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最強魔王の異世界放浪記  作者: 塩砂糖
第2章《眠りの吸血鬼編》
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第19話『アポカリプスのプレイヤー』

久々の日曜日以外の投稿です。

 十メートル距離を開け、向かい合う少年と俺。

 俺の装備はフードの無い黒のローブと単なる鉄の剣。ローブ自体の防御力も大したことは無い。着ている理由としては、シンプルなデザインと、黒色が好きということぐらいだろうか。

 それに対して少年の装備は白銀に輝く鎧に刀より刀身の太い曲刀。その刀身は光の反射だけでは説明が付かないほど光り輝いていた。

 何処かで見たような気がするが、それは思い出す事が出来なかった。

 装備の差は歴然。ただ負けてやるつもりなど無い。

 因みに《弱者蹂躙》などのスキルは解除してある。流石に勝ち目が無いのは勝負とは言えない。

 弾いた銅貨が床に落下する。音がしなかったのは、この施設の床が衝撃を吸収するよう出来ているからだろう。

 銅貨が床に着くとほぼ同時に少年が駆ける。

 俺は腕を下ろしたまま――いつでも攻防に転じれるよう警戒はしつつ――少年を見据え、確認するのを忘れていた少年のステータスを今更ながら確認する。

 スキル発動により、少年の情報が開示される。

 その少年の情報を見て色々な意味で驚愕する。

 その所為で一瞬攻撃への対応が遅れた。

 所謂上段の構えから振り下ろされる剣を間一髪、こちらも剣で防ぐ。

 受けた剣を弾き、後ろに飛び退く。

 俺のこの行動を見て、少年は勝機があると見たのか、口角を吊り上げていた。

 俺が見た少年の情報は、こう表示されていた。


【名前:大輔〈17〉】

【レベル:134】

【性別:男】

【種族:人間】

【職業:勇者】


 レベルの高さ――この世界基準――なんてものは目に入っていなかった。

 俺の意識は目の前の少年の名前にしか向かっていなかった。

 大輔……ってこれ完全に漢字だよな? それにもろ日本人風な名前だし。

 もし過去にこの世界に来た異世界人、もとい日本人が漢字を広め、現在も一部地域で使われており、この目の前の少年、改め大輔君がそこの出身であればこの様な名前でもおかしくは無いが――そんな可能性より遥かに高いものがあるよなぁ。

