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最強魔王の異世界放浪記  作者: 塩砂糖
第3章《呪われし奴隷編》
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第42話『それなら、僕が手を貸そう』

第3章も終盤です。

 とある貴族の屋敷にて、二人の男が会話を交わしていた。


「洗脳が失敗しただと?」

「はい。申し訳ありません」

「ふん。使えん奴め。貴様らにどれだけ金が掛かっているか分かっているのか?」


 文句を付けるのは背の低い太った貴族の男。文句は目の前にいる痩せた男に向けたものだが、その男は何も答えない。

 痩せた男は魔法士だった。その気になれば太った男を殺す事も容易だろう。しかし、文句を言われても尚そうしないのは、目の前の男が“依頼主”であるからだ。


「まあよい。洗脳が出来ぬのであれば無理矢理にでも攫ってくれば良かろう」

「……無理矢理ですか?」


 魔法士の男が貴族の男に依頼されたのは、一人の少女の誘拐。今は既に別の男の所有物となった奴隷少女の誘拐“だった”。

 そう。“だった”のだ。

 貴族の男は最初こそその奴隷少女の誘拐だけを依頼してきたが、その奴隷少女を買った男が他にも女を連れている事を知ると、その女達の誘拐まで依頼してきたのだ。

 魔法士の男はその依頼を達成しようとした。ただ我が儘のように言われたのならいざ知らず、誘拐人数を増やすごとに報酬を上乗せしてくれるのであれば、男に断る理由は存在しなかった。

 魔法士の男は考えた。どうすれば三人の女を同時に誘拐出来るかと。

 そして男は、魔法によって洗脳を施し、女達が自らこちらに来るよう仕向けた。

 しかし、その試みはあえなく失敗。三人中一人にしか魔法が発動しなかった挙句、発動した魔法も途中で打ち消されてしまった。

 その事を貴族の男に報告すると、今度は力尽くで攫って来いという。

 方法が無いわけではない。しかし、それを行うには自分一人では手が足りなかった。

 どうしたものかと考えていると、突然、この場に居ないはずの男の声が響き渡った。


「それなら、僕が手を貸そう」


 声のした方向には、真っ黒なローブに身を包んだ男が立っていた。

 長い髪を視界に入れなければ二十代そこらの好青年に見えるが、魔法士の男はそれが偽りである事を知っていた。

 魔法士の男が貴族の男と話をしていたのは屋敷の一室。その部屋には窓はなく、一つしかない出入り口も鍵を閉めていたのだが、黒ローブの男は音も立てずにこの部屋への侵入を果たしていた。


「なっ。……誰かと思えばレンブ殿か。困りますな。屋敷に無断で入られては」

「これは失敬。余りにも“ザル”な警備だったもので」


 その言葉に貴族の男が顔を顰める。

 それを見て黒ローブの男が笑みを浮かべる。が、直ぐにそれは消え去り、何を考えているのか分からない無表情となった。


「いやはや失礼しました。……ところで、力尽くで攫うとの事でしたが、彼だけでは荷が重いでしょう。ですので、僕も少々手を貸そうかと」

「仲介者のレンブ殿が?」

「ええ。人手も確保しておりますし、策も考えてあります」


 そう言って、黒ローブの男は魔法士の男へ目を向ける。


「その事で少々彼と相談がありまして。……よろしいですか?」

「私は構いませんが……」


 魔法士の男が答える。無意識に敬語で答えてしまうのは、黒ローブの男の事を知っていれば仕方がないというものだろう。

 その答えに満足し、部屋を出ようとする黒ローブの男に、貴族の男が声を掛ける。


「今度は成功するのだな?」

「ええ。“奴隷の少女は”手に入るでしょう」

「……待て! それは契約と――」

「当然、余裕があれば全員お持ち致しますが、出来ない可能性もあるという事です。一人は確実に手に入るのですから安い物でしょう。それに――」


 黒ローブの男はそこで一旦言葉を区切る。


「先に契約違反をしたのはあなたでしょう? 余りゴチャゴチャ言うと……殺すよ?」

「っ……」


 何も言わなくなった貴族の男から視線を外し、魔法士の男を連れて黒ローブの男は部屋を後にした。



◇◇◇◇◇



 ダンッという打撃音が辺りに響く。音の発生源には二人の女性。ユキとレイミアだ。

 俺達は今、冒険者ギルド内の訓練場に来ていた。

 ミティアが仲間に加入してから一週間。これと言ったトラブルは無かったが、ここの領主は相変わらずミティアを探しているらしく、現在は帝国全土のギルドに依頼が貼り出されているらしい。

