第31話『心臓を潰されたぐらい』
章毎で括る事にしました。
単純に管理しやすくする為にしただけなので、あまりお気になさらず。
冒険者達の元へ、歩みを進める。
当然だが、全員此方を見つめていた。
……さっきのあれ、全員に見られてたんですよね。
急に羞恥が込み上げてくるが、何とかそれを押し込める。
「お疲れ様、リウス」
「ああ。悪いな、わざわざ来て貰ったのに」
「勝手に来ただけだから、気にしないで」
笑顔でそう返してくれるミーアさん。
「ところで……その、レイミアちゃんの事なんだけど……」
「分かってる。説明するよ」
手招きでレイミアを隣へ呼ぶ。
「先ず、あの男が言っていたことは全部本当だ。レイミアが魔王の部下だった事も、吸血鬼だって事も――レイミア、ここ一帯にある血を全て吸収しろ」
「畏まりました」
約3000体の魔獣魔物から流れ出た血液がレイミアの元へ集結し、消えていく。
……これで、残機3000も増えるんですよね。もう俺より強いんじゃないですかね。
「まあ、こんな事も出来る」
「凄いね……。それじゃあ、レイミアちゃんって……今いくつ?」
「今年で、96歳ですけど……」
「96⁉︎ それでその肌にその容姿……。ちょっと羨ましいかも……」
ガクッと膝をつくミーアさん。
……あれ? なんか俺が予想してた反応と違うんですけど。
「――それじゃあ、王都に戻ろっか。魔物はいなくなっても、街の混乱は――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「……? どうしたの?」
「あ、いや、俺が想像してた反応と大分違ったからさ……」
てっきり色々問い詰められるものだと思っていたんですが。
「もしかして、もっと色んな事を聞かれると思ってた?」
「ああ、まあ……」
「そっか。なら、はっきり言っておくね。――冒険者って魔物や魔獣の討伐から子供の遊び相手まで、依頼であれば基本的に何でもやる仕事なんだ。だから冒険者の中にも戦闘が得意な人がいれば、回復なんかのサポートが得意な人もいる。種族も人間だけじゃなく、ユキちゃんみたいに獣人の人もいるし、リウスみたいに魔族の人もいる。だから冒険者ギルドって、種族の違いや文化の違いに寛容なんだ」
立て続けに喋り疲れたのか、そこで一旦言葉を区切る。
「だから、レイミアちゃんが吸血鬼であろうと、元々魔王の部下だった事も、一切問題無いってこと!」
まあ、レイミアちゃんが魔王だったら話は別だったけどね、と付け加えるミーアさん。
周囲の冒険者達からも「むしろ人間じゃなくてホッとした」なんて声も聞こえてくる。
見た目は怖いが、本当に良い人達だ。
……何というか、それを日本の企業にも伝えて欲しい。
「なんか……ありがとな」
「いえいえ〜。でも、レイミアちゃんが吸血鬼って事は、あまり言わない方が良いかもね。他種族ってだけで毛嫌いする人達もいるから」
「そうだな。そうするよ」
ミーアさんからの忠告を有り難く受け取る。
「じゃあ、早く街に戻らないと。魔物の脅威が去った事も伝えなくちゃいけないしね」
「そうだな。――というか『も』って事は他にも?」
「うん。……魔王が本当にまた現れたのか、調べないといけないからね」
◇◇◇◇◇
王都襲撃から数時間後。
王都の混乱もある程度収まり、冒険者としてする事が無くなった俺達は、冒険者ギルドの様子を見に来ていた。
依然としてギルドは騒がしく、職員の人達は忙しなく動き回っていた。
「何か手伝える事って言っても、俺達はギルド職員じゃないからなぁ」
いくら人外のステータスを持っていても、全く知らない仕事なんか出来やしない。それが事務作業であるなら尚更だ。
