第26話『ホント、どういう関係なの……?』
話自体は少し先まで考えてあるんですが、それを文字に起こすとなると、それはそれで時間が掛かるんですよね……。
宿を出て、先日の緊急任務の報酬受け取りと、レイミアの冒険者登録を兼ねて、俺達は冒険者ギルドへと向かっていた。
初めて見る王都に興味があるのか、レイミアは周囲をキョロキョロと見回しており、そのレイミアに対しては周囲から凄まじい量の視線が集まっていた。
「ゴスロリ服は失敗だったな」
「そうだね……」
透き通る様に白いが、決して不健康には見えない肌。
光を吸い込みそうな程に黒く深い色の髪。
作り物の様に整った容姿。
それらにゴスロリ服が加わり、まるで物語に登場するお姫様の様な風貌となっていた。
当然、目立たない訳がない。
レイミア自身も気付いてはいるのだろうが、気にしている様子は全く無い。
そんな事より街の方に興味があるといった感じだ。
「今度、王都を散歩でもするか」
「あ……してみたいです! 散歩!」
「じゃあ今日のお昼はどこかに食べにいく?」
「ああ、そうだな」
そんな会話をしている内に、ある事を思い出す。
「そういえば、ユキに聞きたい事があるんだ」
「なに?」
「俺が魔人の姿になっている時、目が変わってるのって気付いてたか?」
「うん。気づいてたけど、それがどうしたの?」
やっぱり気付いてたんですか。
「なあ、俺の目って、いつからそうだった?」
「最初に森で会ったときからだよ?」
「……」
初めから……ですか。
「……リウス?」
「いや……その目を見て、変だと思わなかったのか?」
「え? 私は、別にそうは思わないかな。似合ってると思うよ」
「そ、そうか。なら良いんだ」
指摘しなかったのは、ユキ自身も気にしていなかったからのようだ。
とはいえ、人前では気を付けるべきかも知れないな。
それから暫く歩いていると、周りの建物より一際大きい冒険者ギルドの建物が見えてきた。
「あれが、冒険者ギルドですか?」
「ああ。いつ見ても本当大きいな」
「冒険者ギルドはどこもあの規模なんですか?」
「ううん。ここは王都だから普通より大きいみたい」
冒険者ギルドに近付くにつれ人が多くなっていき、それに比例して向けられる視線の数も増えていった。
それらを極力無視しつつ、冒険者ギルドへ向かう。
ギルドに到着し中へ入ると、先程同様視線を向けられる。
1人がこちらに気が付けば、その周りの人物もこちらに目を向け、そのまま倍々ゲームの様に視線が増えていく。
フィレストのギルドに初めて入った時も視線を向けられたが、フェイルムのギルドは規模が違う。
規模が違えば人数も違う。その為向けられる視線の数もフィレストとは比べ物にならない。
その場にいる殆どの人間がこちらを向いている光景に思わず歩みを止め掛けるが、なんとか足を動かす。
「早く受付に行くか……」
「そうだね……」
そそくさと受付に向かいミーアさんを探すが、今はいない様で見つける事が出来なかった。
他の受付の人に話し掛けると、ミーアさんを呼んでくるとの事なのでお願いし、受付で待つ事にする。
周りの冒険者からはザワザワと騒めきが聞こえ、その会話の内容は専らレイミアの事だった。
「まさかここまで注目されるとはな」
「その……すいません……」
「レイちゃんが悪いわけじゃないよ」
「注目されるのも最初だけだ。気にすることない」
暫く受付で待つと、奥からミーアさんが歩いてくる。
こちらの姿が見えたのか少し歩みを速めるが、俺達と並んで立つレイミアの姿を見て「あれっ?」という表情を浮かべる。
「こんにちは、ミーアさん」
「こんにちはリウス。報酬受け取りに来たんだね?」
「ああ。今大丈夫か?」
「大丈夫だよ。――ところで……そっちの女の子は?」
やっぱり聞いてきますよね。
「新しくパーティに加わる事になったレイミアだ」
「レイミア・クローフィです。よろしくお願いします」
「レイミアちゃんだね。よろしく〜」
「それで、後でレイミアの冒険者登録もしたいんだけど」
「うん、分かった。――じゃあ、報酬の受け渡しだけど、個室の方が良いかな?」
「そうだな。そうしてくれ」
そんな訳で向かうのは、最早お馴染みとなった応接室。
そこに通され待つ事十数分。大きめの布袋を手にミーアさんが部屋へ戻ってきた。
「お待たせ〜。これが今回の報酬です」
ドスンとテーブルの上に置かれる大小の布袋。大きな袋は人の顔ぐらいの大きさがあった。
これまた幾らあるんですかね。
「任務達成報酬、魔物討伐報酬、緊急任務受諾報酬、その他込み込みで“612万5900ガルン”です」
「「「…………」」」
「任務達成報酬、魔物討伐報酬、緊急任――」
「いや、聞こえなかった訳じゃないから。もう一回言わなくて良いから」
こりゃまた凄い額ですね。
ただこれでも「そんなもんか」と心の何処かで思ってしまうのは『炎神の化身』の1件があったからだろう。
俺の金銭感覚もそろそろマズイかも知れない。
無駄遣いをしている訳ではないが、手元にあれだけの額の金があると、段々と感覚は狂ってくるものらしい。
