウス。

 館の警備にあたっていた奴らの相手をさせるには、些かオーバキルが過ぎるが、手っ取り早く片付けを済ませる為だ。手が多いに越した事はないだろう。

 召喚された彼らは跪き俺に頭を垂れる。彼らを召喚するのはゲーム時代を合わせてこれで二回目だが、彼らにゲームの頃の記憶はあるのだろうか。あるのだとしたら今度話を聞くのも良さそうだ。――って、今はそんな場合じゃないか。


「ここにいる奴らを全員殺せ。言うまでもないと思うが、本来の姿にはなるな。この館を壊すのも禁止だ。いいな?」

「我が主の御心のままに」


 七人全員が声を揃えて答える。

 彼らは跪いた姿勢から立ち上がり、警備の男達を見据える。


「何だお前らは! ここが誰の――」


 そう叫んだ警備の男は言葉半ばで崩れ落ちる。


「喧しいな」


 呟いたのは誰だったか。その言葉を皮切りに、七人は行動を開始した。

 瞬く間に命を刈り取られていく男達。この程度の人数なら人の姿で力を抑えていても三十秒程度で片付くだろう。

 積み上げられていく死体の山を尻目に、地下へ続く階段へ向かう。階段を降りる前、しなければいけない事を思い出す。


「ベルゼブブ」

「はっ。ここに」


 一言呼び掛けただけでベルゼブブは近くに現れて跪く。それに少し驚きつつも、命令を下す。


「死体を片付ける事は可能か?」

「可能です」

「なら頼む。外にも死体があるからそれも片付けておいてくれ」

「畏まりました」


 そう答え、ベルゼブブは掃討に戻る。

 それを見送り、地下への階段を降りる。程なくして、一枚の鉄扉が見えてきた。それを開けようと手を伸ばすが――。


(誰かが向こうから来るな)


 少し扉から離れ、その人物が出てくるのを待つ。数秒後、ゆっくりとその扉が開かれた。


「あの領主、用が済んだら直ぐに出て行け、か。誰かあいつを殺してくれないものか」


 ぶつくさと文句を言いながら出てきたのは、ミティアを攫った男だった。


「本当頭に――っ!」


 完全に気配を消したつもりだったのだが、思ったより早く気付かれてしまった。やはりスキルに頼らない隠密はもっと練習するべきだな。


「お前――」


 話しているところ申し訳ないが、手っ取り早く処理させてもらう。

 片手で男の頭を掴んで持ち上げる。男は逃れようと必死にもがくが、生憎俺と男のステータスは大人と子供以上に離れている。いくら暴れたところで現状を打破する事は不可能だ。


「聞いたところ、お前も命令に従っていただけのようだが……まあ、運が悪かったな」

「な、にを――」


 最後まで話させず首を折って男を殺す。後で上に持っていってベルゼブブに処理してもらおう。

 男を足元に置いておき、扉の向こうに目を向ける。扉の奥には地下への階段が続いていた。ミティアの反応も同様にこの奥から発せられている。


「行くか」


 長い地下への階段に、足を踏み出した。

今年ラストの投稿となります。

来年も「最強魔王の異世界放浪記」を宜しくお願い致します!

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