 結論。目の前の少年はアポカリプスのプレイヤーである。

 証拠、という程のものでは無いかもしれないが、職業が勇者というのもアポカリプスプレイヤーだという事を表していると言える。

 職業“勇者”はアポカリプスにあった四つのユニーク職の一つだ。

 この世界に今勇者はいないらしいので、十中八九彼はアポカリプスで勇者の職に就いた後、この世界に来たのだろう。

 そして今思い出したが、大輔君が装備している鎧や剣は勇者の職業専用装備だった様な気がする。職業専用装備といっても複数あるので確証は無いが。

 彼のレベルは134ではあるが、そこはユニーク職。流石というべきか、最上級職の134レベルとは比べ物にならないステータスだ。

 尤も、今の俺はユニーク職である魔王で、かつ399レベルな訳だが。

 と、そんな事を考えていると、再び大輔君が攻撃を仕掛けてくる。

 先程と同じ様に剣を振り下ろそうとする大輔君。

 だが流石に二度も同じ攻撃は通用しない。

 超至近距離に踏み込み、それなりの力で胴体に剣を叩きつける。

 踏み込みの勢いがそのまま乗った剣を受けた彼は、鎧の重量を感じさせないスピードで吹っ飛んでいく。


「ちょっと力強かったか?」


 十数メートル飛ばされた彼は施設の壁にぶつかり、その場に倒れた。が、流石にまだ戦える様で少々フラつきながらも立ち上がった。


「クソ……」


 彼にも今の一撃で俺に勝てないことは分かったはずだ。

 だがそれでも、降参の二文字は彼の頭には無いようだった。

 再び向かって来る彼を見て、俺は思った。

 彼は何故、この様な態度を取るようになったのだろうか、と。

 チラリと横目で、先程まで彼の後ろにいた女性達を見る。

 レベルは冒険者としては平均的な20レベル程度。おそらく彼女らはプレイヤーでは無いだろう。

 冒険者のパーティは基本的にレベルの近い、同程度の実力の者同士が組む事が多い。

 パーティメンバーとはお互いに命を預け合う関係だ。その為、実力に開きがあるとお互いを危険に晒す場合がある。

 いくら一人が強くとも、他のメンバーを守りながら戦い続けることは出来ない。それなら一人で戦った方がまだマシだ。

 だが例外もある。目の前の彼がいい例だ。

 レベル差のある者同士がパーティを組む理由。それはこの世界の環境に大きく関係がある。

 この世界において人間は食物連鎖の頂点に立つ存在では無い。

 魔物、魔獣、竜、悪魔、等々。人間の天敵となる存在を上げ始めればキリがない。

 今日は何処の村が魔物に襲われた、なんて話は毎週のように聞く日常的な出来事の一つだ。

 その為か、この世界の女性は強い男性に惹かれる傾向がある。自らの身を守ってもらう為だ。

 勿論、パートナーを選ぶ基準はそれだけでは無い。容姿や性格、その他の要素も選ぶ基準になるが、強さというのはその中でも重視される傾向にある。

 レベル差のある者同士がパーティを組むのは、大体がそういった理由だ。

 大方彼女らは、そういった理由で彼とパーティを組んでいるのだろう。

 そして、俺に剣で切り掛かって来る目の前の少年、大輔君。

 彼がこの世界に来たのがいつかは分からない。だが、彼はきっとこの世界で一人だったのでは無いだろうか。

 突然こんな異世界に飛ばされ、周りに知り合いや頼れる人も居らず、たった一人だったのだとしたら。そして、その世界において自分が圧倒的な力を持っていたら。

 彼は今十七歳。まだ子供だ。

 そんな何も知らない子供が圧倒的な力を手に入れた時、その力に溺れてしまうのは、ある意味仕方の無い事では無いだろうか。

 彼の側に誰かがいたなら。知り合いでは無いにしろ、同じプレイヤーがいたならば、何かが違ったかもしれない。

 だが彼は運に恵まれなかった。その点、俺は恵まれていた。

 この世界に来たその日に、同じプレイヤーであり知り合いだったユキと出会う事ができ、それからの出来事も今思い返せば恵まれていたと言える。

 そこまで思い至った時、彼――大輔君の事が少し不憫に思えた。それと同時に、その姿が過去の自分と一瞬重なった。自分の力があればどうにか出来ると思っている所が。

 勿論これは俺の予想に過ぎない。

 今ここにいないだけでプレイヤーの知り合いも居るのかも知れない。

 だが、今の俺にとってそんな事は関係なかった。

 もし今の彼が、周りの環境によって作られてしまったのだとしたら、彼の行動を、言動を、全て彼の所為にするのは、少し違う気がした。

 彼は自分の力に自信を持っている。自分より強者に会わなかったが故に。

 自信があるのは大いに結構。だが、それが無知が故の自信であれば話は別。

 無知は危険を招き、自信は時に身を滅ぼす。

 俺にそんな事をする義理は無いが、同じプレイヤーとして、同じ日本人として、彼に忠告をしようと思う。

 自分の力は絶対では無いと。

 未来の俺への、戒めの意味も込めて。

 幾度となく弾いた剣が、もう一度振られる。

 その刀身を《弱者蹂躙》を発動させ、素手で掴み取る。


「なっ……」

「悪いな。少し気が変わった」


 自分の剣を鞘に収め、左手で剣を掴んだまま、こちら側へ引き寄せる。


「何を――」


 そして、無防備な顔面に右ストレートを叩き込む。勿論、手加減してだが。

 引き寄せられた勢いと俺のパンチの勢いが乗った拳を顔に受けた彼は、剣を手放し先程と同じように飛んでいく。尤も、飛距離はほんの数メートルだが。

 再び剣を抜いて倒れる彼の元へ行き、首に剣を宛てがう。


「ひっ……」


 怪我をしないと分かってはいても、首に刃物を突き付けられれば恐怖もする。


「お前の負けだ」

「ま、まだ――ぐっ!」


 未だ立ち上がろうとする彼の胸を踏み付け、無理矢理寝かせる。


「諦めろ。お前じゃ俺には勝てない」

「……クソ、なんで俺が——」

「いいか。お前は確かに強いのかも知れない。だけどな、お前より強い奴も居るんだよ。俺みたいにな。俺より強い奴も、探せばいるかも知れない」


 そう。俺よりも強い奴も居るかも知れないのだ。

 色々条件が重なったとはいえ、一ヶ月もしない内に199もレベルが上がっている。

 俺達より先にこの世界に来たプレイヤーであれば、俺よりもレベルが高い可能性は十分にある。


「自分が特別だと思わない方がいい。今回は俺が相手だから良かったが、もし俺と同レベルの、悪意ある者が相手だったら今頃死んでいたぞ」

「……なんで、そんな事を俺に言うんだ? 目的は何だ?」

「……別に大した理由は無い。ただ……いや、ちょっとした同情心だよ。......さて、それじゃ降参してくれるか? 嫌ならこのまま剣で喉を刺さなきゃならないんだが――」