少しミーアさんに聞きたい事もあったんだが、今は無理そうだな。
「取り敢えず、今日は宿に戻るか」
「そうだね――って、ミーアさん来たよ?」
「え?」
振り返ると駆け足で――疲労でクタクタなのが見ただけで分かるが――こちらに向かって来る。
「お、お疲れ様」
「うん……ありがとー……。ちょっと、時間良いかな……?」
「あ、ああ、大丈夫だ……」
大変なんだな……ギルドの職員も。
お疲れ気味のミーアさんに連れて来られたのは、毎度お馴染み応接室。
「それで、何でまた俺達を?」
「実は、ちょっと確認したい事があってね」
仕事モードに入ったのか、先程とは打って変わって真剣な表情になるミーアさん。
「確認したい事って?」
「魔物襲撃の時に現れた魔族の男『ゼアル・セーレ』についてなんだけど」
まあタイミング的に今日の事件関連だとは予想していたが――。
「確認したいと言われても、俺とユキは初対面だったからな」
「私がお答えします」
「ありがとう。まず、ゼアルって男は本当に魔王の部下だったの?」
「はい。以前も参謀として魔王の元で働いていました」
「どんな性格か、って分かるかな?」
「基本的には温厚ですけど、それは身内にだけですね。敵に対しては容赦ありません」
「それは、味方だったレイミアちゃんだったとしても?」
「今の私は彼にとって敵ですからね。今回はご主人様がいたので私を狙う事はありませんでしたが、もしご主人様を殺す事が叶っていれば、次は私だったと思います」
「……そうなった時、レイミアちゃんは勝てる?」
「……負ける事は無いと思います。ですが、勝つ事も難しいかと」
「そう……」
そこでミーアさんは視線を俺に移す。
「リウスは、実際に戦ってみてどうだった?」
「そうだな……。単純に殴り合ったら俺が勝つ。多分、目隠しをしてでも勝てると思う」
これは、別に自分の力に慢心しているわけでは無い。
だが、単純な力。技術などを抜きにした力であれば、俺はゼアルに負けないだろう。
負ける事が出来ないと言い換えても良い。
それ程までに、俺とゼアルと名乗っていた男の間には力の差がある。
だが――。
「だけど、あいつには何か切り札のような物があるように、俺は感じた」
ゼアルが転移で逃走しようとした瞬間。
俺の持つ《危険察知》のスキルが最大限の警告を発し、俺は“この世界に来て初めて”死ぬと思った。
……そういえば、ゼアルが初手で俺に剣を突き刺した時、《危険察知》は反応しなかった。
今の俺は“心臓を潰されたぐらい”では死なない。
このスキルはその事を知っていた。
故に、警告を出さなかった。
そんな、心臓を貫かれる事を危険としないこのスキルが、最大限の警告を発する程の能力とは何なのか。
「その切り札が何かは分からない。けど、たぶんそれは俺すらも殺せるんだと思う」
「リウスを……?」
「ご主人様すら……」
「リウスを殺せる……か……」
ユキ、レイミア、ミーアさんがそれぞれの感想を漏らす。
「けど、あいつはそれを逃走に使った。最初から俺を殺す気だったのにも拘らず。発動に制限があるか、特定の条件じゃ無ければ使えないのかは分からないけど、多分攻撃に使うものじゃない。どちらかといえば、その能力が持つ副産物としての物なんじゃないかと、俺は思う」
もし、それが攻撃に使う能力であったのならば、魔物を使って王都を襲撃するなんて回りくどい方法は取らず、最初からそれを使えば済む話だ。
尤も、魔物を使う事に意味があったのかも知れないが、そんな事は知りようもない。
――いや、それ以前に、何故レイミアがこの王都に居ると分かっていながら、魔物に襲わせるなんて回りくどい事をした?