 その為、未だミティアを元の姿で外に出してあげる事は出来ていないが、ミティア自身は大して気にしていないようで、宿の中でもそのままが多くなっていた。


 現在俺達が訓練場でしているのは、俺がフェイルムでやっていた戦闘訓練だ。

 以前は俺とレイミアだけだったのだが、ユキもやりたいと言い出したので、今は俺とユキが交代でレイミアと模擬戦をしている。

 レイミアの負担が増えてしまったのだが、その分俺が血液を提供する事になっている。

 レベル的に二人はステータスが近いので、基本的に勝率は五分五分。しかし、戦闘経験という点でレイミアが勝っている為、ややレイミアのほうが優勢だ。

 因みにミティアは邪魔にならないように俺の隣で見学している。

 先日ミティアも冒険者登録をし、ここ一週間で幾つか依頼を受けて少しずつレベルを上げているのだが、まだまだ経験、ステータス共に俺達には遠く及ばない。模擬戦が出来るのはまだまだ先になりそうだ。

 そう考えている内にもユキとレイミアの戦闘は続いていた。

 因みに、この模擬戦には幾つかのルールを設けている。


 一つ。武器の使用禁止。

 この世界はゲームのシステムを受け継いでいる部分がある。素手よりも武器を使っての攻撃の方が強いのは当然なのだが、ダメージを数値化した際、素手での攻撃と比べて武器を使っての攻撃では、素のステータスに武器の攻撃力が加算されるようになっている。

 極端な話、レベルが1の子供が俺の持つ『覇剣ディシード』を使った場合――実際には重量の関係で持つ事など不可能なのだが――大人ですら容易く殺せるようになる、という事だ。

