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最強魔王の異世界放浪記  作者: 塩砂糖
第1章《異世界転移編》
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第2話『ユニーク職』

 彼女と出会ったのは今から七年前、俺がゲームを始めて三年が経った頃だった。



◇◇◇◇◇



「よし、アイテムの効果も切れたし今日はこれぐらいにするか」


 俺は魔人種のユニーク職に就く為、ゲーム内でも屈指のレベル上げスポットに来ていた。


 このゲームには、職業が大きく分けて5種類ある。

 ゲーム開始時に必ず就いている『最下級職』に始まり『下級職』『上級職』『最上級職』そして、ゲーム開始時に一つ選択する事になる四つの種族にそれぞれ一つずつ用意されている『ユニーク職』。

 種族は『人類種』『獣人種』『亜人種』そして『魔人種』がある。

 各種族に用意されているユニーク職は他の職業とは比べ物にならない程強力な能力を持つが故、転職条件も難しく設定されている。


 四つの種族の中、俺の選んだ魔人種は特に人気が無かった。

 理由は幾つかあるが、中でも大きな理由は『育成にかかる時間の長さ』だろう。

 魔人種は他の種族に比べて、単純なステータスが高く設定されている。

 だがそれと同時に、育成にかかる時間は他の種族より平均して二倍近く掛かるというデメリットがあった。

 尤も、そのデメリットに見合うだけの能力があれば人気も出たかもしれない。

 だがそのステータスの高さは、他の種族でも装備を整えればある程度カバーできる程度のものである上、覚えることが出来るスキルも、ステータスの高さからか補助的なものが多かった。

 その為、魔人種のキャラクターを使用しているプレイヤーは全体の十パーセントにも満たなかった。


 では何故、俺がそんな魔人種のユニーク職である『魔王』に就こうと思ったのか。

 答えは単純に『格好良い』と思ったからだ。

 ゲーム開始当時、俺の年齢は16歳。

 中学二年生では無かったが、男という生き物は幾つになっても心の何処かで『中二心』なるものを持っている訳で、『魔王』という言葉に惹かれる何かがあったんだろうと思う。


 そして俺はゲームをやるにあたって『絶対に攻略サイトなどを見ない』という縛りを常に設けていた。

 その為、アポカリプスが自分にとって初めてのMMORPGという事もあり、魔人種のデメリット、そして育成にかかる時間の長さなど諸々を全く知らない状態でゲームを始めてしまった訳だ。

 もし幾つもMMORPGを経験していたならば、途中で育成時間の長さに気がついたかも知れないが、当時の俺は、

「まあ、どれもこんなもんなのかもな」

 程度にしか思っていなかった。

 尤も、例え知っていたとしても魔人種を選んでいただろうが。


 そんなわけで今日も俺は一人せっせとレベル上げに勤しんでいた。

 経験値の取得量が増加するアイテムの効果も切れ、そろそろ街に戻ろうかと思っていたのだが……。


 ふとエリアチャットを見てみると、一人のプレイヤーが救援要請を出していた。

 救援要請とはその名の通り、自分達だけでは討伐が難しいモンスターなどと遭遇した場合、同じエリアにいるプレイヤーに救援を求めることが出来るシステムである。

 レベル上げの最中などであればスルーしていたのだが……。

 もう街に戻るだけなのだし、最後にもう一戦ぐらいして行ってもいいだろう。


 俺のレベルは現在152Lv。

 この辺りに敵となり得る相手はいない。

 

「さて、間に合うかね」


 俺は謎の正義感を胸に、救援要請のあった場所へ向かう事にした。



◇◇◇◇◇



「……ス、……ウス、リウス?」

 

