第25話『俺の従者になってくれないか?』
主人公の使えるスキルは全て決まっているんですが、全部登場するのかは分からないです。
「おはようございます」
「ん。ああ、レイミア。おはよう」
俺が起きてから約30分。ユキより先にレイミアが起きてきた。
俺の起床時間は、何も無ければ毎日決まって朝6時。ユキの起床時間は遅くて大体7時半ぐらいだ。
朝起きてから俺が何をしているのかというと、特にする事が無い場合、アイテムボックスから武器やらアイテムやらを取り出して性能を再確認したり、ただ眺めたりしている。
若干コレクターの気がある俺からすると、ただ眺めているだけでも割と楽しかったりする。
「それは武器、ですか?」
「ああ、見た目重視の物だから性能は大した事無いけどな」
俺が今持っている短剣は、綺麗な彫刻こそ施されているものの、性能は大した事は無い。所謂観賞用ってやつだ。
「そういえば、レイミアは何か武器を使ったりするのか?」
「普段は素手ですね。たまに短剣を使うぐらいです」
「そうか」
普段から武器を使うなら何か渡しても良いかと思ったんだが。
「それに武具は自分で作れるので」
「作る? ――って昨日の棺桶みたいにか?」
「はい。――お見せしましょうか?」
「興味あるな……見せてくれ」
「畏まりました」
手を握り、腕を前へ突き出すレイミア。
握り締める手から血が滴り、床に血溜まりを作る。
直径50cm程度の血溜まりが出来たところで、レイミアがそこへ手を沈める。
「《武具顕現》短剣」
血溜まりから腕を引き抜くのに合わせ、血溜まりから剣が引き抜かれる。
血溜まりが全て短剣へと形を変え、床には一切の血は残っていなかった。
「……凄いな。それがたまに使うっていう短剣か?」
「いえ、これはまた違います。いつも使う物は血をたくさん使うので……」
「今は無理なのか?」
「今は血が足らないので……」
「そうか」
まあ81年血を吸ってない訳だからな。使えなくても無理は無いか。
「ちょっと見せてくれるか?」
「どうぞ」
レイミアの血で出来た短剣を受け取る。
見た目も触った感触も、とてもこれが血で出来ているとは思えないものだった。
便利――だと思ったが、俺も魔法で剣ぐらい幾らでも作れる事を思い出す。
改めて自分の能力のチートぶりに呆れつつ、その短剣をレイミアに返す。
剣を受け取ったレイミアがそれを血液へと戻す。
そしてその血は皮膚に吸収されるように消えていき、手には一滴の血も残っていなかった。
「何ていうか……本当凄いな」
吸血鬼の能力に感嘆していると、ガチャという音と共に寝室の扉が開き、眠そうな顔をしたユキが出てくる。
「おはようユキ」
「ん……おはよぉ……」
「お、おはようございます……?」
そしてそのまま洗面所へ向かうユキ。
「あ、あの、ご主人様……」
「ユキの雰囲気が違う、か?」
「は、はい」
「朝はあんな感じなんだ。顔洗えばいつも通りになるから」
少しして洗面所からユキが出てくる。
「おはよう。リウス、レイちゃん」
「ああ、おはよう」
「おはようございます、ユキ様」
本当この変わりようは、洗面所の中で人が入れ替わってるんじゃ無いかと思ってしまう程だ。
「それじゃあ、朝ご飯作るね」
「私も何かお手伝いします」
起きて直ぐキッチンへ向かうお馴染みの光景に新たな変化が加わり、「レイミアの手料理を食べられる日も、そう遠くないかもな」と、そう思った。
◇◇◇◇◇
朝食を食べ終え、食器の片付けも済ませた俺達は、部屋のリビングに集まっていた。
俺が食事中に「後で話がある」と言った為だ。
「それで、話ってなに?」
「俺の新しいスキルについてなんだけどさ」
そう言って、2人にも見えるようにメニュー画面を表示させると、レイミアが少し驚いた様な顔をする。
「ご主人様もステータスを表示出来るんですね」
「ああ、レイミアも出来るのか?」
「はい」
アレインさんの話では表示出来る人と出来ない人がいるとの事だったが、その差は何なのだろうか。
そんな事を考えつつも、一旦疑問を棚上げし、メニュー画面を操作して目的のスキルを表示させる。
「これ、読んでみてくれるか?」
「主従……契約?」
「……ユキ様、これを読めるんですか?」
「え?」
「あ、そうか」