因みに、宿代もそこそこの値段なのだが、今回の収入でこの街に着く前より所持金がプラスになったのは俺だけが知っている事だ。
「この大きな袋が金貨で612枚。小さな袋が銀貨と銅貨で、銀貨5枚、銅貨9枚だよ」
「……凄い額だな……」
「緊急任務だからね。これぐらいは普通だよ」
「そ、そうか……」
緊急任務がそもそも普通ではないと思うのだが、そこは突っ込まないでおく。
「取り敢えず、ありがとな」
「いえいえ、こちらこそありがとう。流石Sランクって感じだったよ」
テーブルの上の袋を受け取り、アイテムボックスに仕舞う。
ミーアさんはかなり驚いた表情をしていたが、「魔法です」の一言で片付けさせてもらう。理屈とか無いんですよこれ。出来るから出来るんです。
因みに、つい最近知った事だが、本当に収納に使える魔法は存在するので嘘では無い。レイミアも使えるらしく昨日見せて貰った。
尤も、珍しい魔法である事に変わりは無いが。
「さて、それじゃあレイミアの冒険者登録もついでにお願いして良いか?」
「うん。そのつもりだったから紙はもう持ってきたんだ。レイミアちゃん、読み書きは出来る?」
「はい。大丈夫です」
「それじゃあ、必要事項の記入をお願いね」
レイミアの必要事項記入が終わるのを待っていると、レイミアから念話が送られてきた。
『ご主人様』
『ん、どうかしたのか?』
『いえ、その、年齢記入の欄があるのですが……』
『ああ。95歳とは書けないしな……。14歳で良いと思うぞ』
『畏まりました』
レイミアの容姿は14歳にしては大人っぽく、20歳にしては――この世界は15歳で成人だが――まだ幼いといったところだ。
別に14歳でも問題は無いだろう。
レイミアが記入に戻ったところで、今度はミーアさんが口を開く。
「ところで、レイミアちゃんはどれぐらいの実力があるの?」
「気になるか?」
「そうだね〜。リウスとユキちゃんはSランク冒険者だから。やっぱり気になるよ」
「そうか……。なあ、Aランク冒険者の平均レベルとか分かるか?」
「Aランク冒険者は幅が広いからね……。平均で60ぐらいで、高くて150ってところかな」
「なら、レイミアは少なくともAランク冒険者以上だな」
「そ、そうなんだ」
「記入、終わりました」
そんな事を話している内に、レイミアは記入が終わったようだ。
「……うん。全部記入してあるね。魔法の確認は……この際良いかな」
「えっ、良いの?」
「うん。ユキちゃん達の仲間なら信頼が置けるからね」
「案外審査緩いんだな……」
「私が問題無しって判断したから良いの。でも、ランクはFからなんだ。ごめんね?」
「いや、構わないよ」
「それじゃあ、ギルドカードを持ってくるから、少し待ってて」
そう言って少し駆け足で部屋を出て行くミーアさん。
数分後、ギルドカードと冒険者に関する規約が書かれてある冊子を持ったミーアさんが戻ってきた。
「お待たせ〜。これがギルドカードね。こっちの冊子にも目を通しておいて」
持ってきた物をレイミアに手渡し、席に着く。
――ん? そういえば……。
「ふと気になったんだけど、使わなくなったギルドカードってどうしてるんだ?」
「基本的には全部溶かして作り直しかな。上位の冒険者のギルドカードほど貴重な金属だから、毎回別に作るわけにもね」
「じゃあ、このSランクギルドカードって、すごく貴重な物なんじゃない?」
「うん。それ1枚で300万ガルンぐらいかな」
「……は?」
「……え?」
このカード1枚で、300万……?
因みに、この世界の一般家庭は金貨3枚もあれば一ヶ月暮らしていく事が出来る。
単純計算で、金貨が36枚もあれば1年暮らせる訳だ。
そんな世界で300万、金貨300枚というのは、はっきり言って異常な金額だ。
そんな貴重な金属を身分証明書としても使うギルドカードに使っている『冒険者ギルド』という組織は、俺が思っている以上にとんでもない組織なのかも知れない。
そんな事を俺が考えている間に、レイミアは冊子を読み終わったようだ。
「さて、これで冒険者の登録は完了だよ。直ぐに依頼受ける?」
「そうだな。レイミアのランクも早いうちに上げておきたいし」
「ランクってそんなに気軽に上げられるものじゃ無いんだけどね……。じゃあ、依頼受注は受付でお願いね」
「了解した」
「ありがとね。ミーアさん」
「ありがとうございました」
「いえいえ〜。こちらこそ」
「じゃあ行くか」
「うん」
「はい。ご主人様」
話を終え立ち上がろうとした、その時。
「……ご主人、様……?」
「あ……」
「ホント、どういう関係なの……?」
白い目で俺を見つめるミーアさん。
それもそうだ。今の俺は端から見れば、“年齢15そこらの少女に自分の事をご主人様と呼ばせている様に見える”のだから。
「あ、いや、これはな……」
その後、幸いミーアさんの誤解は直ぐに解けたが、あの感情が抜け落ちたかの様な顔のミーアさんを、俺は一生忘れる事は出来ないだろう。
1話書くのに1日掛かるのを如何にかしたい。