 名前を呼ばれ、我に帰る。


「あ、え……?」

「ねえ……リウスだよね?」

「あ、ああ。じゃあやっぱり、ユキか?」


  『ユキ』

 恐らくアポカリプス内で最も付き合いの長いプレイヤーだ。

 また、数少ない女性プレイヤーでもある。

 まあ実際に会った事がある訳ではないので、事実がどうであったかは分からないが。

 そして俺がゲームを辞める際、最後まで引き留めてくれたのが彼女だった。


「やっぱり! よかった! ここに来てるのが私だけじゃなくて!」


 とにかく、この世界に来ているのは俺だけではないようだ。

 たとえ会ったことがなくとも、この状況下で知り合いがいるというのは心強い。

 それはどうやらユキも同じだったらしい。


「ユキはいつからここに?」

「目が覚めたのはついさっきだよ。時計が無いから分からないけど、多分1時間前ぐらいじゃないかな?」

「そうか。じゃあ俺よりも先に目が覚めたんだな」


 そこで思い出す。

 さっきメニュー画面の確認途中だったじゃないか。

 メニューを開くとそこには、【8/2 12:37】と表示されていた。

 どうやらまだ昼過ぎらしい。

 アポカリプスのサービス終了日は八月一日。

 向こうの世界とこちらの世界の時間の流れが同じかはまだ不明だが、もし仮に同じだとすれば、今日はサービス終了日の翌日という事になる。

 まあ1年経過して、などの線も無いわけではないが。

 俺がメニュー画面を操作しながらそんな事を考えていると、ユキが不思議そうにこちらを見てくる。


「何やってるの?」

「ん、ああ、メニュー画面で時間を確認していたんだ」

「え? メニュー画面使えるの?」


 俺がメニュー画面を開いた事にユキが驚いていないのは、既に使える事を知っていたからだと思っていたが、どうやら違うらしい。

 もしかして、自分のメニュー画面は他人には見えないのか?


「ああ、俺もついさっき気付いたんだ。今メニュー画面を開いてるんだけど、見えないか?」

「うん。なにも見えないよ」


 考えてもみればゲームでも他人にメニュー画面を見せる事は出来なかった。

 というより、そんな事考えた事も無かった。


「ねぇねぇ。どうやったら開けるの?」

「メニュー画面表示。とか言ってみてくれ。それか頭の中で開こうと意識すればできるぞ」


 これは今気が付いたこと。

 俺がメニュー画面を発見したのは全くの偶然だが、開くのに言葉を発する必要はないらしい。

 開こうという意思さえあれば開くことが可能なのだ。


「あ! 本当だ!」


 ユキも無事開くことが出来たようだ。

 さて、いろいろ話したい事はあるが、残念ながら今は時間がない。

 まだ時刻は昼過ぎだが、体感温度的に夏ではない事は先ず間違いないだろう。

 であれば、日が落ちるのも早いかもしれない。

 昼間でこの肌寒さだ。野宿は避けたい。

 それに、ここに長居してまたさっきにような影に襲われるのは避けたい。

 明るいうちに森を抜ける必要があるだろう。


「ユキ、話したい事は山ほどあるけど、今は時間がない。明るいうちに森を抜けよう」

「そうだね。またさっきみたいな怪物に襲われるのは嫌だし……。でも、どっちに町があるとか分かるの?」

「あー……」


 そう。ここは森の中。

 木々は殆どが枯れてしまっている為、葉が生い茂る森よりは見渡しがいいが、そんな事は関係ないほど木が多く、見晴らしは良くない。

 闇雲に歩けば間違いなく迷う。

 そんなことを考えていると、ユキから一つの疑問が出る。


「ねえ、メニューが使えるならスキルも使えないかな? リウスってマッピングに使えるスキル持ってたよね?」

「そういえばそんなスキルを持っていた気が……試してみるか」


 俺の保有スキルは全四十八個。

 それが多いか少ないかと問われれば、俺の保有スキル数はかなり多い方に入るだろう。

 その中に【空間把握】というマッピングに使うスキルがある。

 ゲーム時代は一つのエリア全てのマップと罠、隠し扉までも把握することが出来た。

 試してみる価値は大いにあるだろう。


「よし、じゃあやってみる」


 とは言ってみたものの、さてどうしたものか……。

 ――そう思った瞬間、スキルの使い方を何故か理解することが出来た。

 ゲームキャラの姿になったことで、自分の力を思うように扱えるようになっているんだろうか。


 これなら、出来る。


「【空間把握】」


 スキルを発動した瞬間、膨大な情報の波に飲まれる。


「ぅぁ……なん……だ……」

「ちょ……ス? 大丈……?」


 時間にして数秒。

 体感では何時間にも感じられた目眩と頭痛が収まると、俺は頭の中でこの森の地形を鮮明に把握出来るようになっていた。

 これは慣れる必要がありそうだな……。


「ねぇリウス? ホントに大丈夫?」

「あ、ああ……大丈夫だ。この世界でもスキルは使えるみたいだ。早速この森を抜けよう」

「ホントにもう大丈夫? 無理はしないでね?」

「ああ、行こう」


 さて、この森を抜けたら町に向かい宿を取らなければな。

 この世界の常識や情報も集めなければならないし、ゲームで使っていた金が使えないのであれば、金銭を稼ぐ手段も考えなければならないだろう。

 だがまあ、きっとなんとかなる。

 なんとなくそんな気がする。

 一人では心細かったかも知れないが、今隣にはユキがいる。

 相談し、話し合える相手がいる。

 ただそれだけで、俺はどうにかなる気がした。

 そんな思いを抱きつつ、俺達は森を抜けるため歩き出した。

不定期投稿と言いつつ毎日投稿してますがきっと長続きしないです。

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