第30話『魔族にも拘らず人間の姿をしている』
今回で30話ですね。(部数的には34ですが)
あと少しって所からが長いんですよね。
ギリギリで粘るのは20%を切ったスマホの充電だけで十分です。
「レイミア、知ってるのか?」
「久し振りですねレイミア。81年振りですか?」
81年前? それって確か、魔王が討伐された年じゃ……。
「これはこれは冒険者の皆様。初めまして。私、ゼアル・セーレと申します。魔王様の元にて、参謀を務めさせて頂いております」
そう言葉を発するのは、見た目二十歳前半の青年。
丁寧な言葉遣いと皺一つないスーツ姿が相まって、『温厚そうな青年』と言った印象をこの場にいる全員に与えた。
その場にいる誰もが状況を飲み込めていない中、援軍として来た冒険者の1人が前に出て声を上げる。
「魔王? あんた何言ってんだ? 魔王は勇者に殺されただろ?」
「その通りです。先代魔王はお亡くなりになられました。ですが――」
「――あんたも分かってんなら、何でそんなワケの分からな――」
「――話は最後まで聞け」
そう言ってスーツの男が手を横に払った瞬間、冒険者の男の首が弾け飛ぶ。
「全くこれだから人間は……。人が話をしている間ぐらい黙れないのか」
パンパンと手を払いながら苛立たし気に言葉を吐き捨てる。
「聞け人間共。魔王様は復活――いや、新たに誕生なされた。私は配下のゼアルだ。今日はそこの吸血鬼、レイミア・クローフィを迎えに来た」
男の発言に周囲が騒めき始める。
皆の視線はレイミアに集まっていた。
「元魔王配下であるレイミア・クローフィ。貴女の“力”が必要です。私と共に来なさい」
その発言に、より一層騒めきが大きくなる。
「レイミアちゃんが……元魔王の、配下……?」
ミーアさんが信じられないといった様子で言葉を漏らす。
まさかこんな形で周囲に明かされる事になるとは……。
だが、今はそれを説明している暇はない。
背中に下げた大剣を抜き、戦闘準備に入る。
「り、リウス、レイミアちゃんが魔王の部下って……」
「ミーアさん。今はそれを説明している暇は無いです。目の前のあいつを如何にかしないと」
《敵情報解析》で相手の情報を覗かせてもらう。
【名前:ゼアル・セーレ(264)】
【レベル:177】
【性別:男】
【種族:上位悪魔】
【職業:呪術士】
【称号:空間の支配者】
流石に魔王直属の部下と言うだけありレベルが高い。
その上、称号も持っている。効果は分からないが気を付けた方が良いかも知れない。
恐らく魔物達をけしかけたのはこいつだろう。
そして、王都に魔法を放ったのも。
それにしても凄い年齢だな。見た目は青年にしか見えないのだが……。
この世界は見た目と実年齢が一致しない事が多い。
「おやおや。穏やかじゃ無いですね」
「初手で街中に攻撃魔法を放った奴に言われたくは無いな」
「仰る通りで。ですが今貴方方と争う気はありません。レイミアだけ連れて帰る事が出来れば良いので」
「悪いがそれは出来ない相談だ。レイミアはもう俺達の仲間なんでね」
「……何?」
レイミアに視線を向ける。
レイミアは唯真っ直ぐにゼアルを見つめていた。
俺個人としてはレイミアを引き渡すつもりなど無いのだが、レイミアが魔王に付く事を望むのならば……俺は、その意思を尊重するべきなんだろうな。
「レイミア、どうする? 魔王の所へ戻るか? 俺は、レイミアの意見を尊重する」
「……ゼアル。魔王が再び現れたというのは本当ですか?」
「ええ、勿論。で無ければ、わざわざこの様な場所まで来ませんよ」
「そうですか……」
レイミアはそこで一旦言葉を区切る。
返答次第では、レイミアとはここで別れる事になるだろう。
――その時は、《主従契約》も解除しなければな……。
「……ですが、今私が仕えているのは魔王では無く、リウス様です。それを変えるつもりはありません」
だが、レイミアの返答は迷いが無く、俺個人としては非常に嬉しいものだった。
ユキも少しホッとした様な表情を浮かべている。
それに対してのゼアルの返答は、あまりに意外で、俺の予想を超えていた。
「……そうですか。――ではそちらの、リウス、と言いましたか。貴方もご一緒にどうです?」
「……は?」
「ですから、貴方も一緒に、と申し上げたんですよ。何故“魔族にも拘らず人間の姿をしている”のかは知りませんが、多少なりとも生き辛さを感じているのならば、どうです?」
俺が人間じゃないとバレてる?
