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最強魔王の異世界放浪記  作者: 塩砂糖
第2章《眠りの吸血鬼編》
36/68

第32話『今この瞬間が夢ではないと、誰が証明してくれるんだろうな』

今回で第2章終了となります。

次回は本編ではなく、キャラクター紹介になるかと。

 ゼアル・セーレによる王都襲撃事件から3日後の夜。


 ギルドから宿に戻った翌日。

 国王直々にお呼びが掛かり、国王から直接、王都防衛の報酬だと、現在の所持金と大差無い金額を渡されたり、この王都内での俺の呼び名が『(優しい方の)魔王様』になったりしたのだが、あまり思い出したくは無いので割愛する。


 世界を見て回るつもりで始めたこの旅だが、思いの外この街に長居してしまった。

 そんな訳なので、明日の朝にでもこの街を出ようかと考えていたのだが、今日の夜、俺達宛に届いた手紙によりその予定は急遽変更となった。

 ギルドから届いた手紙には、こう書かれていた。


『魔王出現に関する事でお話がございます。

 明日、時間に余裕がある時で構いませんので、ギルドにお立ち寄りください。


 ミーア・リンダース』


 本当にミーアさんが書いたのか疑問に思う程硬い文章だったが、それ以上に驚いたのは、もう魔王出現の真偽が分かったという事だ。

 確かに分かり次第教えて欲しいとは言ったが、ここまで早いとは思っていなかった。

 正直、早くても1ヶ月程度は掛かると思っていたので、今後の行動予定をミーアさんに伝えた後、手紙か何かで連絡してもらおうと思っていたのだが、直接聞けるのならそれに越した事は無い。


 そんな訳で、明日朝一番でギルドに向かう事にしたのだ。

 尤も、馬車の手配の為にギルドには行くつもりだったのだが。


 因みに今ユキとレイミアは入浴中だ。

 既に俺は入浴を済ませているので、今日はもう特にする事が無い。

 ベットに仰向けに倒れ込み、体から力を抜く。

 目を閉じると浮かび上がるのは、ゼアル・セーレとの戦闘。

 ここ数日、俺はその事ばかり考えていた。

 思い返せば、あの戦闘で俺は初手から選択を間違えていた。

 あの戦闘で、俺はスキル《空間転移》を使用して戦っていた。


 だが、それがそもそもの間違いだった。


 あの戦闘、転移を使った戦いは、ゼアルが得意とするものだ。

 俺はあの時『相手の土俵』に上がって戦闘をしていた。

 それに対して、俺が得意とするのは、自分自身に様々なバフを掛け、敵にデバフを付与し、相手の得意とする武器を封じ、自身が得意とする土俵に『相手を引き摺り込む』戦い方だ。

 より分かりやすく言えば、駆け引きや読みが苦手だから、どうやっても自分が勝つ状態にしてから戦う。という脳筋丸出しの戦い方だ。


 あの場で俺は、空間転移を使用して戦うのでは無く、初手で『転移阻害魔法』を発動して、転移を封じておくべきだった。

 相手が転移を使用してくるのは分かりきっていた事。

 にも拘らず、俺は敵の転移を封じなかった。

 何故そうしなかったのか、理由は今でも分からないが、恐らく俺は焦っていたのでは無いかと思う。

 剣を転移で飛ばし、俺の体を貫いた攻撃。

 あれが、俺では無くユキに放たれる事を、俺は無意識の内に恐れ、冷静さを欠いていたのでは無いか。

 あの時、俺が正しい判断を下し、あの場でゼアルを殺し切る事が出来れば、敵となりうる可能性がある魔王の戦力を削る事、俺やユキ、レイミアの安全を守る事に繋がったのでは無いか。


 そんな、今更どうしようも無い後悔のようなものが、目を閉じるたびに脳裏を過る。


(単純な戦闘の経験値。レイミアとの訓練などでは得られない、予想外の出来事の際に冷静さを欠かない力。それが足りない)


 自身が脅威に晒されて初めて得られる経験。

 本来であれば、力を付ける過程で経験する筈のそれを、最初から力を持っていたが為に、俺は経験する事が出来ない。


(実力を伴わない力。素人が名刀を振るったところで、達人の木刀に勝てないのと同じように、扱い切れない力など無いのと同じだ。俺には技術が足りない。そしてそれを得る機会が少なくなってしまうこの体が、少しだけ恨めしい)