ゼアルにも角があるとはいえ、見た目はただの青年だ。街を歩いていたとしても不自然ではない。
……まて。何故ゼアルはここにレイミアが居ると知っていた? レイミアの話によれば、先代の魔王が部下を逃した場所はバラバラだと言っていた。
それなのに何故、ゼアルはここにレイミアが居ると分かったのだろうか。
……魔法か? 対象の位置を調べるような魔法? それとも俺が持つスキルのような、対象をマークし追跡するようなものか?
もし仮にその様なスキル、乃至は魔法があったとして、何故自ら出向かなかった?
そもそも今日襲撃があった時間帯に俺達は王都には居なかった。
にも拘らず、ゼアルは王都を襲った。
…………大まかな位置は分かっても、詳細な位置までは分からない?
だとするならば、ゼアルが俺すら殺せる程の能力を持つ魔法やスキルを初手で使わなかったのは、レイミアを巻き込む可能性があったからか?
だが、レイミアは死んだとしても生き返る事が可能なスキルを所持している。
そのスキルの存在を知らなかった......?
「レイミア、魔王の配下だった者達は、お互いのスキルや能力を把握してるのか?」
「いえ、殆ど知りません。私もゼアルの能力については、転移が使える事、そして魔力の感知能力に優れている程度しか知りません。それはゼアルも同様だと思います」
「なるほどな……」
ならば、ゼアルが高い威力を持つ『何か』を使わなかったのは、その能力が攻撃に使えないからではなく、レイミアを巻き込む可能性があったから使えなかった、という可能性も出てきた。
だがそれを俺に対して使わなかった事を考慮すると、攻撃用の能力だったとしても、発動には何らかの制限があると見るべきか……。
となると、逃走に使った能力とは別に、攻撃に使える能力もある可能性が……。
――って、このままだとまた最初に逆戻りだな。これ以上は分からないか……。
「ごめん。さっきの訂正だ。ゼアルの能力は攻撃にも使えるものがあるかも知れない。ただあったとしても、発動には何かしらの制限があるものだと思う。それと、ゼアルは対象の位置を調べる魔法かスキルを持っていると思う。じゃなきゃレイミアが王都に居ると分からないからな。ただ、精度は悪く、大雑把な位置しか分からないものじゃないかと――って、どうした?」
自分の考えを話していると、3人は何故か俺の方を凝視していた。
別にそれ自体は構わないのだが、相槌の一つも打ってくれないと、おかしな事を言ってるのではないかと不安になってくる。
「なんか俺、変な事言ってたか……?」
「……そうじゃなくて、何か思った事があれば知りたいなぁ、ぐらいの気持ちで聞いたから、まさかそんなにしっかり答えてくれるとは思わなくて。……リウスって結構、頭良い?」
「いや……これは頭良いとか関係ないと思うけど……」
取り敢えず、変な事を言っていた訳では無さそうだ。
それから約十数分。
ゼアルに関する話が一通り終わった後、俺は当初から疑問に思っていた事をミーアさんに尋ねる。
「ところでさ、ずっと聞きたかった事があるんだけど」
「ん? 何か気になる事あった?」
「ああ。街に戻る前にさ、ミーアさん『魔王が本当にまた現れたのか、調べないといけないからね』って言ってただろ?」
「うん。そうだね」
「それ聞いて気になったんだが、魔王がいるかどうか調べる方法があるのか?」
「ああ、そのことね」
知らないのも無理はないといった表情で、ミーアさんは順々に説明してくれた。
「リウスは、昔魔王と勇者がいた事は知ってるよね? 付け加えると、そのどちらも今は存在しない事を」
「ああ、アレインさんから聞いた」
「それを聞いた時、思わなかった? 『何で今勇者は存在しないんだろう』って」
その質問に俺は頷きで返す。
「それは思った。魔王がいなくなったからと言って、魔物や魔獣の脅威が無くなったわけじゃない。なのに何故、今勇者は存在しないのかって」
「実は、それにはちゃんと理由があるんだ」
「理由?」
言葉を続ける前に、一回姿勢を正すミーアさん。
「うん。リウスは、勇者が“異世界人”だって事は知ってる?」
「いや……初耳だ」
「じゃあ、そこから説明するね。勇者っていうのは、古くから伝わる『召喚魔法』によって召喚された人を指すんだ」
「召喚魔法?」
「うん。異世界から勇者を召喚する光魔導だよ」
この世界には異世界から人を召喚する召喚魔法が存在するのか。
では、俺達も何者かに召喚された……?