 しかし、この訓練場はダメージが痛みに変換される造りになっている。だが、どうやらそれにも限界があるらしく、一定量を超える攻撃は変換し切れずそのまま相手に通るのだ。

 その為、武器の使用は危険と判断し、武器使用を禁止した


 二つ。攻撃魔法の使用禁止。

 素手による攻撃と魔法による攻撃。どちらが強いかは言うまでもない。

 その為、一つ目のルールと同じ理由で禁止とした。


 三つ。致命傷になり得る攻撃の禁止。

 要するに、本気を出すな。そして、目などの急所を突くな、という事だ。

 これは各々の加減に任せている。だが実際には俺が気を付けるだけで済む話だ。

 俺に致命傷を与えられる人物はいない上、ユキとレイミアは実力が拮抗している為、武器や魔法の制限がある状態ではお互いに致命傷を与えられない。

 よって、俺だけに当てはまるルールとなっている。


 基本ルールは以上の三つだ。勝敗はどちらかが負けを認めた時点で決する。


「……マスター」

「ん?」


 ユキとレイミアの模擬戦を見ていると、ミティアに声を掛けられる。


「……私も、なれる、かな」


 素手での戦闘を続けるユキとレイミアを見つめながらそう呟く。


「ああ。ただ、やっぱりレベルを上げない事にはな。少しずつ頑張って行こう」

「んっ……」


 と、そんな会話をしている内に勝敗が付いたらしい。今回はレイミアの勝ちのようだ。


「二人ともお疲れ様」

「うん〜。今回も負けちゃった」

「そうみたいだな。レイミア、今回はどうだった?」

「徐々に攻撃が的確になってきました。激しく動かれると捌き切れなくなりますね」

「ユキは敏捷特化だからな。ユキはどうだった? 大分慣れてきたか?」

「うん。自分が今どんな動きをしてるのか、大分分かるようになってきたよ」

「まあ、元々ユキは結構動けたからな」


 因みに、敏捷力のステータスはユキとレイミアでは倍以上の開きがある。それでもユキの攻撃を捌き、その上攻撃を繰り出しているレイミアは流石と言えるだろう。


 二人とも疲れたようで、俺の隣に腰を下ろして休憩を取る。

 現在この訓練場には俺達以外誰もいない。ギルドに予め伝えておけば、一定時間ではあるが貸し切りに出来るのだ。尤も、Sランク冒険者だから、という理由が強そうだが。


「あの……ご主人様」

「ん? ああ、今日も必要か?」

「はい……宜しいでしょうか?」

「いいよ。今日もありがとな」


 そう答えながら上の服を脱ぐ。

これからするのは吸血だ。勿論、俺が、ではなく、レイミアが、だが。

 俺、ユキと立て続けに模擬戦をした為、怪我をしていないとは言え、かなり体力を消耗する。

 普通に休んでいても回復はするが、やはり吸血鬼だからだろうか。血を吸った方が圧倒的に回復が早いとの事だった。その為、模擬戦のお礼も兼ねて吸血してもらっているのだ。


 上半身裸の状態で膝立ちになる。こうしなければ背丈の関係で血が吸いにくい為だ。


「あの……宜しいですか?」

「ああ、何時でも」


 レイミアの手が俺の両肩に触れ、顔が首筋に近付く。そっと口が首筋に触れて、カプッと歯が刺される。不思議と痛みは感じない。

 レイミア曰く、吸血鬼は本来夜間に動き、睡眠中の人間を襲っていたらしい。性的にではなく、物理的に。

 その際、目が覚めて抵抗されるという事が無いように、吸血行為には痛みが伴わないらしい。その後にレイミアが何か言っていた気がするが、もごもごとしていて良く聞こえなかった。


「んぁ……」


 数十秒後、牙が抜かれ、傷口付近に溢れた血液を舐めとった後、ゆっくりとレイミアの口が首筋から離れる。吸われた傷は瞬く間に塞がっていった。


「ありがとう、ございました」


 俺から離れて頭を下げるレイミア。顔を上げたレイミアの瞳は若干潤んでいて、頬は薄らと赤く染まっていた。

 ペロリと舌で唇を舐める仕草が非常に色っぽい。


「あ、ああ」


 吸血後のレイミアは妙に色っぽくていけない。容姿は十四〜十五歳にも拘らず、身に纏う雰囲気は妖艶そのものだ。実のところ、訓練場を貸し切りにしているのは、この状態のレイミアを他人に見せない為という理由もあったりする。

 そんなレイミアを視界から外して服を着る。


「さて、訓練場の貸切時間もそろそろ終わりだし、ギルドに目ぼしい依頼が無かったら宿に戻ろうと思うけど、どこか行きたい所とかあるか?」

「私は特にないけど……二人はある?」

「いえ、私は特に」

「……大丈夫」

「そうか」


 みんなの意見を聞き、訓練場を出る。

 掲示板へ向かおうと歩き始めると、ギルドの職員に呼び止められた。


「どうかしましたか?」

「皆様にお客様です」

「客?」


 俺がそう聞き返すと同時に一人の男が後ろから声を掛けてきた。


「初めまして。皆さんに用があるのは僕です」


 振り返ると、二十代ぐらいの青年が笑みを浮かべてこちらに歩いて来ていた。


「レンブ・タンクルです。よろしくお願いします」


 右手を差し出しながら名乗る彼は、髪を肩下まで伸ばし、少し汚れた白衣を着ていた。長い髪のせいで一見すると女性にも見える。身長は一六〇センチメートルぐらいで、向かい合うとそれなりに身長差を感じる。