 そう。技術の無い素人は技術のある達人には敵わない。

 だがそれは、素人の方に技術など容易くねじ伏せる程の力が無い場合に限る。

 今の俺はまさしくそれだ。

 並大抵の者が幾ら技術を高めた所で、俺の圧倒的なステータスはそれを瑣末な物として薙ぎ払うだろう。

 技術とは、弱者が力で敵わない強者との差を埋める為に身に付けるもの。

 つまり、力があれば技術は必要無い。

 圧倒的な力は、それだけで脅威なのだから。

 だが、自分が圧倒的な強者であり続けられると、一体誰が保証してくれるというのか。

 自分以上の強者が現れた時、技術を磨く事を怠った者は倒されるしか無い。

 故に、達人は技を磨き続けるのだ。


 問題は、今の俺が技術を磨ける程、レベルの近しい者がいない事。そして俺に武術の心得が殆ど無い事。

 知識だけでもあれば如何にかなったかも知れないが、今更言っても仕方ない。それは無い物強請りという奴だ。


 力はあればあるだけあった方が良い。

 だが、あまりに圧倒的というのも考えものだ。

 今後は力をセーブする意味でも、あまり簡単に《外見偽装》を解除すべきではないかも知れない。


 そこまで考えていた所で、体を預けているベットが沈んだ気がした。

 目を開けると、そこにはいつの間にか風呂から上がっていたユキが。


「あ……起こしちゃった?」

「ん? いや、別に寝てた訳じゃないよ」


 体を起こしながら答える。


「……何か、考えごと?」

「え? まあ、考え事と言えばそうなんだけどな」

「何かあったら言ってね? 最近リウス、考えごと多いから」

「……そうか」


 どうやらユキにはバレていたらしい。

 本当、俺の事を良く見てくれている。


「わっ」


 なんだかそれがとても嬉しくて、何となく頭を撫でる。

 お風呂上がりのユキの髪はしっとりと濡れており、部屋の照明の光を反射させてキラキラと光っていた。


「さて、髪乾かすか」

「毎日ありがとう、リウス」

「いいよこれぐらい」


 王都に来てから、俺は毎日ユキの髪を乾かすようになっていた。

 発端は、ユキの「ドライヤーがこの世界にもあればなぁ」という発言だった。

 ユキの髪は特別長い訳ではないが、タオルだけで乾かすには少々手間が掛かるぐらいには長い。

 その為、俺が提案したのが「ドライヤーがないなら作ればいい」という、どこぞのアントワネットの様なものだった。

 と言っても、魔法でドライヤーを作るにしても、ドライヤーの作り方など知らないし、魔道具を作る心得も無い。

 それなら新たにドライヤーの様な魔法を作ろうという話になり、結果生まれたのが、炎魔術と風魔術を複合して創り出した、その名も〈温風(ドライヤー)〉だ。

 そのままだと思うかも知れないが、その為だけに創り出した魔法なのだから仕方がない。


 魔法の効果は至極単純。

 70度から100度まで自由に温度変更が可能な風を送り出す。

 唯それだけ。


 温度調節がドライヤーより容易。

 風の強さの調節も可能。

 使用に際して音が鳴らないなど、良い事尽くめだが、欠点としては、発動に最低でも炎魔術と風魔術が扱えなければいけない為、現状俺にしか使えないと言ったところだろうか。

 まあ、俺が好きで始めた事なので嫌ではない。


「じゃ、いくぞ」

「うん」


 因みに、今ではユキだけでなくレイミアもこの魔法のお世話になっている。

 初めてこの魔法を目にした時のレイミアの顔は、今も忘れられない。

 そして同時に自分には使えない事を悔やんでいた。


 最近は料理も出来るようになってきたし、レイミアのメイド化が進んでいる様な気がする。

 服装は相変わらずゴスロリなので、端から見れば俺とユキの方が従者に見えてしまうかも知れないが。


 と、そんな事を考えている間にユキの髪は乾き切ったようだ。

 そこへタイミング良く、レイミアが部屋へ入ってくる。


「ご主人様、私もお願いしてよろしいですか?」

「ああ、もちろん」



 ◇◇◇◇◇



 白。

 目覚めた瞬間に目に入った色はそれだった。

 目覚めたばかりだからか、未だ上手く状況が飲み込めないが、自分は今横になっているという事を、体に掛かる重力の負荷の感触で確認する。


 ぼんやりとした頭で辺りを見回すと、白い壁が目に入る。必要最低限の物しかない殺風景な部屋だ。

 右には小さなテーブルと丸椅子。

 テーブルの上には何の種類か分からないが、一輪の白い花が飾られていた。

 左には、大きな窓があった。

 多少雲はあるが、外の天気は晴天。小さな鳥――距離があるから小さく見えるだけかも知れないが――が何羽か空を羽ばたいているのが見える。