俺のメニュー画面は全て日本語で書かれている。それはこの世界に来てからも変わっていない。
レイミアが読めないのも当たり前だった。
「こんな文字、見た事ありません。なぜ読めるんですか?」
「あー……」
レイミアの口調は単純に疑問だったから聞いている、という感じだった。
ここは誤魔化すべきか、正直に話すべきか……。
「話しても良いんじゃないかな?」
「そう、だな。隠す理由も無いか」
変に隠しておくより話してしまった方が良いだろう。これからする話にも全く無関係では無いだろうから。
「……ご主人様?」
「えっと、信じられなくても構わないんだが、単刀直入に言うと俺達は異世界人だ」
「異世界人……?」
「ああ、この文字は俺達が元いた世界にある国で使われている文字だ」
「そうなんですか」
そして少し思案顔になるレイミア。
「……なら、ご主人様が魔族の特異器官について知らなかったのも頷けます」
「あ、ああ。そういうことだ」
恐らくレイミアがその結論に辿り着いたのは、俺が元いた世界では人間だったと気付いた訳では無く、元いた世界では魔族が角や翼がある事が普通だと勘違いした為だろうが、まあ今はどうでも良い。
というよりユキに俺の目に関する事を聞いていないが……今は後回しだ。
「まあそんな訳だが……話戻すぞ?」
「すいません。中断してしまって」
「いや、良いんだ。これからも気になる事があったら言ってくれ」
「分かりました」
思いの外あっさり異世界人だという事を受け入れられたな。
まあこちらとしては願ってもない事なんだが。
「それで、スキルの話だったよね? 主従契約……だっけ?」
「ああ。あの洞窟内の戦闘でレベルが400を超えたんだ――」
「れ、レベル400⁉︎」
驚きの声を上げたのは勿論レイミア。
ユキは俺がレベル399だった事を知っていた為か、少し驚きはしたものの、声に出す程では無かったようだ。
「ほ、本当、ですか……?」
「い、異世界人って事を明かされた時より驚くんだな……」
「当たり前ですよ! レベル400なんて聞いた事もありません!」
「そ、そうなのか」
異世界人はよく聞くのだろうか、なんて疑問が頭を過るが、アレインさんも大して珍しくないと言っていたしな。
この世界でいう異世界人は、感覚的には“プライベートの芸能人を街で偶然見かける”程度のものなのかも知れない。
「でも、そうですよね……。レベル400近くなければあの魔物は倒せないですよね……」
「まあ、そういう訳だ。話戻すぞ?」
「はい。すいません……」
「気にするな。――で、俺がレベル400を超えた事で覚えたのが《主従契約》ってスキルなんだが、ちょっと面白そうな効果があってさ」
「面白そう?」
「これ、見てくれ」
【主従契約】
・このスキルは主従関係となる者同士の同意がなければ発動する事は出来ない。また、スキルは発動者の意思によって解除する事が可能。
・スキル発動者は従者となった者のステータス、スキルを確認出来るようになる。
・従者となった者はスキル発動者に対して一切の危害を加える事が出来なくなる。
・スキル発動者は従者となった者に対し、絶対遵守の命令を与える事が可能となる。
・このスキルの効果を受けている者同士は念話による会話が可能となる。
レイミアにも口頭でこのスキルの効果を説明する。
「俺が面白そうだと思ったのは、この最後の効果」
「念話による、会話?」
「そう。所謂“テレパシー”なんじゃないかと俺は思ってる」
「それって……」
「レイミアが元魔王と連絡に使っていたのも、こんな魔法だったんじゃないか?」
「そう、ですね」
発動に関しての制限はある上、従者となった者は俺の命令を拒否出来なくなるというデメリットはあるが、テレパシーでの会話はかなり便利な上、俺個人としても興味がある。
「それでなんだが……レイミア」
「はい……?」
「……俺の従者になってくれないか?」
◇◇◇◇◇
「私が……ですか?」
「ああ」
「ユキ様ではなく……?」
「なんというか……ユキを従者にするのは気がひけるというか、な……」
「そういうことですか……」
そこで一旦言葉を区切るレイミア。
「スキルの性質上強制は出来ないし、するつもりもない。拒否しても俺は責めないし、変わらず旅にも連れて行く。絶対遵守の命令もするつもりは無い。……どうする?」