「リウスです。こちらこそよろしく」


 握手を交わすと、彼は人当たりの良い笑みを浮かべて話を続けた。


「今日は皆さんにご指名の依頼をしたくて参りました。今からお時間よろしいですか?」


 指名の依頼と言われ一瞬戸惑うが、もともと何か依頼を探すつもりだった為、話だけでも聞いてみようという事になった。

 近くの空いている椅子に腰掛け、レンブと名乗る青年は口を開く。


「では、先程も名乗りましたが自己紹介を。僕はレンブ・タンクル。サーバ帝国第二地区で薬師をしています」


 そう言うと、レンブは白衣のポケットから一枚の紙を取り出す。

 それは『タンクル製薬所』と書かれたチラシだった。

 サッと目を通すが、ごく普通の製薬所らしく、特別目を引くものは書かれていなかった。


「それで、薬師の方が一体どんなご用で?」

「はい。実は、ポーションを作る為の薬草が無くなってしまいまして。取りに行きたいのは山々なんですが、最近その辺りを魔獣が縄張りにしてしまったようで……」

「つまり、魔獣の討伐依頼ですか?」

「はい。それと、余裕があればで良いので薬草も取ってきて頂ければと」


 聞く限りは何の変哲も無い普通の依頼だが……。


「それは構わないんですが、一つお聞きしても?」

「ええ、どうぞ」

「……何故、俺達何でしょうか?」


 依頼内容は魔獣討伐と薬草採集だ。ギルドの掲示板にも探せば似たような依頼が貼り出されている事だろう。

 だからこそ分からなかった。そんな仕事を何故俺達に“指名で”依頼するのか。

 薬草採集などの依頼は確かに人気が少ない部類に入る。しかし、魔獣の討伐依頼とセットであれば、報酬次第で受けてくれる冒険者は幾らでもいる筈だ。

 だというのに何故指名での依頼なのか。それを聞くまでは首を縦には振れなかった。


「それは……ですね……」


 レンブは少し答える事を躊躇うが、やがて決心したように顔を上げた。


「実は……僕も昔、冒険者になりたかったんです」

「……冒険者に?」

「はい。ですが、僕には剣の才能も、魔法の才能もありませんでした。ただ、錬金術だけは多少使えて。それで、薬師の道に進んだんです」


 そう答えるレンブの顔は、過去の事を思い出しているのか少し寂しそうでもあった。


「ただ、まだ冒険者って職業に憧れのようなものがあって。今思えば、薬師になったのは、少しでも冒険者の方の手助けがしたいと思ったからなのかも知れません」


 そう話すレンブの顔には、どこか昔を懐かしむような色が浮かんでいた。


「そんな時です。店に来た冒険者の方がこの街にSランク冒険者が来たって話をされていて。僕、是非一目見たくて!」

「それで、俺達の所に?」

「はい! それと、もし会えたらダメ元で依頼をしてみようかなぁと。丁度薬草も切れていたので」

「なるほど……」


 話に筋は通っている。おかしな部分もない。何か裏があるのかと疑ったのは間違いだったようだ。


「えっと……それで、依頼、受けて頂けますか……?」

「俺は構わないけど……どうだ?」


 そう言って横に座るユキと後ろに立っているレイミアとミティアに確認を取る。


「私は大丈夫だよ」

「ご主人様が決められた事でしたら、私に異論はありません」

「……大丈夫」

「じゃあ、決まりだな」

「では、受けて頂けますか……?」

「はい。その依頼、受けさせて頂きます」

「あ、ありがとうございます!」


 バサッと頭を下げ、長い髪が宙を舞う。


「そ、それでは、これ、依頼の契約書です」


 予めギルドで用意していたのか、依頼書を先程とは反対のポケットから取り出した。

 一通り目を通すが特に問題なかったので、そのまま契約書にサインする。


「これでいいか?」

「はい、ありがとうございます! ……ああ、それと!」


 何か思い出したのか、白衣をゴソゴソと探る。

 少しして、目的の物が見つかったのかそれを取り出す。

 取り出されたものは、またしても一枚の紙だった。


「これ、薬草採取ポイントの地図です。裏には薬草の絵が載っているので、良ければ参考にしてください」


 描かれていた地図はとても分かりやすく、裏の絵も薬草の特徴を捉えた分かりやすいものだったので、有難くそれを受け取る事にする。


「それでは、よろしくお願いします!」


 再び頭を下げるレンブに挨拶をして、ギルドの受付でギルドカードによる依頼受注登録を行った後、俺達はギルドを後にした。

ネット小説大賞に応募させて頂きました。

一次だけでも通ってくれることを願うばかりです。

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