 その奥には幾つかのビルも建っている。

 頭を更に部屋の左へ向けると、ほぼ頭の真横の位置に見慣れた機械があった。

 見慣れたと言っても、実際に見たのは初めてだ。

 フィクションの映像作品中に良く登場するそれは、ぱっと見、パソコンのように見えるかも知れない。

 だがその画面に映し出されているのは、特定のリズムで波打つ緑色の線。そして、それと同じリズムでピッピッという音も聞こえてくる。

 その横には、よく分からない数字の羅列も。

 寝起きの意識が徐々に鮮明になっていくにつれ、鼓動が早まって行くのを感じる。

 息も自然と荒くなって行く。

 無意識の内に手は震え、視界はチラつき、耳鳴りも聞こえ始めた。

 そんな中、左手はゆっくりと左脚に伸びて行く。

 左脚の太ももに手が触れ、そこにしっかりと足があるのを確認した後、左脚を曲げる。

 次に、右手が右脚へと伸びていく。

 そこに右脚は存在した。

 左脚と同じように曲げようとするが、足首から下に全く力が入らなかった。

 それにより、心臓の鼓動が更に早まる。

 額には冷や汗が浮かび、息はこれまでに無いほど荒くなっている。

 体の上に掛けられている掛け布団を跳ね除け、体を起こそうとした瞬間――。



 ◇◇◇◇◇



「っ! はぁ……はぁ……夢、か……」


 今、目の前に広がるのは、最早目新しさの欠片も無くなった宿の寝室。

 右にはユキ、左にはレイミアがスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。


「久々だな……この感じ……」


 未だにバクバクと音を立てる心臓を、深呼吸によって落ち着かせる。

 額は汗でびっしょりになっており、汗を吸ったであろう服は、触れると冷たさを感じる。

 メニュー画面で時刻を確認すると、そこには『4:22』と表示されていた。

 外もまだ薄暗く、朝日と言えるものは確認出来ない。


「起きるにはまだ少し早いか……」


 隣に眠るユキとレイミアに目を向ける。

 そして、眠る2人の頭を優しく撫でる。


「今この瞬間が夢ではないと、誰が証明してくれるんだろうな……」


 その呟きを聞いた者は、誰もいなかった。



 ◇◇◇◇◇



 朝。朝食を済ませてから冒険者ギルドへ向かう。

 ミーアさんの姿は直ぐに見つける事が出来た。

 受付へ向かい、声を掛けると、そのまま応接室へと通された。


「いきなり呼び出してごめんね」

「いや、教えて欲しかったのは俺達もだからさ。それに、どちらにせよギルドには来るつもりだったから」

「そうなの?」

「ああ、そろそろ王都を出発しようかなってさ」

「そっか。旅の最中だったんだよね」

「まあ、始まったばかりだけどな」


 まさかこの王都で仲間が1人増えるとは思わなかったが。


「って、そんな事より、魔王だよ」

「え?」


 ジッと俺を見る。


「いや俺じゃなくて。本物の方だよ」

「分かってる。冗談だよ」


 笑いながら答えるミーアさん。

 サラッとからかってくるようになりましたね貴女。


「結論から言うと――魔王は本物だよ」

「つまり、勇者召喚の術式が発動出来たって事か?」

「うん。もう勇者は召喚されたみたい」

「随分早いな。勇者は1人か?」

「ううん。4人って聞いてるよ」


 4人の勇者ね。

 ……RPGにしか聞こえんな。


「勇者っていうのは複数人召喚出来るものなのか?」

「可能だけど、その分召喚に必要な魔力が増えたり、一人一人の能力が低くなったり、っていうのはあるみたい」

「……能力が低くなる?」

「うん。多分複数人召喚した代償みたいなものじゃないかな」

「なるほど」


 まあ確かに、1人召喚するのと4人召喚するので、勇者の能力が同じだったらおかしいか。

 それでは1人だけ召喚するメリットが無い。


「で、その勇者が召喚されたのって何処なんだ?」

「アイシア大陸のアギア聖王国って国で召喚されたみたい。過去に勇者が召喚された時もこの国に召喚されたんだって」

「そうなのか」


 アイシア大陸って言うと、確かこの大陸の横にある大陸だったか。

 いずれ行ってみたいが、勇者は……まあ、如何(どう)でも良いか。

 俺としては、新たに現れた魔王も、それを倒すべく召喚された勇者も関係無い。

 勝手に戦ってもらい、万が一勇者が敗れたその時は、戦うか考えよう。


「ありがとう。まさかこんなに早く分かるとは思ってなかった」

「私もギルドがこんなに早く召喚に踏み切るなんて思わなかったよ。それだけ魔王は脅威として認識されてるって事だね」

「なるほどな」


 ミーアさんが言うには魔法は効かず、物理攻撃も効きにくいとの事だ。