「わ、分かった。……俺の、負けだ……」


 こうして、俺の人生初対人戦闘は幕を閉じた。



 ◇◇◇◇◇



「期待なんかしてなかったけど、まさかここまで一方的とはねぇ」


 そう呟くのは赤い外套(がいとう)に身を包んだ男。

 目の前には映画館のスクリーンの様な物が浮いており、そこに映るのは白銀の鎧を身に付ける少年と、それを踏み付け、少年の首に剣を宛てがう黒いローブを纏う男。

 赤い外套の男が腕を横に振ると、スクリーンは跡形も無く消え失せる。


「だが、これだけじゃ少し情報が少ないな……」


 そう男が呟くとほぼ同時に、一人の女性が何もない場所から突如現れる。

 現れた女性が赤い外套の男に何か耳打ちをすると、男は「へぇ」と面白そうに相槌を打つ。

 男が指をパチンと鳴らすと、目の前に再びスクリーンが現れる。

 しかし、映されている光景はさっきとは打って変わって、暗い洞窟の中だった。

 大きな広間のような場所の中央にあるのは、成人男性が余裕で入れる程の大きさがある棺桶。

 映像が棺桶に寄っていく。

 そして画面一杯に映し出される棺桶。


「頼む」


 隣に控えていた女性に男が声を掛けると、画面に映し出されていた棺桶の蓋がゆっくりとずれていく。

 棺桶の中身を確認した男は楽しそうに笑いながら女性へ命令する。


「なるほど……。次はこいつにするか。それじゃ、準備の方は任せたよ」

「畏まりました」



 そう言って(うやうや)しく頭を下げた女性は、先程まで画面に映し出されていた白銀の鎧を来た少年。その後ろにいた三人の女性のうちの一人と全く同じ容姿をしていた。



 ◇◇◇◇◇



 大輔君との試合を終え、訓練場を後にする。冒険者ギルドは相も変わらず騒がしかった。


「依頼受けるって気分でも無いし……一回帰るか」

「ごめんね。私が突っかかったりしなければ――」

「いいよいいよ。結果的には戦って良かったと思ったし」

「……? どういうこと?」


 そうか。ユキはさっき戦った少年がプレイヤーだって気付いてないのか。


「帰ったら全部説明するよ」

「そう? 分かった」


 誰に聞かれてるかも分からないここでするような話でも無い気がするしな。――っと、その前に。


「少し何か食べて行かないか? ちょっとお腹空いちゃってさ」

「じゃあ、ギルドの食堂で少し摘んで行く?」

「そうするか」


 そうして俺達は少し早めの昼食を取り、宿へ戻る事にした。



◇◇◇◇◇



「それで、話ってなに?」

「ああ、あの少年の事なんだけどさ」


 ギルドから宿に戻ってくるや否や、ユキは早速質問をしてきた。

 俺は少年――大輔君と戦って気付いたことを全て話した。


「――そっか。じゃあ彼はプレイヤーだったんだね」

「ああ、俺達以外にプレイヤーがいないとは思って無かったけど、より確信が持てたな」

「ゲームのプレイヤー全員がこっちに来てるのかな?」

「んー。どうだろうな。アレインさんは異世界人はそこまで珍しくは無いって言ってたけど……。情報が少な過ぎるな」

「今の所共通点は全員ユニーク職って事だけだね。ユニーク職の人がこっちに来てるとかは?」

「無いとは言い切れないけど、それだけじゃ人数が少な過ぎる。あるとすればユニーク職は全員この世界に転移、それプラス他のプレイヤーも、って感じだろうな」


 なんにしろ、今は考えても答えは出ないか……。

 尤も、この世界に転移した理由が分かったところでどうしようも無いが。


「……なら、さ」

「ん?」


 ユキは何かに気が付いたのか、ポツリと呟く。


「二人も……こっちに来てるかな?」

「……来てる、かも知れないな」


 二人という曖昧な言い方だったにも拘らず、俺はその言葉が差している人物が誰か、すぐに思い至った。

 俺とユキはゲーム内でパーティを組んでいた。だが、二人だけかと問われればそうでは無い。

 俺とユキ以外に二人、パーティを組んでいた仲間がいた。

 種族は二人とも人類種の男性アバターでゲームをプレイしていた。これも確認したわけでは無いが、チャットの口調や一人称が“俺”だったことからして、どちらも男性だったと思う。

 そして、俺やユキと同じようにユニーク職“勇者”に就いていた。


「いつか、また逢えるかも知れないね」

「……そうだな。また、逢えると良いな」


 嘗ての友人。顔も本名も知らないが、現実の、リアルの知り合いより、遥かに親しかった彼らを思い浮かべながら、俺とユキはゲーム時代の思い出話に花を咲かせた。

さて、ここから展開どうしようかな。

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