『ゼアルは魔力の探知能力に優れています。恐らく、魔族特有の魔力パターンを感じ取ったんだと思います』
そんな事が可能なのか……。
「……いつ気付いたんだ?」
「貴方を一目見た時から。そして、貴方が強力な力を持っている事も」
「全部筒抜けって訳か」
「私個人としては、現状、貴方とも敵対したく無いのですがね」
「悪いが魔王の配下になるつもりはない。お帰り願おうか」
「そうですか。そうですか。……ですが、魔王様の配下にならないのであれば、私としても今後障害となり得る貴方方を放置する事は出来ないんですよ」
言い終わると同時に、何処からともなく“剣”を取り出すゼアル。
「っ! ご主人様!」
レイミアが叫ぶと同時に、ゼアルの手から剣が消える。
そして、その剣は――俺の心臓を貫く様にして、体に突き刺さっていた。
「え……?」
何が起こったかを認識するのに一瞬の時間を要する。
その後、これまでに体験した事の無い痛みを感じ、思わず膝をつく。
「がっ……」
「リウス⁉︎」
「ご主人様!」
「ほう。即死の呪いを付与した武器だったのですが、まだ生きていますか」
胸を貫かれた影響か、肺に入り込んだ血液が喉を駆け上がり、口から溢れ出す。
それでも何とか痛みを耐えつつ立ち上がり、手で口を拭い、少し震える手で胸に刺さった剣を抜く。
傷は数秒で癒えたが、感じた痛みは中々消えてはくれなかった。
「リウス! 大丈夫⁉︎」
「ああ、大丈夫……」
「もう再生しますか。素晴らしい再生能力ですね」
それにしてもあいつ、中々にえげつない事をして来やがる。
呪いを付与した武器を転移魔法、乃至は転移に関するスキルで、直接俺の体の中に転移させて来た。
【空間の支配者】ってのはそういう事か。
体から抜いた剣を、スキルの《全アイテム鑑定》で確認するが、呪いは付与されていなかった。
「呪いは一度きりの使い捨てですよ。逆に利用されても困りますから」
「……そうか」
成る程。良く考えている。
一撃で殺せない場合もキチンと考慮済みとは、参謀というのは嘘では無いらしい。
まあ、別に疑っていた訳では無いのだが。
これは、手加減をしている余裕は無さそうだ。
《外見偽装》を解除し、ステータスを元に戻す。
装備はいつもの鎧では無く、動き易い軽鎧にしておき、武器も大剣から両刃の片手剣へ変更する。
そして《空間転移》の転移先を新たに1つ追加しておく。
「3つも魔族の特異器官をお持ちとは、恐れ入りました。――より、消しておく必要性が高まりました」
「奇遇だな。俺もだ」
翼も使い、全力でゼアルに接近する。
振り下ろす剣が当たる瞬間、目の前から姿が消える。
「やっぱりか。でも――」
ゼアルが現在位置から数メートル後方にいるのを《気配察知》で確認しつつ、《空間転移》を発動させる。
転移先は――『ゼアル・セーレの背後』
視界が一瞬にして切り替わり、俺の視界はゼアルの背中を捉える。
背後に転移した瞬間に、反射神経をフル活用して背中を斬り付ける。
「ぐっ!」
「転移はなにもお前の専売特許じゃないぞ」
スキル《空間転移》は設定した位置にしか転移が出来ないというデメリットがある。だがこれは、使い方によっては非常に強力なものになる。
分かり易いのは今のような“人を基準点として転移場所を設定する”方法だ。
このスキルは、特定の場所を転移場所に設定してしまうと、その位置にしか転移出来なくなってしまうが、『特定の人物の背後』など、その時々によって位置が変わるものを基準にして転移場所を設定すれば、その人物が何処に居ようと――例え自分自身が行った事の無い場所であろうと――その人物の元へ転移する事が出来る。
因みに、一度に設定可能な転移場所は通常最大10箇所。
既に『ユキの横』と『レイミアの横』そして『宿の部屋』に転移場所を設定済みの為、7つ空き枠がある。十分過ぎる数だ。
転移を使い、距離を取るゼアル。
再び《空間転移》を使って背後に転移し、背中へ剣を振るうが――。