 俺が言えた事では無いが、かなりの脅威だろう。

 尤も、何かしら弱点はあると思うが、そんな事は知りようもない。


「――さて、じゃあ俺達はそろそろ行こうかな」

「……え? 王都を出発って、もしかして今日だったの!?」

「あ、ああ。実はもう宿のチェックアウトも済ませてる」

「そうなんだ……淋しくなるね」

「いや、別にもう会えなくなる訳じゃないって」

「また必ず来るよ。ミーアさん」

「……そうだね。会えなくなるわけじゃないね。――それじゃあ、馬車の手配とかしよっか?」

「ああ。お願いするよ」

「何処に向かうとか、もう決まってる?」

「取り敢えず、サーバ帝国に向かおうかなと」


 俺のその答えを聞くと、少しミーアさんの表情が曇る。


「どうかしたのか?」

「ううん。今サーバ帝国って隣のラトス王国と睨み合いが続いて、結構ピリピリしてるから」

「戦争するかも知れないって事か?」

「うん。いつ始まってもおかしくないとは言われてるけど、ここ数年はずっと睨み合いが続いてるから、多分大丈夫だと思うよ」

「そうか」

「それに、リウス達が戦争程度で死ぬとは思えないしね」

「そ、そうか……」


 “戦争程度”ですか。

 貴女の感覚も大分麻痺してるみたいですね。

 まあ、確かにその通りなので訂正するつもりも無いが。


「じゃあ、馬車の手配をするから、受付に来てくれる?」



 ◇◇◇◇◇



「それじゃあ、またね」

「今まで本当にありがとな」

「ありがとう。ミーアさん」

「ありがとうございました」


 俺達は今、ミーアさんに馬車を手配してもらい、馬車乗り場まで来ていた。

 用意して貰った馬車は、以前ミュエさんに用意して貰った物と同じ形の箱馬車だ。

 サーバ帝国までは馬車で3日ほど掛かるらしく、馬車を引く馬もかなり屈強な体格をしている。思いの外近いというのが正直な感想だが、王都がフェイルムの端っこにあるからだろう。

 正直に言えば馬車に乗るより、走った方が明らかに早く、1日も掛からずにサーバ帝国に着くだろうが、俺達だって生き物――レイミアは微妙だが――だ。

 何時間も走れば疲れる上目立つので、馬車を選択したという事だ。

 まあ、何日も馬車に揺られるのと全力で走るので、何方(どちら)が疲れるのかと問われれば微妙な所だが。


「3人がこの王都にいてくれて本当に良かったよ。じゃなきゃ今頃ここに街は無かったかも知れないし」

「いやまあ、あれは俺達がいなければ起こる事も無かった気がするが……」


 何せ、ゼアルの目的レイミアでしたからね。

 いや、どちらにせよ早いか遅いかの差だったのかもな。


「とにかく、王都ではミーアさんがいてくれて本当に助かった。また、いずれ」

「うん。――その時は仲間が10人ぐらいに増えていたりしてね」

「流石にそれは……ないだろ」


 ない……よな?

 ……なんか心配になってきたぞ。


 少し未来への心配をしつつ馬車に乗り込む。

 俺の隣にユキが座り、向かいにレイミアが座る。


「それじゃあ、またな」

「うん。気をつけてね」

「じゃあね、ミーアさん」

「またね。ユキちゃん」


 レイミアも馬車の中から頭を下げる。


「旦那、馬車出してもいいですかい?」

「はい。お願いします」


 ゆっくりと馬車が動き始める。

 徐々に離れて行くミーアさんは、こちらの姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。

 王都の門を潜り、目指すはサーバ帝国。

 今度こそ何も問題が起きず、気ままに旅が出来る事を願い、ゆっくりと動く馬車の振動に身を任せる事にした。



 ◇◇◇◇◇



「へぇ、取り敢えず馬鹿では無かったみたいだね」


 瞳に映るのは、凡そ3000もの魔物魔獣を従えて王都に向かう魔族の男。


「相手の実力が不明であれば偵察に向かわせるのが基本。――って、これは彼が考えた訳じゃなかったか」


 何処か満足そうな表情で、赤い外套の男は言葉を洩らす。


「それにしても、あのゼアルとかいう悪魔の男。なかなか面白い能力を持ってるじゃないか」


 場面は切り替わり、スクリーンに映るのは、剣に胸を貫かれ(うずくま)る男。

 しかし、その男が胸に刺さる剣を抜くと、瞬く間に傷が塞がっていく。


「彼の方は攻撃だけでなく回復力も異常か」


 そう言って少し思案顔になる。


「まぁ、今更考えても仕方ないか」


 そう呟き、空中に投影されているスクリーンを消す。


「さて、次はどう動くのかな。魔王サマ」

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