いや、それは無いか。もし仮に召喚されたのだとして、俺が目覚めた時に周囲に誰もいなかったのはおかしい上、リウスの姿になっていた説明が付かない。
それに、例え召喚されたのだとしても、俺はその召喚者の言いなりにはならなかっただろう。
「勇者を召喚する魔法があるのは分かった。ただそれと今勇者が存在しないのに何か関係があるのか?」
「うん。実は、勇者の召喚魔法って、何故か魔王が存在しないと発動出来ないんだ」
「魔王がいないと、発動出来ない?」
「うん。魔王がいないと発動出来ないように出来てる上に、1度発動すると、勇者が居なくならないと再発動も出来なくなってるんだ」
「何故そんな面倒な効果に……」
「記録が無いほど昔から伝わってるものだからね。今までも術式の改良を何度も試したみたいだけど、どれも失敗だったって。だから勇者は魔王が現れてからじゃないと召喚出来ないし、複数回に分けて大量に召喚する事も出来ないんだ」
大体分かったが、それを聞くともっと根本的な疑問が浮かぶ。
「そもそもさ、魔王とか勇者ってなんなんだ? 魔王が現れれば勇者が召喚出来るって言ってたが、その魔王が現れるってのはつまりどういうことなんだ? 誰かが魔王って名乗ればそれで良いのか?」
「ううん。過去にも魔王だって名乗った人はいたらしいけど、その時には勇者の召喚は出来なかったみたい。何か基準があるんだろうけど、それはまだ分かってないんだ。だから今回も、術式の発動が出来るかで判断するって感じだね」
「なるほど。魔王については分かったんだが、じゃあ勇者っていうのはなんなんだ? 魔王を倒すのは別に冒険者でも問題無いんじゃないか?」
俺のその疑問をミーアさんは首を横に振って否定する。
「これも何故だか分かってないんだけど、魔王には勇者以外が使う魔法が一切効かないんだ。物理的な攻撃も通常より効きにくいみたい」
「そうなのか……」
何かしらのスキルの効果と見るべきか、それともアビリティ? 称号って線もあるか……。
何にせよ、魔法が効かないってのは厄介だな。
自分のスキルを棚に上げてそんな事を考えていたが、現状何も思考を広げる事が出来ないので、それを一旦頭の引き出しに仕舞っておく。
何にせよ、もし今回の魔王が本物だったとしても、それを倒すのは勇者の役目だ。
俺には関係無い――が、ゼアルに関しては警戒しておかなければな。
「ありがとう。取り敢えず大体の疑問は解消されたよ」
「ううん。こちらこそありがとね。魔王出現の真偽が分かったらその時は教えるね」
「まあ、先代魔王の部下だったゼアルが出てきた事を考えるに、かなり可能性は高いだろうけどな。その時は、よろしく頼む」
「それじゃあまたね。ミーアさん」
「ありがとうございました」
「こちらこそ、本当にありがとう。3人が王都にいてくれて良かったよ」
深く頭を下げるミーアさんを見て、そういえば今日は王都壊滅の危機迫っていたのかと思い出す。
金銭感覚も含めて感覚がおかしくなってきている。
そういえば今回は報酬は無いのだろうか、なんて事を頭の片隅で思ったりもしたのだが、お金には困っていないので『まあいいか』と思考を打ち消し、
「どういたしまして」
そう返して、俺達はギルドを後にした。
次回、第2章完結。