「2度も食らう程馬鹿ではありませんよ?」
「だろうな――けど……」
そこでもう一度スキルを発動させ、背後に転移する。
「っ!」
だが、剣が背を捉える瞬間、ゼアルの姿が搔き消える。
――この程度で良いか。
「逃げてばかりじゃないか」
「……ええ、少々貴方の力を侮っていました。今のままでは勝てません。――ですので、ここは引かせて頂きます」
「たった1回攻撃を食らっただけでか?」
「その挑発には乗りませんよ。貴方は次、何処に転移するつもりなのですかね?」
「……バレてたか」
そう。俺は今、《空間転移》の転移場所をゼアルの背後だけでなく、左右、前、そして上にも設定していた。
先の3回の転移は、ゼアルに『俺は背後にしか転移出来ない』という虚偽の情報を掴ませる為のものだったのだが、流石参謀というべきか、無い知恵を絞って立てた作戦は読まれてしまった。
だが、読めたからなんだというのだ。
読めた所で、状況は何も変わらない。
「更に付け加えるなら、貴方の転移は事前に転移場所を設定する必要があり、その位置にしか転移は出来ないようですね。過去3回の背後への転移、転移直後の貴方の位置と、私の位置の相対距離が全て同一の距離、1.5メートルでした。貴方が逐一転移場所を決めているようには思えません」
戦闘中にそんな事まで確認していたのか。
敵を侮っていたのは俺の方だったのかも知れない。
「そうか……。だが、分かったところで状況は変わらないぞ?」
「そうですね。ですので、先程申し上げたように、ここは引かせて頂きます」
「逃がすかよ」
もう一度《空間転移》を発動させる――瞬間、《危険察知》が突然、俺に最大限の警鐘を鳴らす。
今転移しては、ならないと。
転移の先にあるのは勝利では無く、己の死だと、自身の持つスキルが最大限の力で教えてくれる。
今まで感じた事が無い程の恐怖を覚え、動きが止まる。
「賢明な判断ですね。それでは」
ゼアルの姿が消えると同時に吹き荒れる暴風。
風はすぐに止んだが、先程までゼアルが立っていた位置は、地面がごっそりと削られ、直径6メートル程のクレーターが出来ていた。
《気配察知》と《空間把握》を発動しゼアルの位置を探るが、もう既にスキルの効果範囲内には居なかった。
(逃げられたか……)
ゼアルの消失と共に出来たクレーターの中を確認すると、中央に1枚の紙が落ちているのが見えた。
拾い上げると、そこにはお手本のように綺麗な文字で、こう書かれていた。
『貴方の魔力、しっかり記憶させて頂きました。
いずれまた、必ずお会いしましょう。
それでは。』
魔力を記憶……? 一体どういう――。
「リウス!」
手紙の意味を考えていた所で、駆け寄ってきたユキに――速度的にはタックルだが――抱きつかれる。
その拍子に紙が手から離れる。
すると、その紙は光に包まれ、粒子となり消えてしまった。
「ユキ……?」
「心配したよ……! もう……」
「……ごめん」
初手、俺は敵の攻撃で心臓を貫かれた。そして血まで吐いていた。
その上で、ゼアルと戦っていたのだ。
傷が治ったとは言え、心配されるのは当然か。
ユキは俺のように敵のステータスを見る事が出来ないので尚更だ。
「ご主人様! ご無事ですか⁉︎」
遅れてレイミアも駆け付けてくれた。
「大丈夫。問題無いよ」
「そうですか……」
ホッと胸を撫で下ろすレイミア。
未だ抱き付いたままのユキの頭を撫でる。
「本当に、大丈夫だから」
「……リウスが、死んじゃったらどうしようって……」
「俺は簡単には死なないよ」
「うん……。でも、怖かった……」
「……ごめん」
……もっと、強くならなければな。
俺なら絶対に大丈夫だと、ユキが安心出来る様になるまで。
一頻りユキを慰め、次の問題へ思考を切り替える。
視線の先にはミーアさんと複数の冒険者達。
――さて、レイミアの事をどう言い訳するかね。
多分後2、3話でフェイルム編は終了です。