このスキルの発動には従者となる者、今回の場合、レイミアが俺を如何に信頼出来るかが重要だ。
俺達が異世界人だとレイミアにバレて――隠していた訳では無いが――しまったのは全くの偶然だが、それでも真実を伝えたのは、このスキルの話をしようとしていたからだ。
その上、このスキルを使いたいのは完全に俺の興味だ。
出会ってまだ1日しか経っていないこの俺を、如何に信頼出来るか。
出会ってたった1日で、俺に一切危害が加えられない様にされた上、絶対遵守の命令すら下される可能性があるスキルを発動させようとしている俺を、果たしてレイミアは、如何に信頼出来るのか。
「…………分かりました」
「……良いのか?」
「はい。元々私はご主人様に仕えるつもりでしたから。それに、“何か”するつもりであったなら、機会は今までに幾らでもありました。今更、ですよ」
そう、笑みを浮かべて返すレイミア。
その答え自体は非常に嬉しいのだが、レイミアが『何か』という言葉を大分意味深な言い方で言った気がしたのは気のせいだろうか。
……いや、寝込み襲ったりなんかしませんよ? 衝動的にしたりも無いですよ? 毎日ユキと隣で寝ている俺の精神力を舐めてもらっては困る。
まあユキとはただ寝ているだけでは――ってそんな事はどうでもいい。
「……そう。そうか。ありがとな」
「いえ。それに私も念話は気になるので」
「じゃあリウス、早速やってみたら?」
「そうだな。レイミア、ちょっとこっちに来てくれるか?」
レイミアと向かい合い、スキルを発動させる。
《主従契約》
すると、手に何やら暖かいものを感じる。確認すると手には白い光が灯っていた。
「この光にレイミアから触れてくれ。それで初めて発動するみたいだ」
「……分かりました」
俺の右手にレイミアの右手が触れる。
その瞬間、手が光に包まれ、それが消えるとレイミアの手の甲には、蒼く光る紋様とも魔法陣とも取れる図形が浮かんでいた。
そして俺の手にも紅い同じ形の図形が浮かび上がっていた。
「成功、みたいだな」
「じゃあ、これで?」
「ああ、念話も出来るはずだ」
と言ってもやり方が分からない。
なので手始めに、声に出さずレイミアに頭の中だけで話しかける。
『レイミア、聞こえるか?』
「わっ⁉︎ ……これが?」
「多分な。俺にもやってみてくれ」
レイミアが目を瞑り、少しの時間の後。
『き、聞こえますか?』
『ああ、聞こえてるぞ』
頭に直接レイミアの声が響いてくる。
自分で自分の声が聞こえない為、自分がちゃんと言葉を発しているのか分からないが、慣れるしかないか。
取り敢えず、成功だ。
「……ねぇ、リウス」
「どうした?」
「えと……私はそれ、出来ないのかな?」
少し不満そうにそう答えるユキ。
だが、そこは抜かりない。俺にユキの事を除け者にするという選択肢は無い。
「いや、そこもちゃんと考えてある」
今回使うのは、レベル280になった時に覚えた《効果範囲強化》
文字通りスキルと魔法の効果範囲を強化する物だ。
強化方法は、発動者を中心に効果範囲を広げる様に強化する方法と、対象者を増やす様に強化する方法の2種類があるのだが、今回は対象者を増やす方法で《主従契約》に使う。
念話は《主従契約》の効果を受けている者同士が使える物だ。つまり、今俺が受けている効果をユキにも付与すれば、《主従契約》で従者にする事なく、念話が使える……筈だ。
「じゃあ行くぞ? ユキ」
「う、うん」
《効果範囲強化》
『聞こえるか? ユキ』
『わっ、こ、これがそうなんだね……なんか変な感じ……』
『そうだな。慣れるしかない』
レイミアは一度魔法で経験済みだからか、然程違和感は無い様だが、初めての俺とユキはまだ違和感しかない。
耳からでは無く、直接脳に伝わってくる声。言葉を発していないのに相手に伝わっているという違和感。
案外テレパシーというものは難しいのかも知れない。
「まあ取り敢えず、冒険者ギルドに行くか」
「そうですね」
『そうだね』
「……ユキ。今は普通に喋って良いぞ?」
『……早く慣れた方が良いかな、って』
「そ、そうか」
もうお好きにして下さい。
レベル400になった時に習得するスキルは《主従契約》にすると予め決めていました。
レイミアが登場する事になるとはその時は全く思って無かったんですけどね。




